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第26話:過ごすよ③

前回のあらすじ!

川とラブコメ。

「全くよー。靴脱いで遊ぶだけならともかく、着替えも無しに小川に飛び込むんじゃねぇよー。『なんかちょうどいい小川』だったから無事だったものの、他の川なら、水面下の岩で強打してるか、流されてるか、最悪溺れてたぞー」

「ん」


『なんかちょうどいい小川』を満喫した僕らは、先行しているグラさんと、その隣に並ぶリンねぇさんの自宅たる鍛冶屋を目指していた。


 グラさんは先程まで休暇を持て余して小川で腑抜けていたのだが、リンねぇさんに小川へ突き落とされたことで普段の『面倒見の良い見た目だけヤンキー』へと戻った。するとリンねぇさんまで後に続いて小川へ飛び込んだために二人揃って水浸しになってしまったのだ。


 結果、グラさんはリンねぇさんを鍛冶屋まで送ると進言したので、なんか面白そうだと踏んだ僕とエっちゃんとユイねぇさんは、帰る名目でついてきたのだった。


 それはそれとして、僕には目的が別にある。

 グラさんが小川で口に出していた『水龍日』について訊きたいのだ。言葉の響きから『曜日』と関係が深そうではあるが、僕のところと異世界では差異があるかも知れない。そういった差異は明らかにしておくに越したことはない。

 なんてタイミングを見計らっていると、隣のエっちゃんが声を掛けてきた。


「水龍日は曜日と同じで、七体の龍による、一週間それぞれの日の名称だよー」


 心、読まないでー。

 でも、教えてくれて、ありがとー。


「どーいたしましてー」


 読まれたついでに訊きたいんだけど。水龍様以外に、何が居るのー?


「それじゃあ、折角だし、一から説明するねー」と、エっちゃんは続ける。


「紀元前だかに、各地で七体の龍が七日連続で観測されたらしくてー。観測された時間帯とか、場所に因んで、一週間の暦を『七龍日』と名付けたんだってー」


 へー。


「最初に観測された龍は日中堂々飛んでたから最初の日は『日龍日』。二日目に現れた龍は月を目指して飛んでたから『月龍日』。三日目は火山地帯で見つかったから『火龍日』。四日目の『水龍日』はお察しの通り水辺にいたから。そんで五日目『木龍日』の龍は森林地帯住まい。六日目の『金龍日』の龍は金鉱山を根城にしてて、七日目に現れた『土龍日』の龍は土を盛り過ぎで小島そのものになってるって、はなしー」


