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第34話:広まるよ【〃】

前回のあらすじ!

そして彼らはキノキョを採るべく山の中を進んだ。

 ――という事があったよ。

 雨神さんとの邂逅から数十分後――。籠から溢れるほどのキノキョを腰に携えた僕は、毒キノキョの選別を行うエっちゃんに雨神さんの話をした。


「へー。ほんじゃあ、そのキノキョもその雨神さん? から貰ったんだー」


 んだよ。

 と僕は〝無事キノキョ〟認定されたキノキョに混じる毒キノキョを一つ摘まみ野生に還した。


「あっ、ありがとー。たっくん。キノキョの分別、付くようになってきたねー。一ヶ月でここまでは凄いよー」


 えへへー。こそばゆくなり頭を掻く。


 異世界において僕は寝る前にキノキョ図鑑ないしは山菜図鑑を読むのが習慣化していた。それが知識として定着し成果として現れるのは何度でも嬉しいもので、これだから勉学はやめられない、止まらない。


「カ●ビー●っぱ●●●●♪」


 心の唄、読まないでー。


「ところで、たっくんって、勉強、好きなのー?」


 彼女の問いにそだよ、と返答すると、「なんでー?」と続けられる。


 楽しいからさ。


「楽しいの?」


 楽しいの。

 勉学即ち知識とは人望やお金のように幾らあっても困らない、あっでもお金は持て余すなよ。とは僕のじいちゃん木下竹雄の金言だ。その言葉に感銘を受けて、田舎でも実行に移しやすい勉学に勤しんでみたらこれがピタリとハマったのだ。


エっちゃんはどうなの?


「わたしは、そのときさえどうにかなれば、それでいい派ー。」


 とどのつまり、勉学にはそれほどお熱ではないらしい。


 逆に、どの教科が好き?


「体育で身体動かす方が、好きー」


五教科で訊いたんだけどなぁ。別にいいけど。


「たっくんは、何好きー?」


 英語に学究心をくすぐられているよ。


「どうしてー?」


 英語が分かれば、吹替え版を待たずに洋映画が楽しめるぞと教わったからだよ。


「なるへそー」


 おへそー。


「もしかして、眠いー?」


 基本待ってる方が大半だからね。毒キノキョの選別。


「わたしも初め、ユイねぇに任せっきりだったー。早く終えて、下山しようねー」


 帰ったら、朝ごはん作んなきゃね。今日は僕当番だけど、何食べたい?


「取り敢えず、パンと卵があるから、卵サンドでー」


 あい了解。


「それにしても――、地上にも神さまがいるなんて、わたし初めて知ったよー。他の人は、知ってるかなー?」


他の人かぁ……。

 何の気なしに彼女が発したその一言に、僕は感興をそそられた。



 ◇ ◇ ◇



 ――という事があったよ。

 邂逅から数十分後――。エっちゃんと山を下り、一息ついた後に赴いた港場で網の修理に手を動かしながら、グラさんに雨神さんの話をした。


「へぇ、雨神なんて大層な呼ばれ方してる奴がいるんか。初めて耳にしたよ」


 そうなの。


「そういうのはアフノさんが特に詳しいだろうな。ほら、あの人世界中を行ったり来たりしている分、色んな知見を得てるだろうし。ちょうど帰ってくる頃合いだから後で訊いてみたらどうだ?」


 なるほどー。


 彼の口から出たアフノさんは貿易商人。齢三十手前でありながら個人で巨大商船を所有し、大勢の部下を抱えて世界を股にかけるアフロのマッチョッチョである。

 故に滅多にお目にかかれないレア村人だ。


「そんな珍獣みたいに言うなよ」


 聞こえないでー。



 ◇ ◇ ◇



 ――という事があったよ。

 邂逅から数時間後――。グラさんの見立て通り帰ってきたアフノさんに雨神さんの話をした。


「雨神さんねぇ…………あぁ。確かに耳にしたことがあるわ。その名の通り、自在に雨を降らせる力があるってバザールの方が仰っていたわ」


 バザール?


