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第39話:吉田くんだよ【異世界Part】

前回のあらすじ!

アメノコとヤンバルクイナ

「そいつか!」


 深夜――、「ちょいと話し相手になっとくれよ」と僕を呼び出した神さまは、僕が今日あった河川敷での話をしてみせた途端、突然声を大にしてそう言った。


 一体なんだってんだい、神さま。急に大声なんか出しちゃって。


「おっと、失礼。驚かせちゃったね。めんご」


 いきなり確信を着いた顔で、どうしたの?


「十年前の神の集いで話題になってたんだよ。アメノコっていう、転生・転移神たる私の介入なしで平行世界を行き来しているやつがいるって」


 へー。

 アメノコって、世界をも超える凄いやつだったんだね。


「いや。アメノコは特性上信仰の無限機関と化しているから凄いのはもちろんのことなんだけど、どちらかというと、君の住む町が凄いんだよね」


 亜如箆理野市が?


「亜如箆理野市が」


 亜如箆理野市に、何があるっていうの?


「亜如箆理野市は〝なんかすごい町〟とも言われていて、本来存在しえない物者が平然と起こるわ闊歩しているわで有名なのね。流石になんでかなと私たちで調べたことがあるんだけど、神の次元を軽く凌駕する超エネルギーが発生していてね。おかげで異世界の生物のなんか自由な往来が可能になっちゃってるんだよ」


 そりゃあ大変だ。

 こちらの世界には存在ない、異世界特有の生き物とかがやって来たら、生態系がパンクしちゃうよ。


「それがそうでもないみたいなのさ」


 どうして?


「異世界生物にとって竹太郎が暮らすこの世界は繁殖に向いてないんだろうね。異世界から〝来訪〟はするけど〝繁殖行為〟は見られないから現状様子見に徹する方針となってるわけさね。それに、こっちの世界を気に入ってくれた方が利点もあるし」


 例えば?


「アメノコって移動手段に雨を降らせるだろう? 過去に干ばつ地帯でアメノコが未確認生物として報道されたことがあったんだけど、立ち去り際に水問題を解決したものだから『お救いさま』と崇め奉られちゃってね。結果的に彼が来てくれれば少雨問題は解決したも当然なのさ」


 人間だけでは限界があるものね。残念ながら。


「環境問題は人類で解決すべきだけどね。大概が因果応報だから。過去のあんぽんたんの尻拭いとは分かっちゃいるけども」


 他には何かあるの? 異世界生物の皆さんのおかげでした、は。


「南極はともかく、北極の氷減少問題が解決傾向にあるのは何故だと思う?」


 少し思案して、ある一つの仮説が浮かぶ。

 ……異世界の生物が一躍買っているから?


「正解。異世界から流れ込んできた氷龍が北極を根城にしてるんだけど、こちらの世界では天敵がいないから悠々自適に生活できると棲み着いちゃってね。おかげで人間の生活圏を脅かさない程度に氷を増やすわ、庭の手入れをするように氷が溶けた分を貼り直すから北極問題が一気に解決だよ。だから迂闊に亜如箆理野市を弄って出禁にするわけにもいかないのさ」


 なるへそー。

 現世は様々な無理難題を抱えている。その一つが環境問題だ。過去の文明発展に伴った開発だのインフラ整備によって自然に大打撃を与えたことで、遅延以上の見込みがないに等しい森林減少・地球温暖化といった大規模な問題に日々人類が向き合っている。それが現世の科学で解明しようがない〝未知〟の力で丸く収まっている部分があるなら、神々が見て見ぬふりをしてしまうのも無理もない話だ。


 そう思うと、亜如箆理野市って凄いんだね。


「まぁ、嘘だけどね」


 ずけ~っ。

 神さまのあまりにあっさりした白状に、僕は典型的なズッコケを披露してしまった。


 酷いや神さま。僕、信じ切ってたよ。


「あ、全部が嘘ではないよ。異世界生物が一役買っているのは本当だし、亜如箆理野市との関係性はあくまで仮説であって、皆がそうとは言ってないからね」


 神さまは弁明するが、僕は気が晴れない。悪気があっての弁解なんてチェケラッチョだ。神さまなんて、嘘吐きが堕ちる大叫喚地獄の受無辺苦悩処だか、十一炎処だか……まぁ、どっかで罰せられればいいんだ。


「変に詳しいな……でも、神さまだから罰せられませ~ん。残念でした~~!」


 むきぃぃぃいい。



 ――ピャヤピャヤポ、ピャヤピャヤポ♪



 お?

 神さまのおちょくりに業を煮やしていると、吉田さんが保留中の電話を持って現れた。


「神さま、お電話です」

「おー、ありがと。誰から?」

「地獄からです」

「げ」


 地獄かららしい。


 神さまは嫌な予感を抱いた顔で電話外線を押した。


「はい、もしもし転生・転移の神さまです。……え? 嘘吐いた罰に〝どこにも効かないただただ痛いマッサージの刑〟⁉ そんなァァァアア後生だよォォォォオオオ‼‼‼‼‼ ……あ、切れた」


 神さまは逃れられない運命にガックシと肩を落とした。


 まぁまぁ神さま。きっと〝神さま〟だから無為に痛いだけのマッサージで済んだんだよ。舌を抜かれたり亡者同士で燃やし合わされないされないだけマシだと思うよ。


「聞くだけで耳が痛ぇよ~」


 ところで、〝神の集い〟って言ってたけど。神さまって、他にもいるんだね。

 というか、集って何するの?


