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第43話:伸びたよ【異世界Part】

前回のあらすじ!

身体測定。

 ――というわけで、身長伸びたよ。

 そして翌日の異世界にて、身長が伸びたことをいつもの昼市で報告した。


 話を聞いてくれていたユイねぇさんが讃えてくれる。


「言われてみれば、会ったときから小柄だったものな。おめでとうタケタロー」


 成長を祝福してもらえて気分を害する人はきっといない。僕は思わず小躍りした。

 うぇっへへーい。


「わたしも、たっくんと同じ、だったよー」と報告するエっちゃんの声を耳に挟みつつ、僕は宙を舞いながら頭の中に疑問を抱いていた。


 翌日って、どこから翌日なのだろうか?

 僕は睡眠をスイッチに現世と異世界を行き来させてもらっている。だが現世での生活を基準としている僕からすれば異世界は『現世時間→異世界時間→現世時間』と翌日の間に位置しているのであって、翌日と言い表すにはあまりに半端。半日後とするにも不自然な位置付け。一体どう表現すべきなのだろうか。


 まぁ、いっか。

 誰にも答えに辿り着けない複雑怪奇だか盤根錯節な話に知恵を絞ったって仕方がないさ。


 地に足が着いたところで話を戻そう。


 ところで、ユイねぇさんは、身長、どれくらいあるの?


 僕より年上の彼女は見たところ、背の成長が止まりやすい女性にしてはかなりの高身長。なんなら年下とはいえ男性のグラさんよりもちょいと高いくらいだ。


「確か……170くらいはあったと思うが、そう言われれば久しく測っていないな。丁度良い機会だし、この際全員測ってみるか?」


「さんせーい」

「おー……」

 リコちゃん・コウくん、とおチビちゃん二人もノリ良く手を挙げる。


「じゃあ、容態聞きがてら、おやっさんから測り道具貸してもらってきますわ」


 計測者はいつもの面々だった。


 いつメン最年長(とは言わないでおく)薄緑髪狩人ユイねぇさん。

 悪意を胎内に置き去りにした色付き眼鏡漁師グラさん。

 近々姉になる(予定は余計か)角っ子リコちゃん。

 そのリコちゃんに「……ぽっ」な鍛冶屋の坊やコウくん。


 …………あれ……?


 もう一度数えてみる。


 いつメン最(略)狩人ユイねぇさん。

 悪意を胎内に置(略)眼鏡漁師グラさん。

 近々姉になる(予(略)か)角っ子リコちゃん。

 そのリコちゃんに「(略)」な鍛冶屋の坊やコウくん。


 ……。

 リンねぇさん、居なくねー?

 コウくんときたら、彼のお姉さんたるリンねぇさんもいるはずなのに、居なくねー?


 まぁ、いっか。

 あの人は職人気質だし、きっと工房で作業にのめり込んでいるんだろうさ。


「始めるぞー」

 グラさんが戻ってきて、広場の端っこで計測が開始される。


 最初の計測者はユイねぇさんだった。グラさんに「持ってくれ」と手渡されたメジャーみたく目盛りを書かれた紐の先っちょをユイねぇさんの踵に合わせ、グラさんが指でピッと計測を完了させる。