「市場のことよ。砂漠地方で交易している際に聞いたの」


 砂漠にも居るんだね雨神さん。


「えぇ。時偶に街を散策していては『恵みの雨を降らす者』だと敬意を込めて雨神。そう誰かが呼び始めたのが各地に広まったそうよ。ほら、砂漠ってあまり雨が降らないし、水の湧き場所も限られてるから」


 ほへー。


 砂漠地方――干ばつ地帯はとにかく水の確保に苦労すると聞く。そんなところを何の気なしに雨を降らせては立ち去る存在がいたら崇められるのは当然の道理だろう。その理屈でいけば農家さんからもきっとありがたられているに違いない。


 まぁ、それが移動手段による副次効果だとは誰にも思うまい。


「あぁ、そうそう。もっと詳しく知りたければ村長に当たってみると良いわ。あの人沢山の文献に触れているから知識量は村一番だし、思わぬ面白話が聞けるかも知れないわよ」


 そいつぁ、いい事を聞いた。


 仕事が終わったら報告がてら話してみよう。


 アフノさんに別れを告げて、僕はその場を後にした。



 ◇ ◇ ◇



 ――という事があったよ。

 邂逅から数時間数分後――。鍛冶屋にやって来た僕はリンねぇさんに雨神の話をした。


「ん……」


 会話が終わった。



 ◇ ◇ ◇



 ――という事があったよ。

 数刻後――。僕はいつものように各所で研鑽を積ませてもらった後の定期報告で村長宅を訪れて雨神さんの話をした。


 すると村長は感慨深げにしみじみと微笑んだ。


「そうかそうか。アメノコの奴め、遂に〝神〟と呼ばれるまでに至ったか。懐かしいのう。出会った頃を思い出すわい」


へぇ。村長、知り合いだったんだね。


「左様。あやつとは青年期に出会っとってな。当時は雨を降らせるばかりの名も無きモンスターでしかなかった」


 どんな出会いだったの?


「興味あるなら話してやろう。」


 村長はごほん――と咳ばらいを一つして、厳かに語り出した。


「あれは儂が魔法修業に各地を巡っていたときじゃ」



 ◆ ◆ ◆



 云十年前――。

 じりじりと照り付ける陽射しの下、森の中を歩いていたところ、慣れぬ猛暑に飲み水がいよいよ底を突こうとしていた時だった。


「これ、お主」


 木陰に鎮座していた、山を二頭身まで縮小させたようなモンスターに声を掛けられた。


「……なんだキミは?」


「儂に名などない。それよりもほれ、歩くならもう少し横にずれてから歩きんさい」


「それは何故だ?」


「足元を見てみい」


 言われるがまま視線を下ろすと、つま先にエメラルドグリーンの一輪の花が咲いていた。


「植物も生命じゃ」


「おぉ、本当だ。危うく踏むところだった。ありがとう」


「礼には及ばん。儂を凛とした美しさで癒してくれた花へのお返しじゃよ」


「粋なことを言うじゃないか。ところであんた、こんなところで何をしてるんだ?」


「花を道の脇に移したいんじゃよ。道の真ん中では馬車とかに轢かれてかねんからのう。今は陽の暑さにちと休憩中じゃ」


「ここいらの土は固いからな。なら俺がその役目を引き継ごうじゃあないか」


「何……? ……おぉ、花が地面ごと宙に浮かんで…………脇道に埋まったではないか。これなら踏まれる心配はいらんし日向もちょうど好さそうじゃ。ありがとうのう」


「礼ならいらんさ。俺は固ぇ地面でも力強く咲いてみせた花の逞しさに感動しただけよ」


「違いない。……さて、用も済んだし、帰るとするかのう。ほれおまえさん、帰り支度をするでのう、木陰に入りんさい」


「どうして退く必要があるんだ? ……こうか?」


「それでよい。ではゆくぞ」


 モンスターは立ち上がり、呼吸を置いて、謎の舞を披露し出した。

 それはポップで、ときに激しい舞だった。


 ハポハポハポハポハポハポ、サン、ボー。

 ハポハポハポハポハポハポ、サン、ボー?

 ハポハポハポハポハポハポ、サン、ボー。

 デェェェェェェエエエエエ!!!!!

 エビバディセイッ、ヘイッ!


 ボッ!


 舞い終えて両手を天に掲げると同時、頭頂部から白い塊が空へと放たれた。


 その塊は天へと昇り、やがて一面の空に呑み込まれると――


 ザァァァァァ……と雨が降ってきて――


 モンスターはふわふわと浮かび上がったではないか。


「じゃあの」


「うぉぉぉおお! 急いでろ過装置! あっ、ありがとう雨男……いやメスかあいつ? まぁいいか。えーと…………ありがとうアメノコォォォオオ‼‼‼‼‼」



 ――グダグダやん。

 ――回想に干渉してくるでない。



 ◇ ◇ ◇



「こうして思わぬ形で水を得た儂は無事、次の町に辿り着けたんじゃ」


 生命の恩人ならぬ〝恩スター〟だったんだね。


「上手い! カムナさん、クッキー補充してあげて!」


 村長が使用人さんにおやつの追加を催促したところで、次の疑問を投げかけた。


 ところで、さっきからナチュラルに名前出てるけど、雨神さん、アメノコっていうの?