 なるへそー。


 要するに、異世界では『①日龍・②月龍・③火龍・④水龍・⑤木龍・⑥金龍・⑦土龍』の順で観測されたから、曜日を『龍日』と称しているようだ。


「そーともゆー」

 エっちゃんは説明が通じたことに、ご満悦だ。


 彼女の反応を愛でていると、前を歩いていたユイねぇさんが、いつぞやの話をグラさんに持ち出す。


「それはそうとグラン。おまえ、リンの言ってること、訳せるじゃん」

「まぁ、はい。大体は分かるっすね」


 グラさんは基本的に、年上には敬語を使う。若干砕けてはいるが。


「リンも外をうろついていたところを捕まえたんだけど、何目的だか訊いても、さっぱり分からんのだ」

「そういうことっすか。リン、外で何してたんだ?」

「ん……」

「鍛冶屋の跡継ぎ修業をしてたら、「根詰めすぎ。外の空気吸ってこい」と、親父さんに追い出されちまったそうです」


 あれまぁ。


「おまえもグラン同様、一度始めたら休まないタイプだからな。グランもグランで、漁網直し始めると、声掛けられるまで無心でやってるし」

「そういうあんたも弓を始めたての頃、丸一日練習してたじゃないすか。指から血が出るまでやるから、しょっちゅう治るまで取り上げられてたって」

「何で知ってんだよ。弓始めた頃といったらおまえ、1~2歳じゃないか」

「リンのおやっさんたち大人組が喋ってるところをリン共々聞きました」

「あんにゃろうども」


「誰があんにゃろうだって?」

 突如として掛けられた声に顔を向けると、僕らは鍛冶屋に着いていた。


「ぎゃあ。おやっさん」

「随分と懐かしい話をしてんじゃねぇか。あん時は、指傷める度に練習禁止されては不貞腐れてたっけなー。がっはっは!」

「止めてくれぃ……」

「……で、リンとグランは、なんでそんなずぶ濡れなんだ?」

「あーっと……どう言えばいっかなー……?」


 グラさんは悩まし気に頭を掻く。グラさんからすれば、突然小川に落とされたのだから説明の仕様がないし、「あんたの娘にやられました」と馬鹿正直には言えないだろう。


 これは客観者だった自分が言うべきかと口を開こうとすると、


「仕事が無くて『なんかちょうどいい小川』でぼーっとしてたグラにぃをリンねぇが突き落としてー。したっけ、自分も後に続いたのー」


 エっちゃんが全部説明してくれたとさ。


「がっはっは! 後ろを取られるたぁグランもまだまだだな!」

「まぁ……リンだったからなぁ」

「とにかく、服脱いで炉前にかけとけ。リンも着替えてこい」


「うぃっす」「ん……」と返事して、グラさんは着ていた分を取り払い、リンねぇさんは鍜治場の奥へと引っ込む。


 グラさんの身体を見る。

 グラさんはよく引き締まった身体をしていた。彼の父親たるアラールのマッチョッチョに、リンねぇさんの父親である鍛冶屋のおっちゃん、自衛が必要な海域を股に掛ける交易商人のアフノさん程ではないにしろ、相当鍛えている方なのは確かだ。


 ……と思ったが、向こう三人が常軌を逸しているだけな気がした。


「比較対象、間違ってると思うよー」


 聞こえないでー。


「おいグラン。タケタローが鍛えられた身体だな、だとよ」


 ユイねぇさんも、聞こえないでー。


「そうか? 親父に比べりゃあ、まだまだだと思うけど」


 認識、バグらないでー。


「そうだよグラにぃ。アラールのおっちゃんと、此処のおっちゃんと、アフノさんは体躯がイカレてるだけで、大体の人はリリさんとか、リグレイさんみたいな、細マッチョだと思うよー」

