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第51話:挑むよ【異世界Part】

27~50話までのあらすじ!


入学したよ。

アメノコ会ったよ。

弟子入りしたよ。

村人増えた。

「あそぼー」


 第二の故郷──、異世界の村より。

 いつものように昼市の商品を並べていると、角娘リコちゃんが遊びに誘ってきた。


 何をして遊ぶんだい? と聞き返す。


「〝四五六〟するのー」


 そう言ってリコちゃんは、脇に抱えていた四五六を見せてきた。


 四五六は現世でいうところの双六。リコちゃんが団体で遊べるようにと、アフノさんとグラさんとして選んだおもちゃだった。


 リコちゃんはつい最近、お姉ちゃんになった。弟が産まれたのだ。故に当分は弟──、赤ちゃんの世話に注力せねばならない親御さんに甘えにくくなるだろうと踏んだアフノさんが少しでも寂しさが紛れるようにとパーティーゲームを餞別に送ったのだ。


「早速遊ぶの~」


 リコちゃんは遊ぶ気満々だが、野菜の陳列は未だ終わっていない。合わせて昼時とはいえ昼になったばかり。昼食を取れていない。故に僕は──、


 いいねー。

 やろうやろう。

 お昼ご飯を食べたら、皆誘って、皆で遊ぼう。


「わーい」

「おー……!」


 今ではリコちゃんとセットが当たり前となっているコウくんも参戦を熱望だ。


 コウくんは鍛冶屋の息子くんで、リコちゃんとは四~五歳同士の仲良しコンビ。

 そして、その彼女に「……ぽっ」の男の子だ。


 それと、「おー……」しか言わない。

「おー……」以外にも発せられるが、「おー……」が標準語となっている。


「おー……」


 コウくんは「おー……」と鳴くと、ふらっと何処かへ去ってしまった。

 が──、


「ん……?」


 コウくんのお姉ちゃん、リンねぇさんを連れて戻ってきたこんにちは。


「ん……」

 と、返してくれたお姉さんもお姉さんで、口数が頗る少なかった。

 黙々と金槌を振るっている鍛冶職人の性だろうか?


「なんだなんだ? 今度はなんだ?」

 と、そこへ連れてこられたグラさんが、リンねぇさんの横に「ふぇっ」と並べられた。


 彼は父親と漁師を営んでいる数え年十六歳のグラサンだ。リンねぇさんとは同い年で、幼馴染の間柄だ。


 ちなみに、グラさんに隣へ立たれたリンねぇさんはというと、

「…………ぽっ」


 姉弟揃って、そういうことである。愉しいね。


「なんだリン。暑いんか?」


 対して、この通り、グラさんは彼女の気持ちに微塵も気づいてない。故に、リンねぇさんは猛烈なアタックを仕掛けたことが過去にあった。

 その様を見ながら食べる携帯食が、美味かったんだァ。


「あれは格別だったな」

 と、一か月前を懐かしく思っていると、その携帯食の提供者が欠伸をかいて現れた。


 ユイねぇさんだった。〝ねぇさん〟といっても兄弟はいない一人っ子、〝姐さん〟の方のユイねぇさんだった。


「あら……ユイさん、眠いんスか?」

「おぉ、グランか……。今日も今日とて早起きだったから仮眠してたぁぁうぁ」


 彼女は動物やモンスターを相手取る狩人を生業としている。彼女が狩りを成功させて帰ってきたその日には持ち帰りを面倒がった村人たちによるジビエバーベキューが開催される。


 ついでに言うと──、村付近の森に湧いた僕を保護してくれた人物でもある。


「そこついでかよぉぅ」

「ユイさん。眠いなら帰っても良いっスよ」

「いんや、居させてもらう。眠気覚ましにゃ丁度良い。……で、何やるんだぁぁお」


 四五六だよ。


「なんだエイリの茶番かお疲れ様でしたさようなら」


 リコちゃん主催だよ。


「わたしだよー」

「なら出てやろ……参加させてもらえるか?」

「いいよー」

「わたしも、やるー」


 あ、エっちゃん。

 コウくんに誘われし四人目はエっちゃん。本名はエイリ。村に保護されたものの寝る場所に困る前にハウスメイトにしてくれた金髪褐色同年齢少女だ。


「酷いよユイねぇ。わたしの扱い、雑くなーい?」

「いいんだよ、お前の扱いは粗雑でも。お前に限りは私がルールだ」

「横暴だー。暴論だー。独身皇帝を打ち倒せー」

「まぁまぁ、エイリ。そこまでにしてあげなさい」


 わぁ。

 エっちゃんが〆られる傍ら、なんとアフノさんが手を引かれてきたではないか。

 アフノさんは自前の船で世界を駆け巡る交易商人。仕事柄上帰村はあまり多くない、帰ってきても積み読書の消化なりで大体独りのんびり過ごしている村屈指のレアキャラオネエアフロ長身マッチョだ。


