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第28話:知るかよ【〃】

前回のあらすじ!

現世でエっちゃんと再会。

「いえーーーーい」

 いえーーーーい。


 と、二人して百裂指を繰り出し合っていると、廊下に物を置く音がして、エっちゃんに続く第三者が入ってきた。


「ただいまァ~。あらァ~、どうも木下さん。ご無沙汰してますゥ~」


 畳に膝を着いて深々とお辞儀したのは永治郎さんの奥さん、金髪碧眼のエリーお婆さんだった。その毛髪は明らかに地毛で、顔立ちも日本人のものではない。


「おう。エリーさんも達者で何よりだ。ぶふぉ」

 まだ若干ツボっているじいちゃんへの挨拶も程々に、エリーさんは僕と戯れるエっちゃんに目を向ける。


「あら、エイリ。早速お友達ができたのォ。良かったわねェ~」

「できたァ〜」


「すげぇぞ永治郎。俺の孫とお前の孫娘、もう打ち解けやがった」

「なんだ永利。随分仲良さげだが、会ったことあったか?」


 永治郎さんの言葉に僕らは目を合わせた。


「……ずびずびずびずびずび」

「OK。よく分かった」


 分かってもらえたようだ。


「たっくん。ここいら、知ってるー?」

 エっちゃんから突拍子のない質問が飛んでくる。肝心の主語を端折って返答に困らせてしまうところが彼女にはある。


 どゆことー?


「ここいら、歩いたこと、あるー?」


 地理把握は得意だが、前回の挨拶時に周辺を散策したことはなかった。


 なーい。


「全くー?」


 微塵もー。


「うんじゃあ、近所、案内するねー。爺ちゃん、婆ちゃん、ちょっと出かけてきまーす。おじいちゃん、たっくん、お借りしまーす」

「おう永利ちゃん。よろしく頼まぁ」

「楽しんで来いよぉ」

「車には気をつけてねェ」


 うーい、と僕らは返事して靴を履いた。



 ◇ ◇ ◇



「まさか、こんな形で出会うことがあるとはねー」

 玄関の戸を閉めるなり言い出したのはえっちゃんである。


 僕は向こうの世界――(もとい)異世界の村で彼女と既に出会っており、彼女の家に住まわせてもらっている。現世では初めましてだが異世界では確かな交流がある、初対面だけど初対面じゃない不思議な間柄だった。


 ということはだ。異世界の住人と思い切っていた彼女がいま目の前にいるということは、彼女もまた、僕と同じ現界と異世界を行き来する存在なのだ。


 確信に至れる要因はあった。僕も彼女も事故って重傷を負い、意識を失っていたという共通点だ。彼女が親子共々事故に遭っていたとじいちゃんから聞いていたから間違いない。何より彼女が僕を「異世界で出会った木下竹太郎」と認識している。


 それに、思えば彼女が現界の住人を連想させる言動が所々にあった。「E・●」のノリを分かっていたり、異世界の住人が「龍日」と称しているのに対し、彼らが知らないはずの「曜日」という名称を使っていたり、異世界に浸透していない箸を使いこなしていたりそれに何より、神さまの登場に慣れているかのような返事をしていて且つ神さまも「いつも見てるよー」と言っていたからだ。あの時は毎日下界を眺めているから一方的に知っているぜ、の類だとスルーしていたが、視点を変えれば知っている人物なのでよく観察しているぜ、という意味でも受け取れる。


 ならばどうして「お久新香ー」ではなく「夜露死苦ー」だったのだろう? エっちゃんと知り合いならば、そのような初対面への挨拶はしないはずだ。


 考えていたら無性に気になってきた。僕は大体の事柄を「へー」で済ます方だと思っていたが、実は中々の知りたがりのようだ。


 エっちゃん、エっちゃん。


「なんじゃらほい?」


 僕が向こうで神さまを呼んだ時のこと、憶えてる?


「いつだっけ、それ?」


 ミノタウロス遭遇報告の後、アフノさんへ会いに港へ向かう前。


「あー。あったねぇ」


 あの時のこと思い出してたんだけど。神さまとのほぼ初対面なやり取り何だったの? 転移してるなら神さまと会ってるはずだと思うけど?


「……あー、あー。あれねー。わたし、神さまとは、ほとんど会ってないのー」


 会ってない?


