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第2話:村だよ

前回のあらすじ!

保護された。

 しばらく歩いて、僕は村へと続く裏口に着いた。

 魔法ファンタジーゲームに出てきそうな村の気配がした。ゲームによくある、森の中にぽつねんと存在している、自然と上手い具合に共存している感じ。

 二十歳さんは木製の関門に近付き、こちらを見下ろしている、門番っぽいナイスガイと会話を始める。なんて話しているのか、よく聞こえない。


 だから、なんて話しているのか、適当に考えてみた。


 あんにゃらあんにゃら。

 わんにゃらわんにゃら。

 アニョペリノ。


 …………。

 くすっ。


 ほくそ笑んでいるうちに、二十歳さんが戻ってくる。


「さあ、行くぞ」

 言って、踵を返した二十歳さんの後をついていく。


 村へ入ろうとすると、ナイスガイが話しかけてきた。


「聞いたぞ少年。なんか、大変な身に遭って、荷物を無くしてしまったそうだな。装備が揃うまでの間、ゆっくりしていきなさい」

 ナイスガイはそう言って、頭を引っ込めた。


 厳重なんだね。


「ここいらはモンスターが多いからな。私も職業柄、よく退治しに出たりする」


 そうなんだー。


 二十歳さんは、やっぱり狩人だった。


 モンスターが出ない時は、何してるの?


「普通に生活しているな。決まった時間に起床して、決まった時間に朝食を取り、散歩をしたり買い物をしたり、決まった時間に夕食を取って、決まった時間に寝る。それ以外はモンスターに遅れを取らないよう、ひたすら筋トレだな」


 狩人って、何を収入源にしてるの?


「基本的には害獣認定されたモンスターの脅威を取り除いた謝礼金、所謂賞金だな。それに加え、モンスターの角とかの素材を道具屋や鍛冶屋に売って換金したりもする」


 モンスター倒すことに罪悪感は無いの?


「無い、と言えば嘘になるが、互いに互いの生活と命を賭けて闘っているから、気にする暇は無いな。言葉が通じない以上、自然界の掟である弱肉強食を貫くまでだ」


 へー。


 僕はふと、動物の姿を思い浮かべた。


 猟師さんと漁師さんはどんな気持ちで「猟/漁」をしているのだろう? 食用の牛さんや豚さん鳥さん羊さんを解体する人たちはどんな気持ちで包丁を握っているのだろう?


 僕はお肉や魚を食べる時、罪悪感を抱いたことがあるだろうか?


 僕は考えてみた。

 …………。

 ……感謝の方が大きいな。

 そのための〝いただきます〟だし。

 改めて、僕は、僕たち人間は生かされているのだと実感する。


 動物さん、魚さん。ありがとう。


「おー。ユイねぇ。お帰りー」

 心の中で南無南無っていると、丁度前を通りかかった女の子が、とててーっと、二十歳さんに小走りで駆け寄ってきた。


 二十歳さん、ユイさんだったのね。


 髪のみじかい女の子だった。髪の毛は金髪で、ちょっと明るい褐色肌。なんていう種類か分からない緑色の長袖短パンを着ている。年は同じくらいの、緩く垂れた目元と眉毛が僕とよく似ている、なんともボーイッシュな女の子だった。

 金色の髪の毛を見るのは初めてだった。黒色か茶色か白色か灰色の髪の毛しか見たことないから、びっくりだ。

 異世界、すげー。

 …………。

 金髪は、異世界関係ないや。


「あれー? ユイねぇー、その子、だれー?」


 女の子が僕に気付き、目が合う。



 瞬間、僕の脳裏に電撃が走った。



 なんか、親近感(シンパシー)を抱いた。

 僕は人差し指を伸ばして、のらっと前に出した。

 女の子も電撃が走ったのだろう。ほとんど間を置かずに人差し指をぴっと立てて、僕の人差し指に指先を合わせた。


 E・●~。


「いえーーーーい」

 女の子は愉しそうに、ずびずびと僕を両指で突っついてきた。僕も愉しくて、女の子をぴすぴすと、当たんない程度に両指で突っつく。当たったら、痛いだろうし。


 いえーーーーい。

 ぴすぴす、ずびずび、ぴすずびび。


「ねーねー。きみ、名前はー?」

 女の子がずびずびを続けながら訊いてくる。


 竹太郎だよ。


「たけたろう? じゃあ、たっくん、だねー」


 省かれた。


 初めての〝あだ名〟だ。

 わぁい。


「ねーねー。たっくんさー。なんでユイねぇと一緒にいるのー?」


 森で会ったの。


「なんで森にいたの?」


 旅してて、焚き火してたの。


「なんで旅してるのー?」


 …………。

 かちゃかちゃかちゃ、ふぇー。

 僕は旅の目的(の設定)を即興で構築した。


 安住地を探してるの。


「なんだ。そうだったのか」

 ユイねぇさんがそう言う。


 すっかり忘れてたの。


目的(それ)を忘れちゃダメだろう」

 怒られた。


「だったらここに住みなよー。此処、住みやすくて、いい村だよー。この村以外知らないけど」


 女の子がそう、勧めてくる。

 村の中を見回す。


 ……確かに。この自然に囲まれた感じ、僕が住んでいる、じいちゃんとばあちゃん家がある集落に似ている。一ヶ月後に入学する中学校は新幹線を使って行くような市内に住むじいちゃんの知り合いの家に居候させてもらって通うことになっているが、下見した限りあっちは色々とけたたましかった。


 よし。ここに住もう。


「いや、軽いな決断が。……いいけど」


 ユイねぇさんもオッケーらしい。


「じゃあ、良かったらわたしのところに住みなよ。わたし、一人暮らしだからさ。部屋、なんぼか余ってんの」


 いいの?


「いいよいいよ。わたしも一人暮らしで、退屈だからさー。話し相手、欲しかったんだよねー」


 じゃあ、よろしくお願いします。


「いえーーーーい」

 女の子のずびずびが、さらに強まる。


 ところで。きみ、名前、なんて言うの?


「あ、忘れてた。わたし、エイリっていうのー」


 よく切れるの?


「鋭くないよー。鋭いのは、犬歯だけだよー」

 そう言って、エイリは大きく口を開けて、立派な犬歯を見せてくれた。


 犬だね。


「わたし、人間だよー」


 そうだねー。人間だねー。よろしくねー、エっちゃん。


「え? わたし、えっちゃん? やったぁ。あだ名もらったー、いえーーーーい」


 ずずずずずずずび。


「はーい、エっちゃん。タケタローを村長に紹介するから放しな。日が暮れたら、あの人さっさと寝ちゃうから」


 と、ユイねぇさんが、エっちゃんを止める。


「ほーい。あ。ねえねえ、わたしもついてってい? たっくん、わたしん家知らないし。村の構造、全然知らないだろうし」


「――と、言ってるが、構わないか?」


 いいよ。


「じゃあ、行くか」

「うぇーい」

 うぇーい。


 僕は村長さんの家を目指しながら、相変わらずずびずびってくるエっちゃんと突っつき合いをした。


 ずびずびずびずび、ぴすぴすぴ。

・ユイ(ユイねぇさん)

竹太郎を保護した狩人。

幼稚園年齢から練習を積んでいた狩猟の腕前は一級品で、20歳になった現在でも機会があれば実力者に教えを乞いに行っている生真面目タイプ。

故に、手豆が絶えないのが小さな悩みだそう。

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