「あー。アフノさんだー。どしてー?」

「ユイったら一人っ子でしょ? だから一番距離の近い貴女を妹のように想っているの。家族も兄弟も、ちょっといい加減なくらいが良い距離間なのよ」

「アフノさん、やめれ」


「ほ~ん……? ほ~ん、ほん、ほほ~ん?」

「ほらぁ、ウザ絡みだした。てめっ、調子乗るな。このっこのっ……」

「ほほほほほほほほほほほほほほほほ~ん?」


「嫌なら姉の威厳を見せてみなさい。……それで、これは何の集まりかしら?」

「四五六するのー」

「あらぁ~。早速遊んでくれるのね、嬉しいわ♪ 早く始めま──」



 ぐぅぅぅうう~~……。



 と、言いかけたところで、アフノさんのお腹虫が鳴った。


 途端──、

 ぐぅぅぅうう~~……。と、僕も皆も同じく鳴らして、空腹を自覚したのだった。

 そういえばお昼ご飯、まだ食べてなかったね。


 しかし、これだけ集まっておいて解散するのは、リコちゃんが気の毒だ。

 まぁ、皆を集めたのはコウくんであるが。

 とはいえ、おチビちゃんが逸ってしまうのはよくある話だし、責めるのは可哀想だ。

 はてさて、どうしたものか……。


 と、ひとり考えあぐねていたら──、


「……各自昼食を持ち寄って再集合! 散っ‼」


 アフノさんが上手く取りまとめてくれたので、僕らは気兼ねなく広場から蜘蛛の子を散らせたのでしたとさ。



 ◇ ◇ ◇



 集った。

 一言喋ったら一口食べる形で会話は弾む。


「で──、この四五六どんなストーリーなんだ? ……むしゃあ」

「えっとねー。お買い物に行くんだってー……もしゃあ」

「けど、イベントで所持金が足りなくなったらゲームオーバーらしいぞ……むしぃい」

「ホントだー。『お金カード』あるー……もしぃい」

「最近の四五六ってシビアなのねぇ……めっしゃあ」


 人生ゲームってやつだね……まっしぇえ。


「たっくんさん。人生ゲームって、なーにー? ……みっしゃあ」

「ただ進めて終わりじゃなくて、ゴールに条件付けるのー。指定のイベントアイテムをちゃんと持ってた人が勝ちってやつー……まっしょお」

「エイリが答えるんかい……みっしぇえ」

「随分と詳しいのねあなたたち……もっしょいや」

「あれだろ。タケタロウもエイリも、元々別のところ住んでたんだし、そこで知ったんじゃないか……まるふぉいや」

「ん……びれすふぉあ」

「おー……ばるべすふぉしゃあ」

「いい加減普通に食べましょうよ。収拾つかなくなるわ……もぐもぐ」

「じゃあ、これを最後にするねー……どげごろもしゃあ」

「ところで、この四五六何人制だ? ……もそもそ」

「うんとねー。58人までだってー……もふもふ」


 箱の中を漁ると、駒がゴッソリと出てきた……もすもす。


「うっわ気持ち悪……もひもひ」

「多い多い多い! 手慣らしも兼ねて先ずは4人から始めようや。リコとコウとタケとエイリからな……もせもせ」


 皆で遊んだ方が愉しいよ? ……もりもり。


「考えてみろ。58人は当然、8人だろうが自分の番飛ばされたりでグダグダ待ったなしだ……もさもさ」


 言われてみて、つい最近、最大数まで増やしたキャラ被りモッチャレで、エっちゃんとして自分を見失いまくったことを思い出す。


 あれは失笑の嵐だったなぁ……もにぇもにぇ。


「それじゃあ、私たちは外から見守ってましょうか……もろもろ……ごくん。ごちそうさまでした」

「それが一番ですね……ごちそうさまでした」

「ん……ごちそうさまでした」

「おー……ごちそーさまでした」

「駒、出すねー……ごちそうさまでした」

「お金カードは……あったあった……ごちそうさまでした」

「イベントカードもあるよー……ごちそーさまでした」


 皆が食べ終わった頃合いで、ようやく四五六が始まった……ごちそうさまでした。


「早速順番決めようぜ。ジャバラエでいいか?」


 グラさん。前から思ってたけど、ジャバラエって何だい?


