第3話:住むよ
前回のあらすじ!
E・●~。
村長の家――。
僕は二人と一緒に使用人さんに通された客間で、ちょうどトイレに行っている村長さんを待っていた。
ぼんやりと待っていると、よぼよぼで、杖を突いていて、背筋の曲がった、禿げってるおじいさんが、がちゃりんこ、と部屋に入ってきた。大きな白い髭と眉毛を垂らしているから、目元は見えない。
この人が村長さんらしい。
村長さんは杖を椅子に引っかけて座ると、口を開いた。
「待たせたのう二人とも。生活で困ってることはないか?」
「あー、今んとこは特にないですよ。ただ、最近ミノタウロスが森に現れまして、いずれ交戦するかもしれないです。さっきも見ましたし」
「そうかそうか。その話は後日、詳しく聴くことにしよう。エイリはどうだ?」
「大丈夫だよー。楽しく暮らせてるよー」
「そうかそうか。それは良かった。それじゃあの」
村長さんが席を立とうとする。
「待て待て待て、話はまだ終わっちゃいませんよ」
ユイねぇさんが慌てて呼び止める。
「冗談じゃよ。して、なんの用かのう?」
村長さんは持ち掛けた杖を離し、椅子に座り直す。
「今日、森の中で旅人と会ってさ。ここに住みたいって言うから連れてきた」
「移住希望者? お主、名はなんという?」
村長さんが、僕を見て訊いてくる。
僕は自己紹介をした。
「タケタロウというのか。そうかそうか。いいぞ。住んで」
即答だった。
やったあ。
「今の世の中、若者はどうしても稼ぎの良い街の方へ行ってしまうからのう。村を廃らせないためにも、移住者はいつでも歓迎じゃ」
日本でいう過疎化は異世界でも共通らしい。世知辛いね。
「さて。ところでタケタロウよ。ここに住まうなら、仕事を探さなければのう。旅に出る前は何をしていたか、教えてくれるか?」
えー?
僕、十二歳だけど、仕事するの?
「当たり前だろ。なんだ? 仕事したことないのか?」
ユイねぇさんが訊いてくる。
僕が生まれたところは、義務教育ってのがあって。7歳から15歳まで、学校っていうところで仕事の幅を広げる勉強するの。
「そうなのか。じゃあ、その義務教育が終わってから、働くのか」
いんや。15歳じゃ、就職が難しいから、今度は高校ってところに行ってまた3年勉強するの。そこでようやくまともに仕事探せるようになるわけだけど、更に大学ってところに2~6年間通わないと就職できないところがあるらしいの。
「なんだよ。えーっと3年と2~6年の5~11年だから……、結局20~24歳までは勉強しなきゃ就ける仕事の制限激しいのか」
高校でも就職する人はするみたいだけどね。あと、成績っているのが悪いと、留年っていって、もう1年追加で勉強しなくちゃいけなくなるみたい。
「お前の国、仕事探す条件厳し過ぎないか?」
僕もそう思う。15歳にもなってないけど。
あと最近では、仕事で指示されることがどんどんと増えてきてるのと、業務内容が増々厳しくなってきてるので、心身が壊れて職場辞めちゃったり、死んじゃったり、激務から逃げたいので、自分から死んじゃう人も多いんだって。そういうところ、ブラック企業というんだってさ。
「それはあれか。私がやってる狩人でいうところの、モンスターと戦う以外に、洞窟探索とか、食料調達とか、環境調査とか全部、同時並行で1日以内にやれって言ってたりするのか?」
多分、そう。
「……どれだけ多くても、一つずつではダメなのか?」
きっと、そう。
「……どれだけ厳しい条件でも?」
恐らく、そう。
「……失礼なことを言っていいか」
うん。
「めんどくさい国だな」
そう思う人もいるだろうねぇ。
「……その義務教育? ってのが終わってないお前さんにそう言わせるとは、だるくせぇ国だのう……」
だるくさいかは知らんけど。そう思う人もいるだろうね。
「そう考えると、仕事でやること、一~二つに絞れるのって、すごいやりやすいことなんだね~……」
そういうエっちゃんは、何を仕事にしてるの?
「ユイねぇと同じ狩人。食料調達専門でっす」
細かいんだね。
「逆にわたし、動物はともかく、モンスターと戦うのはからっきしなの。けれど、うちの村長さんこっちの容量に合った仕事させてくれるからー。おかげですっごいやりやすいし、仕事でぶっ倒れたことはありませーん」
「ふぉっふぉっふぉ。褒めても何も出んぞ」
笑いながら村長さんは、お菓子を追加した。
「まあ、エイリが全部言った通りじゃ。焦らすことはせんから、気長に自分に合った仕事を探すが良い。村の者たちには、お主が色々試せるよう、わしから伝えておこう。短気は損気じゃぞ」
ふぉんふぉうふぁん。ふぁいふぁふぉう。
…………。
もぐもぐもぐ、ごっくん。
村長さん。ありがとう。
「さあ、もうじき日が暮れる。仕事探しは明日にして、今日はもう帰りんさい」
うん。そうする。
僕らは村長さんの家を後にした。
ばいばーい。
「――したけどトイレ借りてくる」
「先行っとけぇ」