第19話:いいよ
前回のあらすじ!
帰ってきたけど……?
「……ジーマーで言ってる?」
「ああ。そっちからも、何か言ってやってくれ」
一分後、村長宅――。
村長宅に着くなり、即座に客室に通された僕は、早速村長に、僕が古龍さまの元へ行くことを、乗り気じゃないユイねぇさんと提案した。
結果はというと――、
「…………………………ありじゃな」
なんかあっさり通った。
これには「ちょい、村長!」と、ユイねぇさんもご立腹だ。
「まあ、待てユイ。お主が腹を立てるのは分かる。事実、儂も聞いた時は何かの冗談かと思った」
「だったら……‼」
「だが、時間が惜しい時に、手立てに迷うておったのも紛れも無い事実。それに、タケタロウの魔法と、儂の魔法を組み合わせれば、無為にしてしもうた時間もワンチャン一気に取り返せる。尚且つ、タケタロウも無事に帰ってこれそうなんじゃ」
その魔法って?
「口で説明するより実際にやってみた方が早い。ほれ」
村長は円を描くように杖を振ると、先端から発した光で、僕をぺけーと照らした。
「一歩で儂の背中に回ってみい」
うん。分かった。
妙な無茶振りだけど物は試しだ。僕は返事をして、足にグッと力を込めた。
瞬間――、
ドギャンッ! という音とともに、瞬く間に僕は村長の背後に立っていた。
わあ、速い。
感心していると、「というわけじゃ」と村長はユイねぇさんに言った。
「これならミノタウロスの妨害もなく山頂までぶっ駆けれるじゃろう。この爆速で動ける状態にお主の魔法が合わされば、『腹を満たす』という殺意に満ちたミノタウロスの目をも掻い潜って、龍さんのもとへ行けるはずじゃ。もち、ミノタウロスと出くわさぬなら、それに越したことはないしのう」
古龍さま、タツさんっていうんだね。
「村長‼」と、ユイねぇさんが食って掛かる。
が、村長は悔しそうに顔をしかめて言う。
「分かってくれ、ユイ。卑怯な言い方じゃが、タケタロウ以上の適任者がおらぬことは、お主も理解しとるじゃろう」
「……ッ‼」と、ユイねぇさんは痛いところを突かれたように言い淀む。
「……というわけで、タケタロウ。改めて、過酷なことではあるがどうか頼まれてくれ。現状を打破できるのは、お主だけなんじゃ……!」
村長はぺこり――と、頭を下げた。
僕の返事はとうに決まっていた。
うん。いいよ。
◇ ◇ ◇
「では、頼んだぞ」
十分後――。僕は万全を期して村長宅を出た。
今僕が見に包んでいるのは村長から貸し出された擦り傷防止の分厚い長袖にガッチガチの靴。大きいリュックサックには、携帯食と瓶に詰めたろ過水、雨具が入っていて、両手には急斜面対策の引っかけ棒。じっちゃんと見た山岳テレビに映っていた、完全登山装備だった。
龍さんが住む山の入口までの道中は、またミノタウロスの追跡に出かけるユイねぇさんが送ってくれることになった。
「…………………………」
沈黙が僕とユイねぇさんを包む。
村長と別れてから、ユイねぇさんは一言も喋っていなかった。
提案しながらも最後まで反対していたのだから当然だろう。その上、途中まで送ることになったのだから、きっと気まずいのだ。
そうこうしているうちに、僕らは山の入口に着いてしまった。
ちらと入口を覗き込んでみる。
山岳番組に出てくる登山口のような最低限人の手が掛かってはいるものの、基本的には自然に作られた道だった。これは村長の登山装備で来て正解だったかもしれない。
じゃあ、行くか。
と、意気込んだところで、「タケタロー」と、ユイねぇさんが、村長宅を出て初めて、口を開いた。
なぁに? ユイねぇさん。
「…………危なくなったら、直ぐ下りろよ」
そう言って、ユイねぇさんは足早に入口へと入っていった。
が、僕はユイねぇさんの背中を呼び止めた。
ユイねぇさん。
「……なんだ?」
ユイねぇさんも、気を付けてね。
「…………おう」
ユイねぇさんは僕に背中を向けたまま手を振ると、自分の役目を全うすべく、今度こそ山へと入っていった。
さぁ、僕も行こう。
僕は、あっという間に消えたユイねぇさんの背中に急かされるように、ミノタウロスが闊歩する山へと踏み入れた。
「装備重いなぁ……」




