第53話:褪せるよ【〃】
前回のあらすじ!
四五六ボロ負け。
「おや、タケタロウ。戻ってきたかい」
ただいま、おばあちゃん。
四五六終了後──。無事に四五六世界を脱出できた僕は、急いで畑のおばあちゃんと合流していた。
「聞いたよ。ずさんな注意書きの魔法遊具に身動き取れなくなったんだって? 時間に来ないからおかしいと思ったんじゃ」
全くだよ。居合わせた人たちの話じゃ、魂だけが四五六世界に入ってたみたいでね、分離した身体は真顔でぶっ倒れてたって。意識混濁してないか検査しているうちに休憩終わっちゃうし、散々な目に遭ったよ。
遅刻しちゃってごめんね。
「無事に帰ってこれたのだから別にええんじゃが、気に病むなら働いて挽回すればええ。ほれ」
ニンズンを今日に投げ渡される。
「このニンズンを持って行っとくれ」
ういーす。
復帰早々投げ渡された籠一杯のニンズンを携え、畑を後にする。
すると間もなく、どこからともなく神さまの声が響いてきた。
「はいやはいや」
ロデオでもしてたの?
「めっちゃ暴れられたよー。おかげでお尻がシックスパックだよー」
ご愁傷様。
ところで神さま、何処にいるの? 何処も御光臨ささってないけど。
「今回は趣向を変えて御光臨しているよー。こっちこっちー」
耳を澄まして声を拾うと、なんと神さまはニンズンに憑依していた。
やぁニンズンさん。キミはどんなニンズンさんなんだい?
「セクスィーアハーンなニンズンさんだよ。ところでお疲れのようだけど、何かあったのかい?」
魔法四五六の世界に閉じ込められちゃってたの。
「四五六? 双六じゃなくて?」
ここでは四五六なの。
「あらそう。して、閉じ込められてたってことは、さては遅刻したな?」
そうなの。
他のメンバーも大急ぎで仕事場に走ってってってたよ。その四五六はアフノさんって人が買ってきたんだけど、早速明日の仕事帰りに不備を携え襲撃こむって。
「それは災難だったねぇ。しかし、アフノさんだっけか。大人でも四五六とは中々乙なことしてるねぇ。ワタシも神さまの立場じゃなければ混ざりたかったよ」
誘ったのはリコちゃんだけどね。
やりたいなら今度僕とやろうよ。なんなら今日の移転時にでもどう?
「やったぁ。……あー、ところで竹太郎。リコちゃんと云えばさ。キミんところの村、子ども産まれたじゃん?」
産まれたよ。前にも言った通り男の子だよ。
まだ見てないなら見てみるといいよ。
「それなんだけどぉ。その……ちぃーと伝えなきゃならないことを、キミが起きた後になって思い出してさ。まだ中学生のキミに話すにはヘビィな内容なのは承知の上だけど、いずれ話さなくちゃいけないことなのさ」
ふんふん。
「ぶっちゃけさぁ、キミ…………将来的に、結婚……とか、考えてたりする?」
結婚かぁ。
僕のじいちゃんばあちゃんは勿論、エっちゃんのお祖父さんお祖母さんを見てると、仲良しでいいなぁと温かくなるよ。
まぁ、悪くはないんじゃないかなぁ。
「じゃあ、興味あるとしてさ、その………………子どもとか、欲しかったり、する?」
ベイビィねぇ。
リコちゃんコウくんたちの楽しそうな姿を見てると、微笑ましくなるよ。リオくんが産まれたときも皆で祝福してたし。
きっと出来たなら、嬉しいんだろうねぇ。
「そうかぁ……。前向きかぁ。そうかぁ……」
神さま、どうしたの? さっきから歯切れ悪いよ? 言いたいことあるならハッキリ言った方がスッキリするかもよ?
「じゃあ言うけど……もしこの先、結婚して子どもが出来たときには教えてね。その際、異世界同士の往来権、返還してもらわなくちゃだから」
え?
どうして家庭持ったら、日本と異世界、行き来出来なくなっちゃうの?
「待て待て待て待ちたまえ。意地悪でそうするんじゃないんだ。そうせざるを得ない訳があるんだよ。どうか耳を傾けてくれまいか?」
……分かったよ。
「ありがとう。それじゃあ、ひとまず訊くけどさ……酷な例えだけど、女の子がお腹に赤ちゃんが入ってる状態で異世界を往来したら、赤ちゃんはどうなると思う?」
? そりゃあ──、と答えようとして、開きかけた口を止める。
あれ?
赤ちゃんって、転移できるの?
転移者は寝ている間のみ、異世界へ行くことが可能となる。転移者は恐らく漏れなく一度なり仮死亡状態に陥っているわけだがしかし、別個体たるお腹の赤ちゃんは死んだことなんてないし、何より母体と違い往来権限を持ち合わせていない。
仮にお腹に生命を宿している女性が意識だけでも異世界に行っていたら、赤ちゃんはどうなってしまうのだろうか?
そして──、もしも何かの間違いで、両方の世界で宿してしまったら?
「──って、ややこしい問題が神々の会合で発覚したわけなのよ」
なんてこったパンナコッタ。
「毒味感覚で検証するにもいかないし、それなら無慈悲でも往来出来なくしとこうってのが今の神々の総合意見だね」
実験で死んじゃったら元の子もないからね。仕方ないね。
「果てにはよー。過去に存在していた輩往来者が現世と異世界で二股してたんだぜ? 当然神さま一同ふざけんじゃないよってぶちギレてさ。ワタシ直々に二股された偽彼女演じてそれぞれの彼女と共闘してボコボコにして破局させてから往来権剥奪したったわがははのは」
ふてぇやつもいたもんだ。
「──という忠告でした。まだ先の話だけど頭の片隅にでも留めておいてくれたまえ」
色褪せないよう覚えておくよ。
「キミなら一つの家庭を愛し続けられると信じてるぜ。ところで、私たちって今何処へ向かってるん──」
「バキゴログシャア!!!!!」
神さまニンズンは何か言いかけたが、最後まで言うことは叶わず、形の悪いニンズンの届け先たる馬牧場の門番ウマさんに食べられてしまった。
痛覚は共有してないだろうけど、鳴り響く破砕音には耐えられただろうか?
神さまの為にもこの光景は色褪せる思い出にしておこう。
籠一杯のニンズンは門番ウマさんに託して、僕は畑に戻った。
神は寝込んだ。




