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第18話:来るよ

前回のあらすじ!

バカンスの神さま。

とりとりっりりり(危ないやっちゃな)とりとりぃとりり(航空法気ぃつけろ)っとりりりり(っちゅうねん)とーりりい(ばーろめい)


 大海原上空にて。

 雲煙と海面の間付近を優雅に飛んでいた鳥の面前を横切り、鳥からそんな感じの文句を言われてしまった。


「すまんな。イケメンバードくん」


 鳥さん。ごめんね。


とりっとりりり(良いってことよ)


「おや、竹太郎。きみも動物の言語が分かるクチかい?」


 いや全く。


「ずこー」

 神さまが空中ズッコケをかますと同時に、失速し、落下していく。


 海面が近くなってきたところで、とりあえず僕は悲鳴をあげておく。

 きゃーーーー。


「と、なると思いでか?」

 そう神さまは言うと同時に体勢を立て直し、再び加速した。


 神さま……移動中にふざけるのはやめようよ。冗談とは思ったけど、心臓に悪いよ。


「そうは言っても、きみ、微塵も慌ててなかったじゃん」


 そりゃあだって……神さま、助けられる生命は見捨てない主義じゃん。

 だから、事故った僕を処置して助けてくれたんでしょ?


「よく分かってるじゃないか」

 神さまのしたり顔に、「へへへへへへへー」と僕らは笑った。


 今、僕は、神さまの力で光になっていた。

 移動魔法は凄かった。

 羽ばたく鳥の群れを瞬きする間もなく通り過ぎる。光速で通り過ぎた後で風を切る音が遅れて聞こえてくる。偶々通りかかった愉しいあいつは「あ~れ~」と空の彼方へ飛んでいき、ティン――☆ と星になった。

 移動魔法はゲームや漫画、アニメでよく見てきたもので、眉間に指を当てれば次の瞬間には目的地に着くものだと今迄思っていた。けれど実際はそうじゃなく、天を光速で駆け抜けていたのだ。まさか自分が追体験をするなんて思いも寄らなかったから、正に『最高にハイってやつだ』った。


 こんな時は、空に相応しいこの曲を歌おう。

 一つ咳払いして、僕は歌詞を紡ぐ。

 ……。


 そー●ー●●ー●●~。●●●●ー●ー●●ー●●~。

 ゆ●●~。●●●~。●●●ー●ー●●ー●●~。


 僕は神さまを見た。


 ……神さま。被せないでよ。歌詞が全くわけわかめだよ。


「しょうがないでしょー。歌とか他作品からの引用は、ただでさえ著作権とか厳しいんだから。今迄自由に歌えてた方が奇跡だよー」


 そっかぁ。

 それじゃあ、仕方ないねー。


「仕方ないのよー。これからは文章外のカラオケボックスとかで歌ってくれい」


 メタイのにはツッコまないよ。


「それよりも、もう直ぐ着くよ。着地の準備、しといてねー」


 ええ?


 正面に向き直ると、僕が暮らしている村が遠くに見えた。

 出発してからまだ三分と経っていない。会話をしていると……否、会話が楽しいと時間が過ぎるのはあっという間だ。


 一瞬の物思いに耽っている間にも、村の裏口関門は迫ってくる。


「はいポーズセットして!」

 えー?


 唐突な提案に反応した次の瞬間、僕と神さまは轟音ととも着地した。


 濛々と土煙が舞い上がる。

 その土煙がようやく晴れてくると――、


 僕と神さまは、各々好き勝手なポーズを取っていた。


「なんだそのポーズ」

 さながらヒーローのようなポーズを取った神さまは、土煙が完全に消えていない中僕を見るなり、僕のポーズが何たるかを訊いてきた。


 地元の姉ちゃんに見せてもらった、とあるバンドの真っ黒兄さんが取りそうなポーズだよ。ミュージックビデオとライブ映像で「ワァァァァ!」って叫びながら、所狭しと暴れ散らすの。