「なんだ、知らねぇのか? ジャバラエつったらグー・チョキ・パー」


 あぁ、ジャンケンのことね。


「お前の生まれではそう呼ばれてんのか?」


 そうだよ。

 こっちでは、どうして〝ジャバラエ〟っていうの?


「なら、お答えしんぜよう」と、グラさんは手頃な枝木を取った。


「ジャバラエは〝邪祓〟って書いてだな。その昔、暇つぶしに人間を食べちまうっつう悪霊から身を護る手段として広まった自衛法だ。グーは鼻や顎を殴り砕き、チョキは目潰し、パーは鼓膜を張り手でパーン」


 ジャバラエ、えげつねー。


「無慈悲ー」

「人の心が無ーい」

「だからっていたずらに生命を貪っちゃいけねぇんだよ。お互いの領域があるんだから、それは侵しちゃならねんだ」

「腹減ってんなら魚釣るか野菜育てやがりなさいって話よ。貴方達は分かってると思うけど、矢鱈滅多に獲ったりしないようにね」


「それより、四五六、しよー」

 と、真面目な話が展開されたところで、エっちゃんが流れをぶった切ったとさ。


「昼休み、終わっちゃうよー」

「おいあとなんぼだ皆の休憩時間」

「あらやだ、干し肉そのままだわ」

「ぶっちゃけ一回やったら罠見にいきたい」

「かかってたら、いいとこ、ちょうだーい」

「おうくれてやるよ。肉屋に卸しとくから金落としてくれ」

「いけずぅ」

「はやくやろー」

「おー……」


 遂におチビちゃんズが痺れを切らしたので、ジャバラエが始まる。


「では、掛け声は俺が務めさせていただきます」

 と、グラさんが先導して音頭を取った。


「ジャンボラベベジポ! アルパラピョー!」


 ジャバラエどこいった。

 独特な掛け声で行われたジャバラエの結果、一番手はエっちゃんに決まった。


「エイリ先行な。お前の豪運を見せてみろ」

「よっしゃー。わたしの豪運が火を吹くぜー。ちょいやぁ」

 と、投げられた付属のサイコロはドゥイドゥイドゥイ……と地面をバウンドし──、



 やがて停止すると、出目の部分から光を発した。



「は?」

 突然の事態に僕らは悲鳴をあげる間もなく、呼応するように発光した四五六の盤面に吸い込まれましたとさ。



 ◇ ◇ ◇



 気付くと僕らは、見慣れぬ異空間に立っていた。

 足元にはマス目と、手にはサイコロがあった。

 もしかして……四五六の世界に来てしまったのだろうか?