「うん。神さまと喋ったの、最初の転移説明っきりなのー」


 あれま。

 それじゃあ、あっさり塩な挨拶も、仕方ないね。


「みんな親切だから、神さまに頼ること、全然なかったんだよねー。だから会うことまず無くて、お互い距離間つかみ損ねてる感じー」


 ほとんど話したことないクラスメートへの接し方が分からなくて、コミュニケーション迷子に陥っているようなものだろうか。


「分かるような、分からないような」


 心の声、聞こえないでー。

 まぁ、分かんないのは僕もだけど。


「なんでー?」


 小学校、生徒、僕しか居なかったから。


「じゃあ、中学校では、いっぱい友達作ろうねー」


 別に、無理にいっぱい作る気はないかなぁ。


「どうしてー?」


 エっちゃんみたいな信用できる人が居れば、少人数でもいいよ。


「………………ぽっ」


 エっちゃんが僕の脇腹を「うりうり」と肘鉄してくる。少しこそばゆい。


 うふふのふ。肘鉄し返そうか考えようか考え始めたその時、えっちゃんを呼ぶ声がした。


「あ。永利だ。おーい」


 顔を向けると、道行く先から女子二人、手を振りながら歩いてきていた。


 手を振っている方はエっちゃん同様元気ハツラツな気配がする黒髪ショートカット女子、もう片方は読書が好きそうな黒髪ロングの子だった。


「あれ? 永利ちゃん。その人は?」とロングさんが僕を見る。


「たっくんだよー」

「本名どこいったー?」

「あそこの鳩に連れ去られました」


 エっちゃんが指差した先では、鳩が群れを成して飛んでいた。


 さようなら、木下竹太郎。


「木下竹太郎くんね」


 んだよ。

 ところでエっちゃん、こちらの方々は何方?


「ショートカットのセっちゃんと、ロングのしーちゃんだよー」

「おおい。私らの本名どうしたー?」

「あっちの優犬が食べてしましました」


 エっちゃんが(省略)には、やさっとした顔の犬が、おばあさんの歩幅に合わせていた。


「おれの横山星羅(せいら)ーー」

「私の寿乃田翔子(しょうこ)ーー」


 どんまい。横山セっちゃんさんと、寿乃田しーちゃんさん。


「木下くん、変わった呼び方するねぇ」


 セっちゃん、しーちゃん、だと呼び捨てになっちゃうじゃない。


「もう〝ちゃん〟で完結しているから良くね?」


 そういうもんかなぁ……?


「まぁ、それは置いといて。永利、どしたんその子? 彼氏?」

「?」

「すまん。まだ早かったか」

「もう、セっちゃん。すぐそっちに繋げるのは駄目だよ。私がはしゃいじゃうよ」

「しーちゃん、恋愛系大好きだもんねー」


 へー。


「だって、だって。男女が一緒に居るだけで愉しいのに、それで片方から惚の字の気配を感じられたらもうでぁあぁっし! ってなるしかないじゃん。ねぇ?」


 知るかよ。

 ……いや、待てよ? そんな二人組には心当たりがあるぞ。


「なになになになに教えて教えて?」と、しーちゃんが無呼吸早口で捲し立てる。


 僕とエっちゃんの知り合いで。とある女子が幼馴染みの男子に明らかなる好意を向けておりまして。僕らは二人を傍目におやつを食べました。


「どぅあっっっし‼‼‼‼」


 更に、その女子の園児くらいの弟が、同い年の少女に間違ぇなく〝ぽ〟で、その子とはほぼ確定で共に遊びに出ておりまして。


「わぃす‼‼‼‼」


 その少女に頭を撫でられれば、たちまち赤面して地面に埋まるの。


「あ゛り゛がどう゛ござ゛い゛ま゛す‼‼‼‼‼‼」


 しーちゃんは濁音に塗れて遂には土下座した。


 落ち着きなよ、しーちゃん。服汚れるよ。


 しーちゃんは「あ、うん」と立ち上がり、膝頭を叩く。我を戻すのは案外早かった。


「こいつ、荒ぶりやすい分、我に返るのも早いんだよ。会ったときから全然変わんね」


 三人はいつからの付き合いなの?