「……171.4! 1センチ伸びました?」

「ならそこで打ち止めだな。年齢的にもう伸びないだろうし、これ以上いらん」


 皆が皆、身長が欲しいわけではないらしい。僕は新たな知見を得た。


「次は俺だ」とグラさんが2番手に名乗りを上げる。


「……168.9!」


「ファック‼‼‼‼‼」

 グラさんが吠えた。


 曰く、「ほとんど伸びてねぇじゃねぇか!」


「こりゃあ、止まる前兆だな。これ以上は見込めねぇぞ。あーやや、こやや……」


「嫌だぁぁぁああ‼‼‼‼‼ あと1.1センチ恵んでくれぇぇぇええ‼‼‼‼‼」

 ユイねぇさんの無慈悲な宣告にグラさんが喚き散らす。こんなグラさん初めて見た。


「……コウくん、100センチ~。ジャスト~」

「おー……!」

 一方で、おチビちゃん二人は年甲斐もなく泣き喚く社会人男性を気にも留めずに測定を開始していた。


 コウくんの反応を見る限り、伸びたらしい。


「ジャスト・ジャスト~♪」

「おー……!」


 違った。

 滅多に見ない単位の物珍しさに喜んでいるみたいだった。


「わたしも測ってー」


 わぁ。

 小躍りしていたと思ったら、いきなりすん……と落ち着いて、リコちゃんを測り出した。


「おー……」

 目盛り紐を持っているコウくんの手元を覗いてみると、『104.3』だった。


「伸びた~♪」

「おー……!」


 二人は再び踊り出した。

 良かったねぇ。


「角の方もおねがーい」


 お?

 今度は角込みで計測するらしい。


「おー……」とコウくんは角を含めて再度身長を測る。

 ――が、角の先端となると、手が届くのもギリギリで、計測に不安があるようだった。


「おー……」

 僕が代わろうかと声を掛けようとすると、コウくんはフワフワと宙に浮いた。そういやコウくんは舞空術を嗜んでいたんだった。


 目盛り紐に伸ばしかけた手を引っ込めて、二人のやり取りを見守る。


「……113.8~。角もこうし~ん♪」

「おー……!」


 どうやらリコちゃんの種族? は、角の長さ大きさも測定対象みたい。


 嬉しいねぇ。

 僕は二人の〝喜びダンス〟に混ぜてもらい、喜びを分かち合った。


 そのとき、聞き捨てならない質問がグラさんから飛んできた。


「よぉコウ。ところで、リンのやつ、まだ立てそうにないのか?」


 おや?

 口ぶりからして、どうやらリンねぇさんは、具合が悪いようだ。


「おー……」

「そうか。まだ厳しいかも知れんのか。……元気出しな。落ち込むより治るよう祈ろうや」

「おー……」


 ねぇ。グラさん、コウくん。リンねぇさんに、一体何があったんだい?


「おー……」


 えー?

 全身痛い痛いで、立ってられない程で、ずっと自分の部屋で寝てる、だってー?


「そうらしいぜ」とグラさんが続いて事情を説明してくれる。

「なんでも前から……あいつを見なくなった一週間程前から、身体の節々が軋む様に痛む言うて、ずっと部屋に籠ってるんだと。おやっさんに聞いたらそう言われたわ」


 あれまぁ。

 全然気が付かなかった。言われてみれば確かに一週間前からリンねぇさんを見ることはなかったが、てっきり鍛冶仕事に夢中なのだろうと思っていた。もしかして具合が悪いのかもなんて疑問を抱きすらしなかった。


「それは仕方ねぇよ」とグラさんが肩に手を置いてきた。

「あいつ、何かあっても自分からは言ってこないし、自覚もない質だからな。実際問題、工房に入ってきた時から顔赤くて、いざ指摘してみたらそこで始めて熱出したと自覚してその場でぶっ倒れたこともあるってんだからな」


 あじゃぱぁ。

 無自覚症状も、そこまでいくと致命症状だねぇ。


「誰が上手いこと言えと。とにかく、俺たちがずるずる心配していたって埒明かないってこった。下手に心配し過ぎると当人に当たるって言うし、いつ戻ってきても良いように、いつも通りに過ごしてやろうぜ」


 それもそうだね。

 この世には〝病は気から〟なんて慣用句もあるのだから、〝痛みも気から〟だって存在するはず。ならば彼女に痛みがいかないようにしないためにも、僕らが過剰に心配してはならないのだ。


 そうと決まれば、〝変な御方〟踊りで喜びを分かち合うエっちゃんとおチビちゃん二人に再び混ざろうと声を掛けようとした、そのときだった。


「あー。リンねぇだー」


 えー?

