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第37話:歩くよ【〃】

前回のあらすじ!

クラスメイト紹介とテスト。

入学早々テストしたよね。え、覚えてない?

 僕は亜如箆莉野(アニョペリノ)市内を歩き直すことにした。

 引っ越してきてから入学するまでに散策は済ませているが、「此処は駅である」と風景でしか記憶していない。そこを改めて「こんな特徴がある」と言語化することでまた新たな印象が芽生えると思ったのだ。


 ということで、早速回ってみようと思います。


「たっくん、誰に喋ってるのー?」


 ――と、靴を履いていたところに、二階からエっちゃんが下りてきた。


 そこのハエ太郎に聞いてもらっていました。


「ハエー? ……ホントだー」


 僕が指差した先には、玄関を開けた隙に入り込んだのだろう一匹の蠅が煩わしい羽音を鳴らしながら飛行していた。


 そして、玄関の天井隅に張らさっていた蜘蛛の巣に引っかかり、蜘蛛にグルグル巻きにされてしまいましたとさ。


 蜘蛛の巣、撤去しなくて良かったね。


「益虫だって、言うしねー。ところで、たっくん、何処行くのー?」


 市内を散策し直そうかと思って、今から出かけるの。


「じゃあ、わたしも行くー。婆ちゃーん。たっくんと出かけてきまーす」

「はいはーい。車とトラックとクロサイには気をつけてねェー」


 僕が返事する間もなく、エっちゃんの同行はあれよあれよと決まってしまった。

 まぁ、いっか。


「そんじゃ、再散策に、レッツラ、ゴ~」


 ご~。


 ということで、僕は亜如箆莉野市を回ってみた。



 ◇ ◇ ◇ 



 先ずは桐山宅からしばらくしたところにある、市内へ続く地下通路。

 その名の通り、道路の下に掘られたトンネルを通じて向こう側の歩道に渡るための通路だ。曰く、横断歩道を敷くには広すぎる道路に使われているそうで、横断歩道さえ滅多に見かけない限界集落育ちとしては初めて見た時の衝撃と言ったら!


「これ、雨の日は水浸しになってるけど、何処に抜けてくんだろー? 東京の、あの……地下のやつでも、あるのかなー?」


 首都圏外郭放水路ってやつー?


「それ~」



 ◇ ◇ ◇



 次に横断歩道。

 ちょいと短くて信号の必要性を感じなくはないが、それでも車は通るのでやはり欠かせないのだろう。地元なら「おぉ、通るんか? 今止まるぞ」とブレーキをかけてくれていたが、それはそれ。車の気配がなくとも信号無視は近くの保育園に悪影響だ。


「ちびちゃんたちが、真似しないよう、手本にならなきゃねー」



 ◇ ◇ ◇



 歩いているうちに人が増えていく。チュパカブラを少々加えてわらわらと増えていく。駅前でもないのにこんなに人が行き交うだなんて今まで想像したこともなかった。


「逆にわたし、人が〝がらっぱぴー〟なの、テレビでしか、見たことないやー」


 その感覚、分かりみが首都圏外郭放水路~。


「気に入ったの、それー?」


 うん。



 ◇ ◇ ◇



 更に大きな横断歩道に出た。

 車が最初の横断歩道の非ではない数と速度で行き交っていて、たまにスピード違反車が現れては怒ったクロサイに駅前交番めがけて撥ね飛ばされている。速度違反ダメ、絶対。


「事故ったら、元の子もないからねー」



 ◇ ◇ ◇



 駅近くの架道橋。

 四車線の線路を跨ぐだけあってとても大きく、亀甲羅状の緩やかな坂道は荷物次第では自転車でなくともキツい。稀に目下の線路へ身投げをしてしまう人もいるが、通勤通学中の〝サブカルチャー大好き怪異〟が毎度のように止めに入っては早まる元凶を取り除いてくれるので寧ろそれ目的で飛ぼうとする人さえいる。どちらであろうが漏れなく「電車利用者に迷惑掛けるな」とこっ酷く叱られているそうだが。