「もしかしてあれか。なんちゃら●●●●●のキーボードボーカルだろ。興味湧いてライブ観に行ったけど、あのバンドヤッべえな」


 神さまもヤッべえけどね。


「どこがヤベえってんだおいこら」


 その人達を知るために、バンド名うろ覚えの身でライブに突撃しちゃうところ。

 ちゃんと名前覚えてる僕ですら、行ったことないのに。


「それはワタシ、これがありますので」

 神さまは悪意を全面に孕んだ笑顔で、指で丸を作った。


 僕はちょっとイラっときた。


 いいな。いいな。子どもには難しい、大人の力のフル活用だ。

 大人の力があるならちゃんとバンド名覚えろこのすったもんだめ。


「ちゃんと覚えてますー! さっきも言った、著作権的な都合で言わないだけですー‼」

 大人の力を羨む僕に対し、俗に言う『クソガキ』のテンションで神さまは「すー‼」と連呼する。


 だったら言ってみなよ。僕の耳元で。他には聞こえないように。


「おーおーいいぜー。言ってやろうじゃあねえかー‼」


 神さまは妙なチンピラごぼうテンションで、僕の耳に口を寄せてきた。


 僕は注聴の姿勢を構えた。

 そして神さまは、言ったのだ。


「フィ●ー・●●●・●ー●●●・●●・●●●●●」


 せいか~~い。


「いえ~~~い。景品はなんですかー?」


 撫でるよ。


「わーい」

 僕はノリノリで首を垂れてくる神さまの頭を撫でてやった。


 すると、神さまの喉元に刃が構えられた。

 神さまの背後を覗き込むと、門番のナイスガイが険しい顔で立っていた。神さまに気取られずに背後を取るなんて、凄い手練れだ。伊達に門番をやってない。


「貴様、何者だ?」

 威圧するナイスガイに、神さまは冷静に応える。


「竹太郎の古い友人です。村からうっかりドロンパしちゃったと聞いたんで、アフノさんと話し合った末に、帰り道がてら彼をお届けに参りました」


「なんと、そうだったのか。アフノから、少年を下船させずに出発してしまったので暫く借りると村に伝書バトが飛んできたが、皆が心配していたのだ。送り届けてくれたこと、感謝する」


「どういたしましてー。ところで、そろそろ小刀、引っ込めてもらっていいですか?」


「おお、そうだったな」とナイスガイは小刀を腰の鞘にしまう。


「突然高密度の魔力が接近してきたと思ったら、土煙の中から、少年と見知らぬ君が出てきたからね。一昨日から起こっている問題も相まって不審者の類かと先走ってしまった。無礼の謝罪と謝礼も兼ねて、村に招かせてくれ」


「いいよいいよ。知らない大人が知り合いの未成年を連れてたら、誰だって不審がるものさ。貴方は自分の仕事を全うしたまでだ」


 着地の際、ヘンなポーズもしてたしね。


「お前ほどじゃないわ」


 へへへへへへへー。


 神さまも「へへへへへへへー」と笑った。


「ほんじゃ、ワタシも急いでるんで、帰路に着きますかねー。あ、謝礼とか別にええのでお気遣いなく。そんじゃ竹太郎、達者でなー。パラミ……メンドくせーやもう」


 なんと神さまは詠唱を途中放棄してしまった。

 しかしながら、来たときと勢い変わらず、安定した姿勢を保ちながら、空の彼方へ飛び去っていったとさ。


 流石神さまだなぁ。

 感心しながら手を振っていると、ナイスガイは複雑な顔で喋りだす。


「ううむ、急いでたんじゃあ止むを得んな。さて、少年。此処は危険だから、私が責任をもって広場まで送ろう」


 危険?


 そういえば先程の会話でも、一昨日問題が発覚したとか言っていた。それと何か関係あるのだろうか?


