第47話:ハムるよ【〃】
前回のあらすじ!
委員会決め
学校から家までの途中――、帰路を少し外れたところには公園がある。
そこへ部活動見学を終えた僕は、エっちゃんを連れて、立ち寄らせてもらっていた。
公園には色々あった。ブランコなるものに滑り台なるもの、砂場にジャングルジムと、どれも幼心をくすぐられる遊具ばかりである。
そして、全ての遊具がハムを模していた。〝土台がバネになっているやつ〟に至ってはチャーシューだった。
市内の公園はハム推しなんだね。僕は新たな知見を得た。
「わー。公園、懐かしー。来るの、久しぶりー」
エっちゃんは早速すべり台に駆けつけ「うぇーい」と楽しそうに滑る。すべり台は土台部分がチャーハンドームになっていた。ほら……あの、半球形のやつ……。
あの中で〝かるた〟でもするのだろうか。機会があればやってみたいものだ。
「ふぅー」
彼女は滑り台をおかわりしていた。楽しそうだね。
「楽しいよー。小3以来? だからねー。懐かしくて、楽しいよー」
懐かしいと、楽しいの?
「楽しいよー。たっくんは、違うのー?」
違うも何も、懐かしがれないからね。公園初めてだし。
「地元には無かったのー?」
歩いて行ける範囲には無かったと思うよ。僕だけで遊べる場所と言ったら、学校とか、神社だったし。
「学校には、遊具、無かったのー?」
あるにはあったけど、シーソーとか雲梯くらいで、ブランコとかは無かったよ。老朽化と生徒不足も相まって撤去しちゃったんだって。シーソーは僕だけだからやれず仕舞いだったし……。
「そっかー……」と彼女は滑り台の終わり部分に座ったまま天を仰ぎ、僕に顔を向けた。
「じゃあ、今まで遊べなかった分、いっぱい遊べば、良いと思うよー」
そうするー。
初めてなら、どれから乗れば楽しいかな?
「どれから遊ぶかより、先ずは、遊んだことないやつを、ピックアップするのが、良いと思うよー」
彼女の言う通りだ。
折角の公園デビューなのに、知っているやつを選んでも仕方ないからね。
となると、この公園内で遊んだことがないのは、ブランコと滑り台、それと土台がバネになっているギッコンバッコン動くチャーシューだ。
全体をざっくり見通して、熟考して、熟考して……、遂にどれから遊ぶか決めた。
滑り台にしよう。
公園の遊具と訊かれたとして、人類が真っ先に思い浮かべるとすれば滑り台とブランコの二択だろう。そうだといいな。
「きっとそうさー」
心の声、聞こえないでー。
彼女へのツッコミを程々に、早速上がってみる。
上から見た景色は思った以上に高かった。おチビちゃん年齢だったら大人になった気分になっていたに違いない。
滑ってみる。
……もう一度上がり、滑ってみる。
…………。
ふぅーーーー♪
公園=滑り台のイメージがついた理由を知った。これは楽しい。癖になりそうだ。
次はブランコに乗ろう。と滑り台を離れる。
が、ブランコの敷居に入ろうとしたところで、「たっくん、待ってー」と止められる。
「ブランコは、〆に残しておくのが、吉だよー」
ならば、そうしよう。公園歴が遥かに長いエっちゃんの発言なのだから間違いない。
一旦ブランコをスルーして、〝ギッタンバッタン揺れるチャーシュー〟に乗ってみる。
ぎぃこん、ばぁこん。
ギィッコン、バァッコン。
ギッコンバッコン、ギッタンバッタン。ギコバコギコバコダダダダダダダ。
最初はおっかなびっくりで揺らしてみるが、段々と慣れていき、調子に乗ってみると、ロデオの如く暴れ出した。
まるで乗馬している感覚だった。ブラウン色の馬さんに乗ったときを思い出す。これに乗って初めて乗馬に興味を抱くおチビちゃんだって少なくないかも知れない。
「もっと愉しくなる方法、あるよー」
と、エっちゃんはおバカな気配を携えて、隣のボンレスハムに跨った。
「はいよー」
ギコバコギコバコダダダダデェェェェエエエ‼‼‼‼‼
なんと、彼女は最初からフルスロットルだった。背中に至っては最早地面にくっついてしまいそうな勢いに、見ていてハラハラする。
エっちゃん、そろそろやめなよ。雲を超えて向●●秋さんになっちゃうよ。
「じゃあ、やめるー」
彼女は素直に降りてくれた。
良かった良かった。
「おや? 木下くんと桐山さんじゃないか」
と、そこへ名前を呼ばれて顔を向けると、時生くんが網フェンス越しに立っていた。
やぁ時生くん。教室以来だけど、今帰りかい?