 リコちゃんも「ホントだー」と言い出すので振り返ってみると――、鍛冶屋から、杖をついて出てきたリンねぇさんの姿があった。

 しかし、嘗て見慣れたその姿は、一週間前と一変していた。



 随分と背が伸びていた。



 思わず目を擦って注目し直してしまう程に、150以下だった筈の彼女の身体は急成長を遂げていた。もしかすればグラさんに届きうる背丈だ。


 ――が、当の本人は酷く歩きにくそうに、足を引きずっていた。なんなら「ひぃん……」と今にも泣き出しそうな表情で杖を支えにしている。


「ひぃん……」


 泣いちゃった。



 ……ああ。なるほど。

 リンねぇさんの身体の痛みは鍛冶仕事による筋肉痛ではない。身体の急激な成長に痛みを伴う〝成長痛〟によるものだ。


 だがしかし。成長痛とは本来、骨の端っこに痛みが生じる〝骨端軟骨障害〟であって、骨が伸びているから痛いのではなかった筈だ。どっかでそう読んだ。

 ならば、リンねぇさんが現に体験している痛みは何物だろうか?


 まぁ、いっか。

 それにしても……一週間でこんなに伸びたりするんだなぁ。


「うおっと……」

 と、僕が吞気に感心している間に、リンねぇさんはバランスを崩し、ヨレヨレともたれかかってきた彼女をグラさんは受け止めた。


「おいおい、立ってられないなら無理すんな。余計痛めたら事だろ」

「ひぃん……」


「なにぃ?」とグラさんが翻訳を開始する。

「窓から俺たちを見つけて、寂しさが限界に達したぁ?」


 鍛冶屋の二階部分を見上げてみると、広場を一望できそうな窓は二つあった。部屋から出てこないという証言から察するに、どちらかがリンねぇさんの自室だろう。


 言われてみれば、僕らが計測していたのは広場の端と言っても鍛冶屋付近。昼市効果で人混み状態とはいえ、窓から覗けば見つけられる位置だ。


「……あのなぁ。寂しいっつってるけどよぉ——、」


 大きな溜息を吐いて、グラさんは彼女に言う。


「それで無理に動いて転んで怪我でもしたら治るもんも長引いちまうだろ。寂しいんなら、お前が良ければ直接出向いてやるから。だから今日は帰りな。ほら、肩貸してやるから」


 そう言ってグラさんは、自称優男顔負けのスパダリっぷりを遺憾なく発揮して、彼女を肩に担ぐどころか背中におぶって鍛冶屋に入ってったとさ。


 僕は鍛冶屋に消えていく二人の背中をしばらく見つめていた。

 そして、二人の姿が見えなくなるなり、ユイねぇさんは口を開いた。


「信じられるか? グラのやつ、あれで意識されてると気付いてないかもなんだぜ」


 そこへすかさず同調してくる昼市帰りのおばちゃんたち。


「ホント、鈍いわよねぇ。グラったら」

「リンちゃんも、攻めてるようで、奥手だからねぇ」

「そこのところどうなんだいゴンゾー?」


 身体を引きずってきた娘を追いかけてきた末に置いていかれた鍛冶屋のおっちゃんことゴンゾーさんは、渋柿を引き当てた顔で答える。


「……当人たちの問題だから突っ込みたくないが、リンが行き遅れるくらいなら、グラのやろうに貰ってほしいとは思う」


 おっちゃん。結婚は素敵だとは思うけど、結婚が全てじゃあないと思うよ。


「それは分かるんだ。だが、親としては、将来独りっきりの家で暮らしてると思うと、心が痛いんだ……!」


 僕は誰の「お帰り」もない家で、独り過ごす自分を想像してみた。


 …………。

 友達に恵まれているとしても、自宅では独りというのは、酷く寂しく思えた。


 子どもながらにおっちゃんの気持ちが、ちょっと分かった気がした。


 それでも僕は、人の恋路を肴にするのは野暮だと思うのだ。

 だから僕は僕で別のことで盛り上がっておくさ。


「だったらさ。たっくん」


 なんだい? エっちゃん。


「新生リンねぇ、何センチ、だと思うー?」


 うーん……。

 目測165センチ。



 ◇ ◇ ◇



 一方、グラさんはリンねぇさんの部屋に着いたタイミングで早く横になりたい気持ちも相まった彼女に意図的にバタンキュー・ザ・ベッドされてとても困っていた!

リン・コウ母「リン、調子はど……今夜は赤飯(セキファン)ね」

グラン   「待って」

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