 折角なので、聞いてみよう。

 ――と、口を開いたその瞬間、森の方から駆け足が聞こえてきた。


 見てみると、狩人服を身に着けた、ユイねぇさんだった。

 とても険しい、焦りを孕んだ顔をしていた。


 おーい。ユイさーん。


 僕がぶんぶんと手を振りたくると、ユイねぇさんはあり得ないものを見る顔をして、僕の前に来るなり、開口一番にこう言った。


「何故タケタローがいるんだ? まだ当分帰れなかった筈だろ? え、どうやって帰ってきた?」


 当然の反応だった。

 僕は帰ってくるまでの経緯を説明した。


「成程。事情はよく分かった。だが、今は悠長に帰宅を喜んでやれる暇はないんだ。急いで村に入ってくれ」


 そのことなんだけど。さっきも危険だって言われてて。一体何があったの?


「……確かに、説明もせずに、兎に角入ればかりじゃあ、困惑するだろう。ユイ、村長への報告がてら、話してやってくれ」


「分かりました」と、ナイスガイにサヨナラした僕の手をユイねぇさんは引っ張って、村の中を早歩きながら説明を始めた。


「前に遭遇したミノタウロスの行動範囲が、村まで拡がりつつあるんだ」


 あれま。


「一昨日、ミノタウロスが関門から見える位置まで来ていたのをリグレイさんが見つけてな。以来、私は奴の動向を探るために毎日動きっ放しだし、リグレイさんもギリギリまで見張ってくれてる」


 リグレイさんって誰?

「さっきのイケ渋門番」


 ナイスガイは、リグレイさんと云うらしい。そういえば聞いたことなかった。


 というか、ユイねぇさんも、リグレイさんのことカッコいいと思うんだね。


「まあ、あの人は人柄から実力まで優れてるからな。あの人を嫌う人は恐らくこの村には居ないと思うぞ」


 だよねー。

 ところで、誰がミノタウロスと対抗するかって、もう決まってるの?


「それが問題なんだ。村長は腰痛の再発で表に出れないし、リグレイさんは脚をヤッてるから激しい戦闘はさせられない。私は私で決定打に欠けてるから監視と挑発くらいしかやれることがない。リリさんにしごいてもらってる身でありながら、情けない話だ」


 そのリリさんはどうなの? 腕相撲で、アフノさんを瞬殺するって聞いたよ。


「あの人は強すぎるんだ」


 強すぎると駄目なの?


「お前は自警団でもないのに、街一角を占める悪党のボスとやり合う気はあるか?」


 自警団っていうのは、現世でいう警察のことで、悪党は、ヤクザだろう。


 答えはもちろん「敵いっこない」だ。


「そういうことだ。ミノタウロスは知性がある分、自ら死に行く真似はしないから、リリさんを前線に出せば確実に逃げられる。そしたらまた、山に入れなくなるの堂々巡りだ」


 最寄りの国に、兵士さん派遣してもらうのは? 


「それを昨日の朝一番に、兵士指南者のリリさんに掛け合ってもらって、今日の夕方にも村に着くって話だったんだ。なのにミノタウロスの野郎、さっき急に進路を村方面に変えやがったもんだから、兵士の到着が間に合わないかもしれなくなっちまったんだ。それを今から報告しに行くところだ」


 だからあんなに慌ててたんだね。

 じゃあ、打つ手なしなの?


「ないわけではないが、正直厳しい」


 どんなの?


 ユイねぇさんは、裏門から見える、ミノタウロスがほっついている山を指差した。


「あの山の頂上に住んでるらしい、村長のボードゲーム仲間っていう古龍さまが適任だっつう話で、討伐を頼もうって案があったんだ。それならミノタウロス襲来までにギリギリ間に合いそうなんだが、村長はさっきも言ったように腰痛持ち故に、テレパスが届く範囲まで到底赴けないし、何より、ミノタウロスが闊歩してるところを歩かせるわけにはいかない。かといって、私が行ったら誰がミノタウロスの動向を見張るんだって話になるし、他の人に出向いてもらうのも重荷が過ぎるってわけだ」


 あ。だったら、僕行こうか?


「え?」と、ユイねぇさんが僕を見る。


 だから、僕が古龍さまのところまで、頼みに行こうか?

