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第55話:輝くよ【〃】

前回のあらすじ!

ハグはいずれ万病に効くといいな。

 体力測定とは。

 握力測定とハンドボール投げによる筋力、反復横跳びの俊敏性、立ち幅跳びの跳躍力、長座体前屈の柔軟性、上体起こしの筋持久力、20mシャトルランの全身持久力、あと50m走からなる、大体の人が面倒臭がる測定である。


 全く一体誰がこんな悪質な測定を思いついたというのだろうか個人個人で測定するのならまだしも人前で身体能力を晒さなきゃいけないなんてどんな拷問だ運動上手な人は構わないだろうが運動下手な身としては公開処刑に他ならない最も滅ぶべき時間の一つでしかない握力立ち幅跳び長座体前屈は雑多に紛れてやれるからともかくハンドボール投げに反復横跳びに上体起こしと20mシャトルランと50m走てめぇらはダメだどうして身体を活かせない数をこなせない鈍間を周囲に知らしめねばならないのだ最悪だ特に20mシャトルランは死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死


「しおりん。怨念がすごいよー」


 と、エっちゃんは負のオーラを放ちながら隣を歩く志桜里さんに首を突っ込んだ。


 志桜里さんは更衣室を出て合流した辺りから凄まじい殺意を纏っていた。それが歩を進めていくうちにどんどんと膨らんでいって、下足箱が目前になった頃には規制サイドまっしぐらな生霊と化していた。


「凄くもなるわよ体力測定なんですものしかも二時間続けてですもの正直な話逃げたいし帰りたいしサボりたいし私に勇気があるのなら今すぐにでも自分の腕をへし折ってでも休みたい」