「傷心中に触れることじゃねぇよ~。まぁ、いいや。そりゃあ、この世界が存在するのは創造神という大層な存在が大前提だからね。ほら、私が司っているのはあくまで転生転移だから」


 他は他で何かしらを担う神さまがいるらしい。

 それじゃあさ。吉田さんは何の神さまなの?


「ワタクシですかー?」と会話の外から静観していた吉田さんが反応する。


「ワタクシ、神さまじゃなくて、天使ですよー」


 天使だった。

 天使って、具体的に何をするの?


「主に主たる神さまの言伝を地上に届ける役目ですよー。言うなれば創造主=代表取締役、直属の上司たる彼女=各支部長、わたくし吉田は各支部に派遣された支部長秘書といったところです」


 神さまの世界って、とても豪勢で、手厚い采配なんだね。


「ちなみに、木下さんを連れてきたのも、神さまの指示を受けたわたくしですよー」


 へー。

 連れてきてくれてどうもありがとう。お勤めお疲れ様です。


「どういたしましてー」

「毎日助けられてますよ本当。急ぎの仕事纏めてくれてたりとか」

「その急ぎの仕事ですが神さま。優先度〝壱〟のアレ、進捗どうですか?」

「………………」


 おっと?

 神さまから、やらかした気配がぷんぷんするぞ?


「………………てへぺろ☆」


 ガッシャーン……。

 神さまは缶詰型の個室を持ってこられるや否や仕事道具とともにぶち込まれ、文字通り缶詰にされてしまった。


「出してよォ〜〜!!!!! びえぇぇぇええん!!!!!」と泣き喚く缶詰にガン無視を決めて、吉田さんは僕に頭を下げてきた。


「申し訳ありません、木下さん。神さまから呼ばれた身なのは承知でございますが、本日は切り上げさせてください」


 わかった。

 じゃあ、吉田さん。折角だから、僕とお喋りしよう。


「ワタクシとでございますか?」


 吉田さんとでございます。


 思えば僕、吉田さんとサシで話したことないなって。どうせだからモッチャレでもして遊ぼうよ。相手を知るならモッチャレるのが一番さ。神さま〝モッチャレ〟持ってるし。


「……それもそうですね。このままお帰りいただくのも気が引けますし、ワタクシでよければお相手しましょう」


 決まりだね。使い手はなんだい?


「月狼牙でございます。俊敏ながらにパワーもあり、操作感も設定もワタクシ好みでございます」


 わかる〜。

 〝月狼牙〟は〝たぬすけ〟と同じゲームの出身で、作中人気キャラクターの一角を担う狼。厳しい自然界で磨いた独自の格闘術と凍える環境を逆に支配してみせた氷操術の使い手で数多のライバルを撃破しながらも無闇に生命を奪わず、環境カースト下位のモンスターに餌場を提供する「強者は弱者のために」を体現した漢の中の漢だ。


「何⁉ モッチャレしてるの⁉ 私も参戦したい‼ ちゃっちゃと終わらせるからちょい待ってて‼」


 性懲りもなく聞き耳を立てていた神さまがやる気を出して仕事に取り掛かる。


 やっぱモッチャレだよモッチャレ。モッチャレは万国共通のコミュニケーションだ。



「日頃からあぁだったらなぁ……」と吉田さんのボヤキとともに、モッチャレが始まった。



 吉田さんは、神さまとは長い付き合いなの?


「長い付き合いですよー。初めてお会いしたのは創造主が生まれて宇宙が生まれて地球が生まれて人類が生まれて必要に応じて転生転移を司る彼女が生まれて……数え切れない程の長い付き合いですよー」


 数え始めたら埒が明かない年数になっちゃうからね。



 ここで〝たぬすけ〟が〝月狼牙〟に腹パンを喰らわせた。



 秘書って、普段何をしているの?


「先程もおっしゃったように、創造主もしくは彼女からの言伝を地上に届けたり、業務のスケジュールを纏めたり……謂わば業務補助ですよー」


 人間と大して変わりないや。



 復帰してきた〝月狼牙〟が爪で反撃してきた。



 天使って、ホントはの見た目はグロテスクって聞いたけど、吉田さんはそうじゃないね。


「そんなのもいるでしょう。わたくしもなれますが、正直なりたくありません。自分でも怖いですもん」


 怪我して膿んだ部分なんか誰だって見たくない、ってやつだ。



 そのまま攻勢に出られて……カウンターで返り討ちにしてやったとさ。



 自分から誘っといてなんだけど。意外ともう訊くことないや。


「でしたら、純粋にモッチャるとしましょうか」


 そうだね。

 僕らは純粋に対戦を楽しむことにして、再戦を選択した。


 戦いは両者互角の名勝負と化した。渾身の大納言ラリアットに会心のカウンターを決められたり、逆に絶望的タイミングで放たれた〝究極の一撃〟を土壇場で躱してみせたりと後で見返したくなる名場面の連続だった。


 そうこうしているうちに、神さまの空間が白みを帯びだした。夜が明けた合図だ。

 最後まで吉田さんは飄々としていて、人柄を捉えられなかった。


 まぁ、いっか。

 じゃあ、神さまによろしく言ってね。あと、業務は計画的にとも。


「待ってぇぇぇええ!!!!! 帰らないでぇぇぇぇええ‼‼‼‼‼ あと少しで終わりそうなんだよ神さまをハブらないで独りぼっちにしないで私を忘れないでフォゲットミィノォォォォオオオット‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


 結局出てこれなかった神さまのちょいと蛇足な悲鳴を背に浴びながら、僕は異世界の僕を叩き起こしに行った。

「お仕事は計画的に」

「締め括らないで⁉」

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