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第59話:打ち上げよ【〃】

前回のあらすじ!

体育祭振り返り。

「しかし、いいのかなぁ」


 体育祭から3日後、金曜日の放課後――。

 道中で、打ち上げ会場の焼肉店の住所を調べていると、途中バッタリ合流した巴さんが、申し訳なさそうに呟いた。


「何がー?」

「ほら、私、当日休んじゃっただろう? それで打ち上げ参加して良いのかなってね」


 そう言う巴さんは、なんとも複雑な表情をしていた。


 彼女は当日、具合を悪くした家のネコさんを病院に連れていく為、体育祭を欠席していた。僕含め、クラスの皆は一切気にしちゃいないが、彼女は未だ負い目を感じているらしい。

 だが、それも仕方ない事と言える。彼女はクラスきっての身体能力から多くの種目に参加予定だったのだ。僕が彼女の立場だったら、きっと引きずる。

 とはいえ、いつまでも罪悪感を抱かれていては、僕らも巴さん自身も気まずい事この上ない。彼女には無理くりでも前向きに捉えてもらおう。


 そうだ、巴さん。巴さんって、焼肉は行ったことある。


「うん? 何度か来たことあるけど、それがどうかした?」


 だったら、焼肉屋さんでの動き方を教えてくれないかい? 僕、集落育ちで外食経験ないようなもんだから、色々知りたいんだ。


 巴さんはぱちりんこ、と目を瞬かせると、ふっと微笑んだ。


「私で良ければ、同席しようか?」


 わぁい。ありがとう。

 巴さんの緊張がちょっとだけ解れたのを確かに感じなら、僕らは藹々と歩いた。


 その途中で、巴さんから嘆きの声が上がった。


「しかし、福多くんは残念だったね。打ち上げに参加できないだなんて……」

「仕方ないよー。家の手伝いが重なっちゃったんだしー」


 時生くんは本日欠席だった。茶之助くんが打ち上げを提案し、自ら幹事に名乗り出てくれたのだが、クラスERINに団体予約日が送らさってくるなり、『その日はゴメンナサイなのさ(土下座する肉団子のスタンプ)』と返信してきたのだ。『なら変更してもらうわ』と茶之助くんは言ったが、『予約変更もコロッケだろうから気にせず行ってくれなのさ(めんどくさそうにコロッケを揚げるコロッケのスタンプ)』と返してくるものだから彼の意見を呑むしかなくなったのだ。


 だから、巴さんが気にする事じゃないと思うよ。


「だからこそさ。彼も功績者の一人に間違いないからね。欠席してしまった分、せめて労ってやりたかったんだが」

「だったら、来週、ジュースなり食堂なりで、奢ろうよー」

「お、良いねそれ。採用♪」


 そうしよう塩コショウ。

 巴さんが良い塩梅を見つけられて、良かった良かった。



 ◇ ◇ ◇



「いらっしゃいませェ。て、おや。木下くんと桐山さんなのさ」


 13分後、焼肉店にて――。

 なんと、訪れた僕ら三人を出迎えてくれたのは、店員姿の時生くんだった。


「あれー? トッキーだー」


 エッちゃんは不思議そうに時生くんを指差した。

 が、僕がへし折る素振りを見せると、静かに指を引っ込めた。本日は勘弁してやろう。


「あっはっは。二人は仲良しさんなのさ」


 時生くんは朗らかな顔でのらのら笑う。

 それよりも、どうして此処に? うち、バイトOKだったっけ?


「高校以下はNGだったはずなのさ」

「だったらどうしてスタッフ姿なんだい?」

「それは此処が僕の家だからさ」


 真に〜?