 あじゃぱあ……。


「皆! 大丈夫⁉ どこか痛めてない⁉」

 と、アフノさんが安否確認を取っていたのは四五六のメンバー。他は見当たらない。


 どうやら、四五六を遊んでいた者だけが誘われたらしい。


「つーか、何処だ此処? 魔法空間ってやつか?」

「グランさん。まほーくーかんって、なーにー?」

「おー……?」

「言葉通り、魔法で作られた現実とは別の空間だ。魔法で作られた部屋とでも思っとけ。俺も初めてだけど」


「魔法空間?」

 と、ユイねぇさんが何か思い当たる節でもあったのか、持っていた説明書をパラパラめくる。思えば彼女は吸い込まれる直前まで付属の説明書を読み込んでいた。


「あった」

 と、ユイねぇさんは進めるページをピタリと止めて、アフノさんに見せた。


「アフノさん。ここの部分、よく見れば注意書きが書いてある」

「マジで?」


 皆で覗き込んでみると、最後のページの事細かい部分に小さく書かれていた。


『(略)(略)(略)始めると異空間に移動します。終わるまで頑張ってね』


「字ぃ小っさ!」

「読んでられない箇所に紛れ込ませんなよ!」

 と、間髪入れずクレームが入るほどに、気付けてたまるかよと言いたくなる注意書きだった。

 注意書きが注意書きの責務を全うしていなかった。


「ちゃんと読める大きさで一ページ目に書いときなさいよ。校正ミスで訴えてやる」

「それより、終わるまでってどういうこった?」

「字面通りなら、ゴールするまで出られませんだな」


 それは困る。跡継ぎ修業中に遅刻なんかして時間を無駄にしたくない。


「中断の仕方とか書いてないんスか?」

「……どこにも書いてないな。残念ながら」

 と、ユイねぇさんの言う通り、ひっくり返された説明書の目次のどこにも終了方法については見当たらなかった。


「中断できる保証が無い以上、黙ってゴールまでしきった方が安牌だと思うぜ」

「とんだ不良品じゃないの⁉ 一刻も早く全世界から回収しなきゃ、最悪の事態もあり得るわ!」

『まぁまぁ、落ち着きたまえ、屈強な若人よ』

「誰よ貴方⁉‼⁉‼⁉」


 身内でわーぎゃー騒いでいると──、いつの間にか見知らぬ人が立っていた。

 見知らぬ人は道化師みたいな恰好をしていた。


『私はグェェム・マスター。この四五六世界の支配人さ‼』


 だってさ。

 グェェム・マスターは大ぶりな素振りで一人勝手に続ける。


『さぁ、少年少女よ決めたまえ! 誰がこのグェェムの勝者となるのかぐえっ』


 ──が、一人芝居をしていると、アフノさんに胸倉を掴まれてしまった。

 アフノさんは魔法概念に干渉してしまった。


「ちょっと貴方! ゲームマスターを名乗るならこの説明書に疑問を抱かないわけ⁉ システムだって遊ぶ子どもたちの安全が保障されていないじゃないの‼」


 アフノさんは今迄に類を見ない激昂っぷりだった。


「こんな不良品に付き合ってられないわ。早く子どもたちを帰しなさい!」

「四五六なら俺らが付き合ってやるからよ……!」

「ただしゲーム・マスター。サイコロはお前だ。おら、数字書きな……!」

『グェェム・マスター』

「やかましいわ!」

『名前は正式に言いたまえ! それに、今更メンバーの変更は無理な相談だ!』

「なんですって?」


 グェェム・マスターはリンねぇさんの傍に寄せられているリコちゃんとコウくんを、そして僕とエッちゃんをダブルピースで指差してきた。


 それを僕は、ゴキリと、へし折った。


『アウチッ!?』


 グェェム・マスターはダブルピースをフーフーして、再度改めて、今度は指差さずに僕ら年少四人を指名してきた。


『そちらのリコグァァルとコウブォォイとタケタロウブォォイとエイリグァァルが既に参加表明している! 対して君たちは見学に徹すると宣言! 即ち参加権は彼ら四人にしかない! 以上! Q.E.D!』

「確かに、わたしたちでやろーって、なってたねー」

「言ってた気がするー」

「おー……」


 三人が口々に言うように、地上でそう取り決めて始まった四五六だった。時間が無いから効率良く回そうと言って。


「……アフノさん。これマジでやるしかねぇみたいだぞ……?」

「そのようね……。ごめんなさい、リコちゃんと皆。わたしが責任をもって脱出させてみせるわ」

「つまり、どゆことー?」

「あふん」


 緊張感の欠いた幼児二人の質問に、アフノさんの首がグキリと鳴った。

 緊迫した状況にそぐわぬまさかの反応だった。あの様子だと「何か話し込んでるねー」「おー……」くらいにしか思っていない。話途中で「いっせーのーせ」してたし。


「つまり、ゴールするまで、家に帰れないって、ことだよー」

「なるへそー」

「おー……⁉」


 エっちゃんの端的な状況説明に、二人はようやく納得してくれた。コウくんも珍しく慌てた素振りを見せる。

 思考回路が幼女なエっちゃんだからこそ、上手くかみ砕けたのだろうか。


「わたし、今年で十三歳だよー」


 聞こえないでー。


「とにかく、子どもたちの為にも、皆の仕事の為にも早いとこ決着をつけましょう。皆、全力で臨むわよ!」

「れっつら~」

「ご~」

「おー……!」


 こうして僕らは、締まらない空気の中、まさかの生殺与奪を握ってきた魔法四五六に戦いを挑むのであった。

グェェム・マスター『続く!』


ストック10話溜まったので、一先ず毎週土曜で放流しようと思います。

それと、お気に召していただけましたら、あとがきの下の広告のさらに下にある☆☆☆☆☆のクリック評価等宜しくお願い致します。感想があると尚幸いです。


それでは、最後にあの言葉を。せーのっ


脳 み そ 溶 け ろ

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