「私が爺ちゃん婆ちゃん家に越してからだから……小四だねー」

「変わってねーといえば永利もなんだよ。転校してきた時からずっと木下くんと同じ薄目垂れ目垂れ眉毛で、寝惚けた時とお風呂入ってる時しか目開けないっけ」


 僕も開眼するの、寝起きと風呂ってる時だけって話だよ。じいちゃんが言ってた。


「見開くタイミングも一緒かぁ」

「ここまでくると双子だよね。木下くん見た時、あれ? 永利兄弟居たっけ? って一瞬疑ったもん」


 もしくは、世界に三人いるといわれる自分のそっくりさん?


「それ、性別違くても適用されるのか?」


 知らね。


「知っとけよ」

「じゃあ、適用されることにしちゃおー。知らないってことは、誰もそれについて考えたことがないってことだしー」

「それで良いのか?」


 それで良いのだ。


「あ。木下くん、アニメとか漫画、イケるタイプ? どんなの見てたりする?」


 某天才おじさんの台詞に、しーちゃんが反応する。


 じいちゃんが持ってるやや昔の作品から、近所の姉ちゃんに読ませてもらってた現代の作品まで、それなりに知ってるよ。


「おぉ……。中々だねぇ」


 しーちゃんはどうなの? 小説とか読んでそうな雰囲気だけど。


「アニメ漫画映画ドラマ小説エッセイ画集絵本NLBLGLなんでもござれだよぉ」


 後半二つ、なんの略称?


「ボーイズラブ、ガールズラブで、所謂男性同士、女性同士の恋愛のことだよぉ。さっき古本屋で買ってきたのがあるけど読む?」


 と、しーちゃんが取り出した買いたてほやほやの二冊を速読してみた。


「どうだった?」


 ナスビだったなぁ。


「どゆこと?」


 嫌いと言い切る程じゃないけど、好きでもない。出されたら食べる程度の感じだった。


「それじゃあ、しょうがないねぇ。無理に食べさせて嫌いにするのは、生産者への冒涜だしねぇ」


 ほんじゃあ、決済したところで四人の会話に戻ろう。えっちゃんが拗ねちゃう。


「そうだねぇ」


 と、しーちゃん共々二人の方を振り返ると――エっちゃんは、セっちゃんに、顔を揉み解されていた。


「あっ、終わった?」


 と、訊いてきたセっちゃんにされるがままのエっちゃんの垂れ眉は一ミリほど悲しい方に下がっていた。相当寂しい思いをさせてしまったらしい。ごめんね、エっちゃん。


 ……で、なんの話してたっけ


「行き当たりばったりの会話しかしてなくね?」

「主題、無くねー?」


 無いよ。


「じゃあ、主題探しにどっか行こうぜ。うちらもばったり会った身だし」

「うーん……でも、たっくんに町案内するって決めたから、また今度がいいなー」

「だったら、次の土曜にすっか。朝十時でOK?」

「うん。これからも、みんなで遊ぼうねー」

「おう。でも、これから遊ぶのは、地区が違うから難しくなるだろうなぁ」


 意味深な発言をするセっちゃんに、思わず会話に割り込む。


 地区が違うと、どうして難しくなるの?


「中学校違うんだよ。わたしとしぃは一緒だけど、永利だけ別なんだ」


 学校違うと、会えなくなるもんなの?


「会えなくなるというか、会わなくなるんだな不思議とこれが。幼稚園一緒だった子も、クラス違った途端あんま会話しなくなったし」


 あれまぁ。

 聞いていて僕は悲しくなった。僕自身は同級生が存在しなかったので戯言でしかないが、学校が別々になるだけで仲良かった友達と会わなくなるなんて、やるせなくなってしまうではないか。

 学校が変わるのは仕方がないにしろ、どうにか縁を切らさない方法はないものだろうか。


 なんて脳をこねくり回していると、セっちゃんがパチンと指を鳴らした。


「ならあれだ。休みの日は連絡取ろうぜ。会える日はエリンするわ」


 セっちゃん。エリンって、なんだい?


「知らんの? スマホのメールアプリ『ELIN』だよ」

「でも、わたし、まだケータイ持ってないよ? 買うの明日」

「なら明日、ウチらが永利ん家に殴り込むわ。出かけるの午前? 午後?」

「午前だよー。午後になったらやり方教えてー」

「おう、教えた暁にはスタンプ爆撃するわ」

「やめてー」


 ブーたれながらも、エっちゃんはどこか楽しそうだった。


 その様が、僕には少し羨ましく見えたのだった。

「今度は木下くんが悲しんでるよぉ」

「永利、GO」

「うぇーい」

「ぎゃああああ」

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