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第22話:バベるよ

前回のあらすじ!

帰ってきたよ。

「オラァァ! どんどん持ってこーい! これでもかと持ってこーい! 泣きわめくまで持ってきて、熱いうちに食いやがれーー‼」


「泣かしてどうすんだボゲェーー‼」


「言葉のあやだバカヤローー‼」


 村へ帰省し、ミノタウロスをしばいてもらったその日の夜――。僕は村人たちと一緒にミノタウロス肉に舌鼓を打っていた。


 きっかけはミノタウロス肉の分配中――。肉を受け取った農家のおばあさんが「重くて持って帰れんわ。道具屋のヨシさんと食べることにするよ。いいかいヨシさん?」「ええですよキエさん」とおばば二人で結託していたところを見たアラールのマッチョッチョが「だったら此処で焼いて食っちまうか! グラン、鉄網持ってこい! おらぁ! 持ち帰んのがめんどくせぇ奴はとっとと持ち寄りやがれー‼」と呼びかけた結果、実は村人全員が帰宅をかったるがっていて、自信の取り分を持ち寄ってきたのだ。


 そのマッチョッチョはというと――、炭を分けてくれた鍛冶屋のおっちゃんと、さっきから言葉のどつき合いを繰り返していた。原因は不明だが、聞いていて「馬鹿だなぁ」と愉しい気分になれるし、他の人々も聞き慣れているようなので止める気はない。


「おじさーん。お肉ちょうだーい。どんどこ盛ってー」


「おー」


 視界の端っこから現れたリコちゃんとコウくんが、マッチョッチョに肉をねだる。


「おう! どんどん食って、俺みたいにでっかくなれよ‼」


「そこまではいい」


「おー」


 二人はあっさり言い切った。瞬殺されたマッチョッチョは「あ、そう」とやや寂し気に口を閉ざして、リブロースを山のように盛りつける。


「わーい」

「おー」


 おチビ二人は去って行き、広場の隅っこで佇む明らかに目がラリッてるラウドロックなダチョウに肉を分ける。「良い肉を使っているね。炭火の焼き具合も(割愛)」と美食を満喫しているが何時から来ていたのだろうか?


 まぁ、いっか。


 食卓を囲っているのが誰かなんて些末な問題でしかない。人間だろうが動物だろうが、魔獣だろうが石だろうが、飯をともにしたならその瞬間から〝マブダチ〟なのだ。それが種族の境界を取っ払うバーベキューなら尚更だ。地元の知り合いとしかしたことないけど。


「へいへーい、たっくん、食べてるー」


 タンの筋繊維と激闘を繰り広げていると——エっちゃんが山盛りのハラミを「もしゃー」と食べながら僕の隣に腰掛けた。


 食べてるよ。そっちは?


「うまうま、してるよー。たっくんにも、あげるー」


 えっちゃんは、ひょいこらっさっさと、ハラミを僕の皿に移し替える。


 じゃあ、僕もー。と、僕も先程貰ったお箸で、えっちゃんのお皿に、タンをどっさり盛りつける。


 お箸を得たのは肉が焼かさった直後――。フォークを見つめ、つい先週までお箸で食べていたのが懐かしくなっていたら、「どうした? フォーク使いづらいか?」と鍛冶屋のおっちゃんが訊いてきたので、お箸の話をしたら「じゃあ、作ってやるよ。形状教えろ」とわざわざ作ってくれたのだ。エっちゃんのお箸も、聞きつけ彼女が「わたしもお願ーい」と追加注文したものだ。


 エっちゃんは凄かった。グラさんやリンねぇさんが「このオハシってやつ、小難しすぎるわ、ちょべりばー」とギブアップした中、エっちゃんただ一人は、練習もなしで見事に使いこなしてみせたのだ。箸は特に扱いが難しいというのに。



 それはそうと――、

 僕はいつになったら現実世界に帰れるのだろう?



 箸を見ているうちに、ふと日本の暮らしを思い出してしまった。


 こちらの世界に来てかれこれ一週間――。神さまは身体もとい頭部の傷が完治するまでの辛抱だと言っていたが、具体的な日数を訊いていない。傷は脳まで浸透していたというし、最悪、早くてもあと一年は帰れないかもしれない。


 まぁ、それは待っていればいいし、憂いていたって仕方がない話。問題はその後だ。


 僕が元の世界に帰ったらこの村の人たちはどうなるのだろう? 居なくなった僕を探すのだろうか? それとも、見つかりっこない僕を探す人々を哀れんだ神さまの計らいで、僕と過ごしたことは綺麗さっぱり忘れさられてしまうのだろうか?


 横で「うまうーま」とリスになっているエっちゃんを見る。



 …………嫌だなぁ……。



 みんなみんな、初めて地元以外でできた友達なのだ。完治するまでの間柄とは分かっていても、二度と会えなくなるなんて、果てには、みんなの中で僕が〝存在しなかった人〟になるかもしれないなんて、そんな無常、耐えられっこない。


 ……ああ、そうか。


 じいちゃんとばあちゃんも、我が子……僕のお父さんとお母さんを亡くした時、こんな気持ちだったんだな。


 るー……。


「ところでさ。たっくん――って、うわぁ。どしたの? タミャノギ、目に沁みた?」


 心配してくれたエっちゃんに、玉ねぎによく似た〝タミャノギ〟を急いでやっつけて、向き合う。


 沁みた、沁みた。

 ――で、なんだい?


「ミノタウロスって、本来? 牛頭人身のモンスターじゃん?」


 そうだねぇ。


「いまわたしたちが食べてるミノタウロス。全身牛肉で、人の要素、二足歩行くらいしかなくねー?」


 そんなやつもいるさ。


「そっかぁ」


 僕は涙を引っ込めて、彼女と一緒に、のほほんと笑った。

「おいらがイレギュラーなだけだモ」

「この牛頭喋ってるぅ」

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