「思い詰めないでー」


 と、エっちゃんが励ましたそのとき。何者かが後ろから志桜里さんの肩に手を置いた。


 實下蒼華さんだった。


「わかる……‼」

「これ終わったら自販機行きましょ……‼」

「ゔん……‼」


 二人はハグし合って同盟を組んだ。蒼華さんは下に見られたくなくて上を目指しちゃいるが、中々実を結ばない不憫な人だ。


 そんなに嫌なもんなのかい? 僕、そこら辺はさっぱりだ。


「運動上手と苦手とする人の格差が顕著に現れてしまうのですよ。特にシャトルランがぶっっっちぎりで不評です。私もでえっ嫌いです」


 仏くんは他にも苦手なのってあったりする? 僕は握力。


「上体起こしですね。私、低脂肪薄皮まんじゅうなのでお尻が痛むんです」


 それは難儀だねぇ。


「ですが、そうでもない人も見られたりします。ほらあそこ」


 と、仏くんが指し示した方には、鳴海くんと巴さんハイフィジカルトップ2が闘志を燃やしていた。


「握力上がってたら良いな♪」

「今こそ限界を超えるときだ……‼」


「あのように、中には寧ろ楽しみにしている人も居るのですよ。人間って不思議ですね」

「私たちを不思議側に当てはめないでくれたまえ」


 あ、聞こえてた。


「記録云々は置いといて、運動好きは結構好きだと俺は思うぞ。彼らもそれっぽいし」


 と、鳴海くんが顔を向けた先では、茶之助くんと時生くん、ド●●●●ー●ごっこを男子と楽しんでいる竜胆蓬子さんと、一年三組の光の戦士たちが藹々談笑している。


「ひっさびさの体力測定だー!」

「体育がある日の昼ごはんは格別さ♪」

「新記録出してやるわよー!」


 この後賭けに負けた二人は財布が空になるまで時生くんに奢らされたとさ。


「予言が不吉‼」


「だけど、何かしら賭けるのは面白そうなのさ。ただ記録を競うだけじゃ味気ないのさ」

「それなら10点記録した人にはジュース奢るってのはどうかしら?」

「それじゃあ他にも呼びかけようぜ。というわけで加藤と大瀬と木下と吉岡と桐山一緒にどうだ?」

「「「「やるー」」」」


「頑張ってくださいねー」


 だがしかし、仏くんは潔く辞退したのである。


「入んねぇのかよ吉岡」

「流れに身を任せる場面ではありましたが、私、10点を取れる自信がありません」


 不思議がる茶之助くんに対し、仏くんはあっけらかんと答えた。


 仏くんの主張は尤もだ。

 下手くもないとしても輝けるわけでもないと自覚しといてハイレベル集団の大合戦に飛び込むのは誰からしても愚の骨頂だろう。かくいう僕も10点は怪しいところだが。


「まぁ、無茶は出来ないのさ。仕方ないさ」

「ところで、志桜里と實下は何処行ったよ? さっきまで居たろ?」


 豪速急で逃げてったよ。絶対やだ! 今はそのときじゃない! って。


「その逃げ足50m走に活かせよ」



 ◇ ◇ ◇



 50m走。

 全員で外に移動し、先着順で始まったこの測定。先行となったエっちゃんの姿を後ろから眺めていたとき、事件は起こった。


「位置について、よーい……ドンッ!」

「シュッ……キキィッ!」


 わぁい。

 ピストル音が鳴り響くと同時にエっちゃんは、瞬間移動と見紛う速さの超高速移動でゴール地点を踏み超えたとさ。


「6秒82! 陸上部入らないか⁉」

「行かない」

「そっかぁ」


 エっちゃんは早速スカウトを掛けられるも、あっさり断っていた。


 その一方で、志桜里さんと蒼華さんの運動おっぺけコンビは歓喜の悲鳴をあげていた。良かったね。


「9秒98! 9秒89!」

「よっしゃァァァアア! 10秒切りィィィイイ‼‼‼‼‼」

「わぁァァァアアアイ‼‼‼‼‼」



 ◇ ◇ ◇



 ハンドボール投げ in 体育館。


「大瀬くん9点! 戸田くん8点!」

「しゃァァァアア‼‼‼」

「グァァァアアあ⁉‼‼」


 鳴海くんが狂喜し、弘人くんが悔しそうに喚呼する。


 一年三組では、男子の二傑、柔道部・大瀬鳴海くんと陸上アスリート・戸田弘人くんが雄雌を決する大勝負をしていた。それが今丁度決着がついたところだ。


「負けたよ大瀬くん。ナイスファイト!」

「こちらこそ、名勝負をありがとう!」


 二人は互いを認め合い、熱いハグを交わした。新たな好敵手同士の爆誕に見届けていた生徒全員でちぱちぱちぱ……と拍手を送る。


「漢の友情って良いものですね」


 創作以外で見れる日が来るなんて夢にも思わなかったよ。

 それにしても、体育館でハンドボール投げなんてするんだね。


「外だと回収が面倒だそうですよ。木下さんは屋内経験なかったのです?」


 生徒は僕一人だったし、雨に降られたこともなかったねぇ。


「それはそれで豪運」


 もしかしたら、単独行動で雨に降られたことないかもしれない。


「とんだ晴れ男じゃないですか。梅雨時はよろしくお願いします」


 背負わせないでー。


 なんて吞気な会話をしていると。体育教師が「次の計測者ァ!」と呼びかけ、一人の女子が名乗りを挙げた。


 巴さんだった。


 体育館中がシン……と静まり返る。9点という好成績が叩き出されたにも関わらず、それを覆さんとばかりに只ならぬ覇気を全身から立ち昇らせていたからだ。


「チェストォォォオオ‼‼‼‼‼」


 一投入魂。並々ならぬパワフルオーラを纏いし巴さんが投げたボールは、体育館の角から対角の壁にバウンドしましたとさ。


「測定不能! 10点!」

「よっしゃあ! 新記録ゥゥゥ!」


「きゃーーーー‼」


 巴さんの姐御節に、主に女子から黄色い歓声が上がる。


「加藤さん素敵ー‼ 抱いてー‼」

「ちょっと! 抜け駆けすんじゃないわよ⁉」

「誰よ貴女⁈ 私が先よ‼」

「だったらどっちが相応しいか一斉に聞こうじゃないの‼」

「臨むところよ‼」


「私の与り知らぬところで勝手に話を勧めないでくれるかい? あと抱かないよ?」

「順番以前に、未成年で抱かれようとするなァァァアア‼‼‼‼‼」


 二人は教師にしっかり怒られた。



 ◇ ◇ ◇



 握力測定。


 バキッ!