「利用者のトラウマになっちゃうからねー」



 ◇ ◇ ◇



 そして、僕が通う中学校。

 歩いて約二十分のところにある『私立・亜如箆莉野(アニョペリノ)中学校』。理事長の家系がそもそも此処(ここ)亜如箆莉野(アニョペリノ)市の大地主だそうで、足の悪い我が子でも通えるようにと私財をふんだんに投げ打って昭和に設立されたそうだ。その亜如箆莉野(アニョペリノ)中学校はちょくちょくアライグマに侵入されてはゴボウを不法栽培されているらしいが、まぁ、それは置いておくとしよう。


「一昨日、プチトマトが新しく追加されたんだってー」


 菜園になっちゃう~。



 ◇ ◇ ◇



 再び架道橋を通って駅。

 正式名称・亜如箆莉野駅。県内有数の利用者数で賑わうこの駅は色んな人々が往来している。通学する学生に、腕時計を見つつ駅中へ駆け込む社会人。駅併設のショッピングを楽しむ若人に子ども連れに中年老年。駅前広場には鼻歌交じりの二足歩行カエルに連なる小人集団や、いい加減に投棄した人にロケット頭突きの制裁を与えては「ノーコン!」と捨て台詞を吐きながら自らゴミ箱に飛び込んでいく空き缶・ペットボトルと様々だ。


「だから真面目に捨てる人が、日々上昇傾向だそうだよー」


 そうなのかぁ。

 改めて、市内は凄いんだなぁ。


「そうだ。たっくん、せっかくだから、私のお気に入りスポット、案内するよー」


 わぁい。


「こっちこっちー」と駅を離れ、

「こっちこっちー」と大きな横断歩道を越え、

「こっちこっちー」と小さな横断歩道を渡り、

「こっちこっちー」と地下通路を上下し、

「こっちこっちー」と桐山宅まで遡り、

「こっちこっちー」と桐山宅を通り過ぎ、

「こっちこっちー」と『超・地元』な素朴通りまで来てみると、


「こっこでーす♪」と遂に彼女は立ち止まった。


 辿り着いた場所は駄菓子屋だった。


 凄いや。

 駄菓子屋が市内にも存在するなんて思いもよらなかった。こういう古き良き店舗、田舎とか集落にしか無いものだと今更ながら思ってさえいた。僕は知らず知らずのうちに市内に駄菓子屋は無いと偏見を抱いていたようだ。


 エっちゃん、気付かせてくれて、どうもありがとう。


「どういたしましてー。はやく、入ろー」


 僕らは早速足を踏み入れた。


 駄菓子屋はお菓子の宝石箱だった。昔懐かしのものから最近のお菓子まで、幅広く取り扱われているのが目に見えて分かる。『昔懐かしツアー』に組み込めば、大人がこぞって参加しそうだ。


 それになんといっても、レジ横に『なんか美味い飴がランダムに釣れるやつ』が置いてあるではないか!


「駄菓子屋の頂点だよねー。おばあちゃーん。いるー? おばあちゃーん?」


 しかし、店主のおばあちゃんは出てこない。


「寝てるみたーい」


 そっかぁ。

 おばあちゃん、ちょっと不用心だよ。これじゃあ万引きし放題だよ。売上が致命傷だよ。


「そこは大丈夫だよー。あの子がいるしー」


 あの子?


「あの子だよー。……ほら、ちょうど出てきたー」


 エっちゃんが指さした先を見ると、黒いお猫さまが店の奥からトコトコ歩いてきていた。

 お猫さまはじっとこちらを見ながら、店内を一望できそうな場所に飛び移り、鎮座した。


「昔、肝試しに万引きしようとしたガキンチョたちを、引っ掻きまくって、騒ぎを聞いたおばあちゃんに通報されて、親と警察にボロクソ怒られて、更生させたそうだよー」


 お猫さま、すごーい。


「ネコー」

 お猫さまは鳴いて、どうぞごゆっくり♪ って感じに目を細めた。


 これなら、おばあちゃんも安心だね。


「万引きGメンが来たところで、選びましょ〜」


 そうしましょ〜。


 各々でお菓子を選び、レジ前に集まった。


「たっくん、何買うのー?」


 ヨーグルトのやつだよー。


 ばあちゃんに分けたら、手の甲に取り分けてたものだから、ハンドクリームじゃないよと言いかけたのは内緒だ。


「わたしも好き~。爆買いするとき、よく選ぶ~」


 エっちゃんは何にしたの?