 そう言うと――、


 ぎゃあ。

 ユイねぇさんは問答無用で、僕にデコピンしてきた。

 痛てー、と僕が額を押さえていると、ユイねぇさんは至極冷静に、辛辣な正論を並べてきた。


「今の話聞いてたか? 古龍さまの住処に続く道をミノタウロスが彷徨いてるって言ってるんだ。前にエイリ共々遭遇した時は運よく襲われなかったそうだが、次もそうとは限らない。出遭っちまったら良くて身体欠損、最悪殺されるんだぞ」


 ああ、そうか。ユイねぇさんは知らないんだった。

 神さまがくれた、僕の魔法のこと。


 ユイねぇさん。僕だって考えなしに申し出てるんじゃないんだよ。


「何を根拠に――」


 だって僕、認識されない魔法を持ってるんだもの。


「………………は……?」


 突然のカミングアウトに、ユイねぇさんは当然、豆鉄砲をくらった鳩の顔をした。


 これは一度、実演した方が早そうだ。


 ユイねぇさん。試しに僕をその弓で撃ってごらんよ。本気で仕留める気で。


「は? いや、何言ってんだ。お前。冗談が過ぎ――」


 信じて。


「……っ」

 ユイねぇさんは言い淀むと、悩みだした。僕の意思を尊重して、攻撃するかしまいか、真剣に悩んだ。


 やがて、僕が一歩も引こうとしないことを感じ取ってくれたのだろう。


 ユイねぇさんは狩人の目になって、僕に向かって弓を構えた。


 瞬間、ユイねぇさんはあり得ないものを見る目で、ぎょっ! とあからさまに動揺した。


「お、おい、タケタロー! 急に何処行った! 聞こえてるなら返事しろ!」


 ユイねぇさんは、あちこち見回して僕を探し始めた。


 ――が、僕は一歩も動いちゃいなかった。


 効果をお披露目したところで、さっさと出てあげよう。慌てすぎて、「まさか、もう山に……⁉」と早とちりしているし。


 なので僕は、ユイねぇさんの後ろに回り込み、頬をプスッた。


「……⁉」

 ユイねぇさんが即座に弓を向けてくる。


 バッ‼ 

 べちっ。

 あふん。


 ユイねぇさんが構えていた弓矢が、振り向きざまに頬に当たった。


 僕は既視感を感じながら、「マジだ……」と、呆気に取られているユイねぇさんに言う。


 というわけで、敵意を持った者からは姿から気配まで、僕が話し掛けるか触れもしない限り、認識されないの。


 分かってくれた?


「あ、うん……………………いや、やっぱり駄目だ。私は成人とされる十六歳を疾うに超えているが、お前は十二歳の未成年。子どもを危険地に送るなんてこと大人として、私の一存で決めるわけにはいかないんだ」


 渋るねぇ。ユイねぇさん。

 独断で未成年に博打を踏ませるなんてこと、真面目で誠実な姉貴肌のユイねぇさんなら尚更できっこない。現に下しかけた判断を撤回し、今でも頭を抱えている。


 だからこそ、エっちゃんたちから慕われているのだろうが。


 しかし困った。今更気づいたが、ユイねぇさんの性格上未成年者の僕を危険地帯に送り出すわけがない。自分で墓穴を掘ってしまった。


 だけど、村に被害を出さないためには、現状これしかない。意地悪ではあるが、時間が迫っていることを理由にしてでも言い包めなければ。


 と、覚悟を決めた、その時だった。


「だからこそ、卑怯ではあるが村長に判断を委ねさせてもらう。ただし、私は反対である以上、絶対味方しないからな」


 そう言って、ユイねぇさんは、また村長の家を目指して、先程の早歩きよりも、もっと早く歩きだした。


 やっぱり、ユイねぇさんは、大人だった。


 ……あれ? だったら、なんでデコピンしてきた時、魔法が発動しなかったんだろう?


 …………。

 ああ、そっか。


 僕のために叱ってくれたのであって、傷つけるつもりは、毛頭なかったからだ。


 やっぱり、ユイねぇさんは、大人だった。

「ところでほっぺた大丈夫?」

「ズキズキするよ」

「マジでごめん」

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