 握力計が空くのを吞気に待っていたら、どこからともなく破砕音が耳に響いた。

 音の出先を見てみると、鳴海くんと茶之助くんが慌てふためいていた。

 鳴海くんの手には、握り部分が引っこ抜けた握力計が握られていた。


「やっべ⁉ 壊れた⁉」

「うわマジか! どうすんだコレ⁉」

「え、これ幾らするんだ? え、払えるかこれ?」

「と、とにかく先生に報告だ! 先生ェ‼」


 茶之助くんが叫ぶと、先程の体育教師が颯爽と現れた。


「なんだあ⁉」

「握力計があり得ない形でぶっ壊れてしまいましたァ⁉」

「見せてみろ! ……なんだ! もう壊れかけじゃないか!」


「「え?」」


「ここを見ろ! うっすらとだがひびが入ってる! 色褪せ具合からして最も古いやつだから、何時壊れてもおかしくない! それが偶々今日だったんだ! つまりお前たちは悪くない! というわけでこちらの新品で測り直しなさい!」

「先生ェェェエエ‼‼‼‼‼」

「好記録が出ることを祈っているぞ! それでは――!」


 バキッ!


「バキッ?」

「先生すいません! 新品もやっちゃいましたァ‼‼‼‼‼」

「貴様らァァァアア‼‼‼‼‼」

「ぎゃぁぁぁああ」

「なんでオレまでェェェエエ⁉‼‼‼‼」


 結果、握力計二つが屠られた握力測定はこれでもかともたついてしまい、多くの人が後日へ持ち越しとなったとさ。



 ◇ ◇ ◇



 反復横跳び。


「フォオオオオォォォおぉ(ノ)‘∀`(ヾ)オ!」


 意外にも機敏な動きを見せた時生くんが猛威を振るったとさ。



 ◇ ◇ ◇



 立ち幅跳び。


「サイヤァァァアア‼‼‼‼‼ ……シュタッ!」


「加藤9点! 陸上部に引き抜きたいポテンシャルだ!」

「残念。私はバスケ一筋なんですよ」

「なら仕方ないな!」

「うぉぉぉおお! 凄いぜ巴の姐御‼」

「ジャンプのタイミング教えてくれよ巴の姐御!」

「姐御ォォォオオ‼‼‼‼‼」

「はっはっは。私は逃げないよ。順番にどうぞ」

「姐御ォォォオオ‼‼‼‼‼」


 ただ叫びたいだけの人が居る気がしないでもないが、巴さんは寛容だった。


 そんな中、竜胆蓬子さんが巴さんのもとへと駆け寄った。


「加藤さん、加藤さん! 私にも踏み切るタイミング教えてくれないかしら⁈」

「おや竜胆くん。構わないけど、陸上部の君に教えられることってあるかな?」

「加藤さんはバスケでよく跳ぶでしょ? 色んな方面から吸収して今後の走り幅跳びに活かしたいの!」

「なら喜んでお受けしよう。私が跳ぶときは……」

「なるほど、ありがとう! 早速活かしてみるわ! ……ツァァアイ‼‼‼‼‼」


 踏み切った蓬子さんの身体は床に着地することなく一直線に跳んでいき、そのまま壁に激突して床に崩れ落ちた。


「うきゅう」

「竜胆ォ⁉ 大丈夫かぁァァァアアア⁉‼‼‼‼」


 蓬子さんは脳震盪を起こしてしまい、保健室へ搬送されましたとさ。



 ◇ ◇ ◇



 長座体前屈。


「ふぐぅっ! ぬぬぬぬぬぅぅぅうう……‼」

「大谷3点! 風呂上がりに柔軟するだけでも変わるぞ!」

「畜生‼‼‼‼‼」


 即落ち3コマだった。


「3コマより、2コマの方がテンポ良いよー?」


 でも、エっちゃん。文体は3行だよ?