「わたしは、これだよー」


 エっちゃんが手に持っていたのは全国的人気を誇る〝美味そう棒〟。十円が二枚あればお釣りも来る超安価スナック菓子の〝ランダム味〟だった。


「定期的に博打踏みたくなるんだよね……」


 買う前から不安と期待で、〝(読点)〟と語尾の〝(伸ばし棒)〟を失っていた。


 にしても、エっちゃん。〝美味そう棒〟だけとは謙虚だね。お金、持ってないの?


「そういうたっくんも、それだけ? 手持ちないのー?」


 …………。

「…………」


 僕らはお互いの手持ちを見せ合った。



 僕が28円。エっちゃんは36円だった。



「……お会計、してもらおっか……」


 それじゃあ、今度こそおばあちゃんに起きてもらおう。流石にお金を置いて帰る訳にはいかない。


「ネッコ」

 と、店内と家の境を担う扉に手を掛けようとしたら、お猫さまがレジ台に下りてきた。


 そして器用に肉球を操りレジスターを開けると、商品と値段を見比べて、僕らのお金を咥えてレジスターに入れ、お釣りを咥えて僕らの手に置き、レジスターの引き出しを閉じ、店の外へと出かけていった。


 最近のお猫さまは凄いんだな、と僕らは感心したのだった。


 ――と、思いきや、そそくさと戻ってくると再び店内を見渡せる場所に飛び乗ったではないか。


 その直後、知っている声が店内に入ってきた。


「……お? 竹太郎に、えーと……桐山じゃねぇか」



 小倉さんだった。



「あー。小倉さんだー」


 彼を指差すエっちゃんの人差し指を第二関節まで折り曲げて、ぐーっ、と腰に追いやる。


 おはよう小倉さん。先週以来だね。


「あぁ。もう一週間になるのか。先週の土日はテスト勉強だったんだろ? お疲れさん」


 小倉さんはあったの? テスト。


「あった、あった。ぼちぼちってとこだった。進級・新学期の度にテストやってるから、おまえらも油断すんなよ」


 うーい。


「ネッコ!」

「あぁ、はいはい。来たならさっさと選ばねぇとな」


 お猫さまの催促に小倉さんは会話を一時中断し、お菓子を選んだ。



 煙草状のあのお菓子――〝カカオ・シガレット〟だった。



 小倉さん、それ好きだよね。前も食べてた。


「お菓子っつったら大体これなんだよな。他だってもちろん食べるが、とりあえず感覚でこれ選んじまうわ」


「わたしも、期間限定見ると、他目的でも、手に取っちゃうー」


 その気持ち、とてもよく分かる。分かりみが過ぎて——


「首都圏外郭放水路~」


 いえ~い。

 僕とエっちゃんはアタタり合った。


「ネコッ!!」

 お猫さまが急かすように尻尾をバシバシと鳴らす。


「あぁ、ほら、〝黒糖〟が営業妨害だって怒ってるぞ。買い物済ませたんなら出て行きな」


 会話なら、会計後でも出来るしね。僕らは言われるがまま、店外で小倉さんを待った。

 しばらく待っていると、小倉さんは〝はしゃぎ買い〟して出てきた。


「お待たせ……って、なんで待ってんだよ。思わずお待たせって言っちまった。行く当てないのか?」


 ないよ。


「思い付くところ、行き尽くしちゃったってー」

「だったら、ついてくるか? うちの怒弩寿琥(どどすこ)は用事が無きゃ河川敷に集まる奴らだ」


 行く~。

「レッツゴ~」


 僕らは小倉さんの背中を追う形で河川敷を目指した。



 因みに、歩きながら開けられた〝美味そう棒〟はボルンバソルペーニョ味だったそうで、エっちゃんはとても渋い顔で食していた。

 ……あっ、やめて。口に突っ込んでこないで……ぼぅぇぇえ……。

・ボルンバソルペーニョ味

〝ボルンバソルペーニョの木〟から採れる〝ボルンバソルペーニョの実〟から抽出された〝ボルンバソルペーニョ成分〟がふんだんに使われた味。食した者は忽ち〝ボルンバ〟で〝ソルペーニョ〟な顔となる。

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