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第42話:測るよ【〃】

前回のあらすじ!

怒弩寿琥結成秘話 with ボブ

「たっくーん。視力検査、どうだったー?」


 両眼10.5だったよ。

 元々の田舎育ちと異世界生活も相まって、0.3上がったよ。


「ぶっ壊れ~」と目立たぬ程度にはしゃぎ踊るエっちゃんに訊く。


 エっちゃんはどうだった?


「12.5、だったよー」


 いいねー。


 時は少し遡り――、テスト明け翌日。亜如箆莉野中学校では身体測定が実施されていた。


 テスト当日は中々に苦労した。何しろ全五教科が一日で実施されたからだ。4~6年生分の知識を僅かな隙間時間で頭に叩き込むのは勿論、詰め込んだ知識を一気に放出してを五回と繰り返したのだから後半は最早体力気力の勝負と化していた。


 だからなのか――、


「視力上がったぁぁぁああわぁぁぁああい‼‼‼‼‼」

「あぁぁぁ体重ぅぅぅぅぁぁぁああ‼‼‼‼‼」

「…………(※無言の中指)」


 クラスは——少なくとも新一年生全員がテストを終えた反動でテンションが高かった。解放された幸福感でおかしくなっている。正にランナーズハイならぬ〝テストーズ〟ハイだった。


「おぅい。木下くーん」

 顔を向けると、体重測定場所から歩いてくる時生くんの顔があった。


 やぁ時生くん。体重を量ってきたのかい?


「うん。増えちゃってたよ」


 増えてたの?


「108.8㎏になってたよ。卒業・入学祝いでいっぱいご馳走になっちゃったのさ」

 時生くんはアッハッハ、と朗らかに笑った。


 彼の身長は見積もり155.6cm。理想をはるかに上回る体重だった。

 まぁ、当人は気にしていないようなので、警告するのは野暮だろう。


 それで、何の用だい?


「あぁ、そうだった。木下くん、視力検査してたみたいだけど、身長は後回しにした方が良いよ。人が多すぎて弾かれちゃった」


 言われて見てみてあらホント。人が塵のように集っていて、入る隙間が無さそうだ。

 時生くん、どうもありがとう。


「お役に立てて何よりさ。それじゃ、僕は座高に行くね。ばーい」


 時生くんと手を振り合って、間を無知人に横切られるや否や、彼は立合った力士の如き勢いで座高場所めがけて突撃していった。


「あー、体重、空いてきたー。たっくん、今のうちに行こー」


 そうだね、エっちゃん。彼女についていく形で各計測場を回った。


 体重、座高と計測を済まし、いよいよ本題、身長測定に移る。


 僕はこの身長測定に並々ならぬまではいかない程度の想いを抱えていた。

 そう、僕の身長は平均以下なのだ。小学校中学年までは気にも留めてなかったのだが、上学年で祖父母に連れられ市内の花火大会を観に行った際に自身がすれ違う小学生よりも小柄だと気付いたのだ。同級生が存在しなかった故に自覚しようがなかったのだ。


 それから僕は、妙なモヤを頭の片隅に抱くようになった。


 以来、モヤを解消せんとあらゆる手段を駆使しては身体に成長を促した。家族に近所、遥ねーちゃんやネットから身長の伸ばし方を調べ上げては全て試した。


 その成果が今日、明らかになる。


「はい、じゃあ身体測定お疲れ様でした」


 遂に検査表を返された。

 これに全てが掛かっている。身長の為にネットで見つけた嘘か真か分からぬ『絶対背が伸びる方法!』を何パターンも実行したのだ。



『150.8』



 ひぃやっはぁぁぁああ‼‼‼‼‼


 僕は飛び跳ねた。

 やった。やった。身長伸びた。三~五ヶ月で2cm未満も珍しくなかったのに、小学生最後の三学期の間に2.6cmも伸びた。平均には終ぞ到達しなかったが大満足だ。


 一年で11.3cm成長した我が身体‼


「そこの生徒ー。危ないから下りてきなさーい」


 あ、はい。

 勢い余って到達してしまった体育館の天井から鉄骨を伝い、体育館コートを一望できる二階部分に他の生徒共々飛び移る。


 一階に戻ると、ちょうど測り終えたエっちゃんと仏くんが合流してきた。


 やぁ、エっちゃん。終わったようだけど、何センチだった?


「150.8だったー。1月から2cm、伸びたー」


 わぁい。

 僕らは踊った。身長が被るなんて奇跡、二度と無いだろう。


「ほう。木下さん、貴方も10cm以上伸びたのですか。素晴らしい成長過程ですね」


 そう言う仏くんも伸びたの身長? 


「伸びました。161.2でした」


 それは良かったねぇ。

 何センチ伸びたの?


「去年より12センチも伸びました♪」


 友よ。


「君が居てくれて良かった」


 僕らはハグり合った。


「仲間」

「生化」

「生卵」


 そこへ同様、悲願が成就したのだろうクラスメイトが次々と腕を回してきた。果てには全てが報われた喜びは他クラスまで伝播して、やがてそれはミステリーサークル顔負けの巨大サークルと化した。


 鳴海くんはどうだった?

 お互いを讃え合う中、近くを通り過ぎようとしたクラスきっての大巨漢・大瀬鳴海くんに話しかけると、彼は嬉しそうに教えてくれた。


「5センチ伸びた」

 彼が見せてくれた身体表には『186.5』と書かれていた。



 それを聞いた瞬間、仏くんは開眼した。

 禍々しい眼光で〝殺意の波動〟なるものを体育館全域に放った。



 ところへ、鳴海くんの背後から伸びてきた手が彼の肩を捉えた。

 横にずれて見ると、髪を一本食んだ三白眼状態の茶之助くんが鳴海くんを見上げていた。

 目に入ってきた彼の身体表には『159.7』。男子なら多分全員が最低限は欲しがる『160センチ』代に僅かに到達しなかったのだ。


 そこへ更に、『148.3』と『150センチ』すら叶わなかった蒼華さんまでも苦虫を噛み潰したように顰めた顔で乱入してきた。


 結果、その3人を皮切りに身長コンプレックスの強い者々が鳴海くんを取り囲んでデスメタルを撒き散らすものだから、鳴海くんは怖がって逃げちゃった。


「ガッデェェム‼ デスフィィィィル‼‼‼‼‼」

 デスメタラーたちは追いかける。あれはしばらく解放されないだろう。


 後で肩ポンしたろと心に決めて、僕は成長を踊って讃え合う集団に混ざりに行った。

「喜ぶ前に逃げなきゃ」by一月から3cm伸びた178cmの戸多弘人

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