「文体って、なーにー?」


 こちらの話さ。


「あーあー志桜里。相変わらず硬ぇなー。運動不足の証拠だぜ?」

「う、うるさいわね‼ だったらあんたは出来るってんの⁈」

「まぁ見てな……ふんぬらばっ!」

「新田茶之助9点! 好成績だ!」

「伊達に風呂上がりの柔軟欠かしてないんでぎゃああああ」

「死ねぇぇええ‼‼‼‼‼」

「大谷! 安直に死ねなんて言うな! 言霊になるぞ‼」

「ふっ。やや勢い任せの前屈を誇るとは、新田もまだまだよな」

「! お前は多くのプロ選手を輩出してきた体操教室の息子、体操部の瀬乃宗大‼」

「お前は所詮井の中の蛙さ。見てろ……すぺぇぇえええ」

「瀬乃10点‼ 欠かさないストレッチの賜物だな!」

「体操部をなめんじゃないよ‼」

「うわぁぁぁオレの数少ない取り柄ェェェエエエ⁉‼‼‼‼」

「バーカバーカ!」


 こうして茶之助くんが誇る特技は終わりを告げてしまったとさ。



 ◇ ◇ ◇



 上体起こし。

 全員尾てい骨へのダメージに耐えられず、10点は一人と出なかったとさ。



 ◇ ◇ ◇



「最後は20mシャトルランだ!」


 BOOOOOOOOOOOOO――‼‼‼‼‼

 生徒中からブーイングが沸き起こった。


「あれこれやった後で高記録出せるかぁ‼」

「20mシャトルラン廃止しろぉ‼」

「やかましいぃぃぃいい‼‼‼‼‼」


 前列生徒が咆哮に飛ばされる。


「思案した末の決断だ! 最初にこれやって残りをバテバテでやるよかまだ休み休みでやれる方を済ませちまった方が温存できるだろぉ⁈ というわけやれ‼」

「ぐうの音も出ねぇ!」


 こうしてリズムに合わせて走り出すが一筋縄ではいかないのがシャトルラン。60回を超えた辺りから時生くん、宗大くん、弘人くん、鳴海くんと――今までの好成績者が無念に散っていった。


「ぶべぇ」

「ぼべらぁ」

「びべろぼぉ」

「ばべるんばぁ」


「こなくそぉぉぉおお‼‼‼‼‼」

 ――が、茶之助くんだけは諦めなかった。


「オレだって、はぁ……! 一つでも、ぜぇ……! 最高記録を出してやるんだぁ! おえっ……⁉」

「いけぇ、新田ァ!」

「僕たちの分まで走るのさぁ!」

「どれだけ今の表情が惨めでも俺たちは応援するぞ、新田ァ!」

「うぁあああああああああああ‼‼‼‼‼ おべぇえええ」

「新田10点! よくやった新田ァ‼‼‼‼‼」

「ぃやっでゃぁぁぁあぁぁああああああああ‼‼‼‼‼」

「うぉおおお! 新田ァアアアア‼」

「カッコいいですよ、新田さん‼」

「誰よりも輝いてるぞ、新田ァ‼」

「ありがどう! ありがどォーーーー‼‼‼‼‼」


 WAAAAAAAAAAAAA――‼‼‼‼‼

 学年中の男子から胴上げされる茶之助くんは、誰よりも輝いて見えた。



「というわけで木下! 女子の時間が無くなっちまうから切り上げてくれ‼」


 うーい。


「台無しだよォ⁉‼‼‼‼」

ジュースの件は皆忘れていた。

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