「せめて恵まれてると言えや、本人を前に……」


 鍛冶屋のおっちゃんが、エっちゃんに最もな難癖をつけたそのときである。


 遠くからがっしゃんがっしゃん、どごんどごん――と金具音に聞き覚えしかない足音が近づいてきて――どんどん近づいてきて、



「ゴンゾーーーー‼‼‼‼‼‼」



 大量の銛を両腕に抱えた、みんな大好き大惨劇おじさん・アラールのマッチョッチョが豪声とともに訪ねてきた。


 鍛冶屋のおっちゃん以外の人と店の備品が紙切れのように壁際まで吹っ飛んだ。


 というか鍛冶屋のおっちゃん、ゴンゾーだったのね。


「銛の修繕を依頼するぜ‼ 金は惜しまねぇ‼ て、グラン居たのかおまえ」


 マッチョッチョは吹き飛ばした人の山の中に自身の息子を見つける。


 と同時に、唯一咆哮を耐えたゴンゾーさんは額に青筋を立てた。


「てっめぇ、声自重しろって何度も言ってんだろうがァ‼ 後片付け大変なんだよ‼」

「すまん‼」


 今度は窓ガラスにひびが入った。


「だからうっせえつってんだろ! やってやるからさっさと帰れ‼」

「それは無理な話だ‼」

「なんでだよ⁉」

「外は雨盛り真っ最中だ‼」


 耳を傾けてみると、外はそれなりに強い雨の世界と化しているようだった。しかし入口から射す日光は明るいので天気雨だ。


 晴れ間の雨も浮乗があるものだと眺めていると、

「わーーーー」

 小川のちびっ子たちが「宿らせてー」とわらわらなだれ込んできた。


「うちは雨避け場じゃあねぇぞ」とゴンゾーさんが呆れていると、


「まあまあ、儂に免じて許してたもれ」


 村長までもやって来た。


「増えた!」


「ケイちゃんもおるぞ」


 村長の後ろから肉屋のオババも入ってきた。


「更に増えた‼」


「ふがふが……包丁を研いでくれんか、ふがふが」

 オババが懐から取り出したミノタウロスを解体したときの包丁は若干刃こぼれしていた。


「儂は果物ナイフじゃ」


「おう」とゴンゾーさんは二丁を受け取りつつ「つーかさ――、」とオババに話しかける。


「ばあさん砥石持ってないのか? 肉屋なんだから常備しといた方がいいだろ?」

「だるいんじゃ」


「肉屋ぁ……」とグラさんが呆れていると、


「婆ちゃん、ここに居たのか」

 ミノタウロス肉を配給していた青年が入口から顔を覗かせていた。どうやら孫らしい。


「おや、孫」

「雨の中、急に解体包丁持って出て行くから何事かと思ったよ。研ぐのはオレと父さんがやるって言ってるだろ? 婆ちゃんだって足腰弱ってんだからさ、毎度ここまで足を運ぶことはないよ」

「研ぐ時間があるなら肉を解体して経験を積んどきんさい。研ぐのはわしのへそくりから出せばええ話じゃ」


 オババの返しにお孫さんは「うぐ……」と図星を突かれたように言葉を詰まらせ、


 僕はうわぁい――と感心した。

 解体練習の時間を確保させるために自腹を切って研磨を頼むなんて、なんて孫想いなのだろう。うちのばあちゃんと仲良く出来そうだ。


 まぁ異世界だし無理だけど。

 と、身も蓋もなくぶった切っていたら――「ん……?」と着替えを終えてきたリンねぇさんが死(んでいない人)体の山を見つけた。


 リンねぇさんが死体の山を指差しながら何があったのかと周囲を見やるが、


 アラールのマッチョッチョを見つけるなり全てを察したようで、グラさんを山の中からずるりと引っ張り出し、「ん」と腕に掛けていた着替えを渡す。


「おう、ありがとよ。奥借りるぜ」

 グラさんは言ってタオルを肩に掛け、慣れた足取りで部屋の奥へと消えた。


 が、少しすると「ん……? あら……?」とグラさんが何か違和感を抱く声が聞こえてくる。サイズが間違っていたのだろうか。駆け足とともに彼は戻ってきた。



「スカートじゃねぇかこれぇ‼‼」



「ふははははははははははははは‼‼‼‼‼」


 雨宿り会場と化していた鍛冶場は抱腹絶倒の嵐に包まれた。タオルを肩に掛けた上半身全裸の細マッチョ男とスカートのミスマッチ感が余計可笑しさを増幅させており、中にはツボに入ったのか、ユイねぇさんを始め呼吸困難に陥っている者もいる。


 かという笑いの爆心地グラさんは青筋を浮かべまくっていた。


「じゃかあしいわてめぇらぁ! これならびしょ濡れのズボン履いてる方がまだマシだ! リン! 悪いがスカートは返すぜ!」

「ぶっふぉおwwwえほほほwwwwいひひひひwwwww」

「わざとかお前ぇぇえええ‼」

「グラにぃグラにぃ」

「なんだぁ⁉」

「コウくん、洗濯タライに入れようとしてるよー」

「おいぃぃいい⁉ コウ待てぇぇええ‼ 入れるな逃げるな持ってくなぁぁああああ‼」


 どったん、ばったん、おーおー、ぎゃああ……。天気雨は既に過ぎ去ったけど、鍛冶屋の賑わいはまだ止まなそうだ。


 来月から通う中学校でも、こうなればいいな。


 僕は遥か遠い異世界から、新天地への想いを馳せた。


 友達たくさんでっきるっかなっ(4連符)♪

次回より、【現世part】が入り混じるようになります。筆者は元々異世界転移は竹太郎の半生の一要素として扱っており、主体は竹太郎がどう過ごしていくかが「アニョペリノ日和」の要と思っております。それでもよろしければ御一読いただけると嬉しいです。

長々と失礼しましたが、最後はいつもの言葉で〆るとしましょう。それでは、せーのっ


脳 み そ 溶 け ろ

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