「真なのさ。店名を見れば分かるのさ」


 一旦外に出て、改めて看板を見上げると――『焼肉フクタ』と飾られていた。成る程。意識してみれば直ぐに連想できる店名だった。


「お父さんが大の焼肉好きでね。第二の人生にと言って、下積み修行の末に家を大改装大増築したのさ。宴会会場は土地の都合上二階なのさ」


 道理で外から見たとき二階があったわけだ。店舗にしては珍しいと思った。

 じゃあ、今回参加出来なかったのも、家の手伝いがあったからなんだね。


「その通りなのさ。普段はスタッフさんが居るけど、宴会予約がある日はヘルプで入るのさ。その宴会が君たちだったと今日気付いたのさ」


 なるほどんぐり。


「納得串焼きで何よりさ」

 と、高次元の会話劇を繰り広げていると、厨房から大柄ふくよかおじさんが現れた。


「おーい、時生。次の注文行ってくれー」

「はいなのさー。それじゃ、僕はこれにて――」

「ん? なんだ時生。その子ら、もしかして友達か?」

「そうなのさ。僕のクラスメイトさ」

「おう、そうだったのか。どうも御三方。時生の父です。倅がお世話になってます」


 こんばんは。木下竹太郎です。初めての焼肉店です。


「桐山永利です。小学校以来の焼肉店です」

「加藤巴です。本日はよろしくお願いします」

「おぉ。うちを初の焼肉店に選んでもらえて何よりだ。心ゆくまで楽しんでってくれ。連れは二人で大丈夫かい?」


 いえ。宴会予約です。


「宴会予約? ……宴会予約⁈ 時生お前、今日の団体予約ってまさか!」

「僕のクラスなのさ」

「なんだ、それならそうと言ってくれよ。……よし、時生。二人を案内したら上がれ。そんでクラスと合流しなさい」

「良いのさ?」

「学校の思い出を作ってやれないで父親は名乗れねぇよ。ホールは父ちゃんたちでどうにかすっから楽しんでこい!」

「わぁい⸜(*´꒳`*)⸝」


 時生くん、良かったねぇ。


「良かったのさ。それじゃ、最後のお勤めをしっかり果たさせてもらうのさ。三名様、ご案内なのさー」


 時生くんに連れられ、二階へと上がり、宴会予約室の扉に手を掛ける。

 すると、ちょうど幹事の茶之助くんが一手早く開けて出てきたのだ。


「お、お三方お疲れ! おーい、残り三人来たぞォ! 注文よろしくゥ‼」


 中から「う~い」と返ってきた。


 やぁ、茶之助くん。僕らが最後みたいだけど、席は何処が空いてるんだい?


「ちょい待ってな……今なら志桜里のとこが空いてるぞ。六人席だけど三人で固まってるんならそこが狙い目だな。まぁ、適当に座ってくれトイレ行きたい」


 うわぁ、ごめん。


 一階へと走り去る茶之助くんと入れ替わりで、今度こそ宴会予約室に入る。

 中は畳を敷き詰めた座敷だった。畳育ちとしては落ち着けてありがたい。

 その端の席では、件の志桜里さんがぼんやりと本を広げていた。


「うい~」

「ぶぎゃあ」


 エっちゃんが早速ダル絡む。不意に寄りかかられた志桜里さんは押し倒された。

 流石はエっちゃんだ。僕なら相手が何かしていたら切りの良さそうな雰囲気まで待ち続けるところをなりふり構わない傍迷惑行為、絶対真似したくない。


 現に、志桜里さんはすごく嫌そうな顔だった。


「しおりん、おっすー」

「ちょっと桐山さん。ページ分からなくなっちゃったじゃない」


 ああほら、やっぱり。

 志桜里さんが読んでいた本は、手から離れてしまっていた。


「ごめんごー」とエっちゃんが巴さんに回収されるのを待ってから、志桜里さんは起き上がった。


「全くもう……桐山さんはもう少し状況把握してから襲撃(かちこ)こみなさいよね」

「した上でだよー」

「わぁ悪辣」


 まぁまぁ志桜里さん。ページ開いといたから勘弁してもろて。


「そして木下くんは何でピンポイントに開けるのよ」


 傍から見えた開き具合と角度。

 ところで――、どんな本なんだい?


「予測打ちが神の領域なのよ。まぁ、いいわ。異世界転生した茶道家が茶文化を広めるって話。気になるなら茶之助に訊いてみようか?」


 茶之助くんの本なんだ。

 名前と云い、入学初日の抹茶フラペチーノと云い、その本と云い、茶之助くん、抹茶好きなのかい?


「好きなのは勿論だけど、家柄が大きいわよね、あいつの場合」


 家柄って?