「そうじゃ。〝雨の申し子〟じゃから〝アメノコ〟じゃ」


 なぁんだ。

 てっきり、〝雨を降らせるツチノコ大好き〟からだと思った。


「おぉ、良いなその由来。今度会ったら改ざんしたろ。しかしあやつ——、個としての名はないと言ったそうじゃが、儂が『アメノコ』と名付けたではないか。名乗る機会がないからと忘れおったか? 名付けた以上世間に広まっとるから皆からも呼ばれとるはずなのにのう……?」


 だからって、流石に貰った名前を忘れることはなくない?


「じゃよなぁ…………いや待て。もしやもしかしなくとも…………」


 どしたの?


 訊くと村長は「……あ」と何かを思い出して顔を上げた。


「アメノコって名前、雨音で聞こえとらんかったかもしれんわ」


 ドッ――!

 僕は椅子からずり落ち、村長は照れくさそうに笑った。



 ◇ ◇ ◇



 ――という事があったよ。

 日没後――。一日の終わりを迎えたところで邂逅を果たした神さまに雨神さん——改めアメノコの話をした。


 村長とアメノコの話をしたところで、神さまは実に愉しそうに笑った。


「アホだねぇ。実にアホだねぇ。1発こっきりの名前で定着するわけないじゃんねぇ」


 アホだよ。

 しかもね。「こんなやつがいたぜ」って学会への発表もすっかり忘れていたんだって。アメノコに許可取ってなかったから結果オーライだそうだけど。


「バカだねぇ~~~~」


 神さまは心底愉悦に浸った顔で耳を傾けてくれている。


 尚、この陰口は「もう笑い話にしてしまおうか、えっひゃっひゃっ」としっかり承諾を取っています。


「パカだねぇ~~~~~~~~~~~~!!!!」


 遂に〝馬鹿〟を通り越して『アル〝パカ〟』になってしまった。


 それにしても神さまって、架空のというか、空の存在ってイメージがあったけど、地上にもいたりするもんなんだね。


「それは違うよ。アメノコくんはあくまでモンスターであって、〝神〟として生を受けたわけではないのだよ」


 でも、〝雨神〟って自称していたよ。


「それはほら、あくまでも〝そう呼ばれている〟ってだけでしょ? 人が生まれながらに〝内閣総理大臣〟ではなくて、人の支持を得て〝内閣総理大臣〟になったように、人々の声が力となって〝神〟と成り得たのが〝雨神アメノコ〟なんだよ」


 要約すると、神としては後天性らしい。


「現に君は今日だけで3人の無知者にアメノコの話をしたじゃないか。興味あろうがなかろうが。こうして「そんなのがいるのか」という既知が神としての存在感——所謂信仰を深めることで生物としての力が溜まりに溜まって果てには神の域に到達する。だから私も存在している」


 知らず知らずのうちに神格化に一躍買っていたらしい。


 だったら神さまは、どのようにして世界に顕現したの?


「………………」


 お……?

 訊くと神さまは、痛くもない腹を探られたかのように、ピタリと黙りこくってしまった。


 ……もしかして、知らないの? 我爆誕のルーツ。


「逆に訊くが、きみは自分が生まれた瞬間を憶えているのかね?」


 何人かの気配はあったよ。


「マジか凄ぇな。と、まぁそれは退いとくとして。アメノコくんは〝雨神〟として世界に君臨するよう人々に求められたから〝神〟として進化したわけだけど、私の場合はなんか気付いたらおぎゃんと生まれて君臨していたくらいの認識でしかないんだよね。つまりは〝うろ覚え〟ということさ」


 曖昧御井真陰(あいまいみいまいん)というものか。


 神さまが「よく分からない」と言い切った以上、これ以上は掘り下げようがなさそうだ。


「それはそれとして――、」と神さまが話題の方向性を変えた。


「そろそろ起きた方が良いんじゃない? 今日は入学式なんでしょ?」


 そうだった。


 明日僕は中学校に進学する。待ちに待った、初めての土地で初めての同級生と新要素に釣られてか眠りがどうも浅いのでこうして神さまとくっちゃべっていたわけだ。


 じゃあ、そろそろ寝るね。あまり寝る時間はなさそうだけど、出来るだけ休んでみるよ。


「それならぐっすり眠れた状態で起きれるようにしたげるよ。入学祝いだ」


 神さま、ありがとう。



 行ってきます。

次回、遂に竹太郎が入学です。これからも竹太郎のちょっと愉快な日常をよろしくお願いいたします。

それでは、せーのっ


脳 み そ 溶 け ろ

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