「うん。運動部を見学してたら試合が長引いちゃって。ついさっき終わったところなのさ。二人は帰り道こっちだったのかい?」
違うよ。
実は地元に公園無くて、折角だから立ち寄らせてもらったの。
「今は、わたしの公園講座中だよー」
と、エっちゃんは相変わらずボンレスハムに揺られている。
「それは素晴らしいね。ところで、懐かしいのに乗っているけど、僕もやっていいかい?」
どうぞ~。とチャーシューを譲ると、驚くことに彼は高さ2メートル程の網フェンスを軽やかに越えてきた。身軽だね。
「動けるふくよかを目指してるのさ」
ふくよかくんは言いながら、ギコバコを始めた。
デェェェェェエエエエデャァァァァァアアアア‼‼‼‼‼
フルスロットルを超える〝最初からクライマックス〟だった。
が、時生くんは直ぐに勢いを落とすと、さっさとやめてしまって、
「怖いや」
と、言ってきたのだった。
お相撲さん体型だから、仕方ないね。
「またねー」と帰路に着く時生くんにサヨナラして、僕はブランコに向き直る。
遂にこのときが来た。
かの〝公園の両翼〟と名高いブランコに挑むときが一生のうちに来るなんて誰が思っていただろう。生涯集落暮らしだと思っていた身として大変感慨深い。
……と、まぁ、はしゃぐのはこの辺にしておこう。
「どうしてー?」
期待し過ぎといて、思っていた程じゃなかった……、なんて悲しいじゃない?
だから、期待は程々が丁度良いのさ。
「なるへそー」の言葉を背中で聞きながら、僕はブランコを漕いでみた。
きぃこ……と一漕ぎ。
きぃきぃこ……と五漕ぎ。
きぃきぃきぃこ……と十、十五漕ぎする。
……ひゃっほぉぉぉぉおおおう♪
気付けば僕は夢中になってブランコを漕いでいた。
なんて素晴らしい遊具なのだろう。乗馬とはまた格別の〝風になった〟気分だ。彼女が言った通り〝最後のお楽しみ〟に取っておいて良かった。ブランコを知れて良かった。
「押せば、もっと、楽しいよー」
エっちゃんが背中を押してくれると、ブランコは更に勢いを増した。
リズムに合わせて手押し足振りを繰り返しているうちに目一杯空が広がるようになった。このまま漕ぎ続けてれば空まで飛んでいけそうだ。
「それだったら、飛べばいいと、思うよー」
飛ぶの?
どうやって、飛ぶの?
「ブランコが前に出る瞬間に、手を離して、飛び出すのー」
危険なお遊びだった。
でも、愉しそうではある。着地点を競うとすれば、どれだけ前後運動の速度を上げれるかが鍵となりそうだ。
人間とはどこまでいっても、危険な遊びに魅入られてしまう生き物らしい。
僕なんか飛んで事故って死にかけたというのにね。全くもって笑えない。
「あぁでも。靴を飛ばして、飛距離を競うのも、捨てがたいなー」
それも楽しそうである。先の人間砲弾と比べれば、こちらの方が断然安全だ。
だがしかし。それでも人間砲弾になってみたい気持ちも否定できない。
……あぁ、そうか。
だったら、一緒にやってしまえばいいのだ。
そうと決まれば、いくよー。
「ばっちこーい」と、表に回った彼女は、僕が着地出来ないだろう位置で見紛える。
ぃいやっっはぁぁぁああ。
気合い一発、片方半脱ぎながら宙へ飛び出そうとした、そのときだった。
遠くの空を見慣れた姿が横切った。
アメノコだった。
アメノコは異世界で知り合った、雨天時に限り飛行能力を得る不思議な生き物だ。
ということはだ。
エっちゃん、急いで屋根のあ
「ぎゃぁぁぁああ」
呼びかけるも時既に遅く、遊具が合唱を始めましたとさ。
・●井千●さん
日本初の女性宇宙飛行士。外科医出身。凄い。