「そっか。木下くんは知らないのか。あいつの家、茶道家なのよ。何代か前の総理大臣にも振舞ったことがある、権威ある家よ」


 じゃあ、近い将来、茶之助くんが当主とかになってるかもね。


「かもね。本気で継ぐ気でいるみたいだし」

「なんだなんだ。何の話してるんだ?」


 と、ここで茶之助くんがお手洗いから戻ってきた。

 もんじゃもんじゃ。ちょうど茶之助くんの話をしていたんだよ。


「え? オレの話? どんな話? 自慢話?」

「どうしてそんなお調子者に育ってしまったんだって嘆き話よ」

「突然の辛辣!」

「そうだ新田くん。福多くん、手伝いが終わり次第こちらに合流するそうだ」

「おお、じゃあ、福多はオレらんとこに座ってもらうか。ところで加藤はどうして桐山ヘッドロックしてんの?」

「桐山くんが大谷くんにちょっかい掛けさせないためさ」

「おい桐山……おちょくるなら山手線ゲームでうわぁ本の角で殴る振りィ‼」

「ばらしてんじゃないわよ、サノォ‼」


 志桜里さんは山手線ゲームが頗る弱いらしい。

 あと、荒ぶると〝サノ〟呼びっぽい。


「そうなのよぉ。小学校の中学年から名前呼びになっちまったんだ。照れ隠しかねぇて本の武器化反対‼」


 やめなよ志桜里さん。本が可哀想だよ。


「それもそうね。ごめんなさいね、本」

「オレは⁉」


 新田茶之助くんだよ。


「合ってるけどそうじゃない‼」


 まぁまぁ茶之助くん。それよか焼肉の話をしようじゃないか。折角の焼肉なんだから。


「それよかはこっちの台詞だよ! 良いけどさ! 木下はどんな肉好き? オレ牛タン塩と豚トロ」


 焼肉自体あまりしないから分かんないや。焼肉屋さん自体初めてだし。


「あらら。木下ん家は魚派なんか?」


 基本そうだね。県外旅行で食べる所も大概寿司屋さんだし。


「じゃあさ、寿司ネタは? オレネギトロ絶対食う」


 炙りエンガワ。


「うわぁそれも正義! 加藤と桐山は?」

「私はそうだな……鯵とか光り物を好んで頼むかな」

「あぁ最高! ちょい乗せ生姜とのマッチがな!」

「わたしはブリかなー」

「天才! センス抜群!」

「しおりんはー?」

「アナゴね。あと焼肉屋さん来てるんだから焼肉の話で頑張りなさいよ」


 だってよ茶之助。


「裏切り者‼」

「しおりんってさー。茶葉丸には当たり強いよねー」


 茶葉丸とは、エッちゃんが付けた茶之助くんの愛称である。彼女以外誰も使わない。


「だって茶之助だもの。こいつには辛辣くらいがちょうど良いのよ」

「泣くぞオレ?」

「泣きなさい」

「ひぃん」

「でも、辛辣だったら名前呼びなんてしなくなーい? ……あー。もしかしてしおりん、ツンデレってやつー?」

「はい?」


 うわぁ、すごく嫌そう。


「漫画で読んだよー。ツンデレって信ら──」

「はーい桐山くん一緒に御手洗いに行こうねー」

「いやーん」


 何を思ったのか巴さんは、エっちゃんを引きずって部屋を立ち去ってったとさ。

 ──が、直ぐに戻ってきた。

 その後ろには、時生くんがいた。


「お肉お待ちどおさまさァ!」

「わぁぁぁああい!」


 皆が大はじゃいだのを皮切りに、続々とお肉プレートが運ばれてきて、次々と各席に陳列されていく。


「全席届いたな。それじゃあ曾我部、挨拶よろしく!」


「任されよ!」

 と、音頭くんがジュースを片手に前へ出る。


「皆さん、体育祭お疲れ様でした。目の前の肉に夢中だと思うので手短に終わらせます。紅組一年三組、『一年の部』ほぼ全てを手中に収めた健闘を称えましょう! 乾杯‼」


「「「カンパァイ‼‼‼‼‼」」」


 クラス一斉にコップを掲げて、各席で自由に肉を焼き始める。


 僕も早速、カルビを一枚焼いてみて、もっさもっさと食べてみる。

 ぽぅわぁ……!

 美味ぁい。

 こんなに美味しいものがこの世にあったとは。市販のものとは訳が違う濃厚さに咀嚼が止まらない。


「木下くん。もっと美味しい焼き方を伝授してみせよう」


 真に~?


「真の真~」


 巴さんはトングを取ると、カルビを一切れ、サッと敷いて、シッと返して、スッと皿に移してくれた。焼いて取り上げるまで随分早い。


「どうぞ、ご賞味ください」


 では、食べてしんぜよう。

 モッソレ、モッソレ……。

 てゅうあ~……‼

 柔らか具合が全然違う。僕が焼いたのよりも断然柔らかい。いつまでも噛んでいたくなる。


「厚さ的に、早期決戦がコツさ」


 巴さん、どうもありがとう。カックい~。


「どういたしまして♪」



 ◇ ◇ ◇



 僕らは焼肉を大いに楽しんだ。


「牛カルビお待ちどうなのさ」

「あぁ⁉ お肉が網目の向こうに‼」

「木下くんそれ私が育ててたお肉ゥ!」

「あらま。ごめんね。見分けつかなかったよ」

「新田が玉ねぎ生で食うってよ!!」

「観とけオレのど根性ゥ! ……辛い‼‼」

「バーカバーカ!」

「大森が御飯デカ盛りだぁ!」

「實下さん張り合わないで⁉」

「一興をやらせていただきます! デンデンでけでけデンデンでけでけ!」

「うひゃひゃひゃひゃ」

「ペンライトが飛んだぞォ! 拾ったのは……木下だァァァアア‼」

「さァ、木下さんも御一緒に‼」

「僕、この曲は初めましてだよ……ぴろり~ゔぉろゔぃ~え~」

「歌舞伎!」

「しかも微妙にそれっぽい!」

「昔観たことあるの」

「すごぉい」

「コーラ一気飲み対決! スタートです!」

「……」

「…………」

「戸田弘人くんの勝利ィ!」

「よっしぎゅぇぇぇええっぷ‼‼‼‼‼」

学校行事の楽しみは大概打ち上げに収束すると思う。


次回はいずれ書きたかった回です! 楽しみにして頂けると幸いです!

それでは、せーのっ


脳 み そ 溶 け ろ

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