第12話:あじゃるよ
前回のあらすじ!
ミノタウロスがむーしゃむしゃ。
港には、でっかい船が駐船していた。
観光番組で見るような、百人は余裕で乗れそうな船だった。歴史の教科書で見たペリー船を彷彿とさせる黒塗りで、船の乗降口には、村の子どもたちがわらわらしている。
その乗降口には赤髪アフロの男性が立っていた。
鍛冶屋のおっちゃん、船長のマッチョッチョと同じくらいの長身で、ダンサーみたいな服装のマッチョだった。あの人がアフノさんっぽい。
「さあ、子どもたち! 今から配るから並んで~!」
アフロの人が声高らかに宣言すると、持っていた袋からお菓子を取り出した。群がっていた子どもたちが「わーい!」とはしゃいで列を成す。
地元のねえちゃんの家で読んだ異世界漫画を常識とするならば、異世界のお菓子は貴重な嗜好品だった筈だ。それをたくさん、村の子どもたちに配れるほど持ってきているってことは、あのアフロの人は結構なお金持ちかもしれない。
だよね、エっちゃん?
問いかけながら振り返るがしかし、彼女はいなかった。
あらー?
……もしかして、エっちゃん――。
「……エイリ。あなたは十二歳でしょ。わたしがお菓子をあげるのは十歳までよ」
「ちぇ~……」
列の方を見ると、エっちゃんは子供たちに紛れ込んでいた。けれど、お菓子はもらえなかったっぽい。
阿保だなあ。エっちゃん。
「まーたやってやがる、あのバカ」
二人のやり取りを眺めていると、横にグラさんがやって来た。
エっちゃん、常習犯なの?
「分かってて並ぶんだあいつ。ちなみに、常習犯はもう一人――、」
「……リンちゃん。背が低いからって、私の目は誤魔化せないわよ」
「ぶう……」
グラさんが言いかけた中で、列の方を見ると、リンねぇさんが子どもたちに紛れ込んでいた。けれど、お菓子はやっぱり貰えなかったっぽい。
阿保だねぇ。リンねぇさん。
「たっくんさ~ん」
ふふっと笑っていると、聞き知った声が子どもたちの集団から聞こえてきた。
声がした方を向くと、リコちゃんとコウくんが駆け寄ってきた。手にはお菓子を握っている。
どんなお菓子、貰ったのー?
「今日はぐるぐるキャンデー貰ったー」
良かったねえ。
「おー……!」
コウくんは喜びの声を上げると、僕を重量挙げよろしく持ち上げて、その場でくるくると回り始めた。どうやらこれが、コウくんなりの喜び方みたい。
「あら? あなた、見ない顔ね? 新しく来た子?」
お……?
アフロの人がエっちゃんとリンねぇさんを連れて声を掛けてきた。お菓子を配り終えたのか、さっきまでいた子どもたちが散り散りになっている。
「たっくんだよー。ふつ…………ねぇ、たっくんが越して来たの、いつだっけ……?」
「今日で三日目だから二日前だな。あ、こいつの名前、タケタローっす。今職探し中」
グラさんが、本名含めて、代わりに説明してくれる。
「あー、そうだったそうだった。なんか、もう五ヶ月くらい一緒にいる気がしてー」
「それは分からんでもない」
「ん……」
「おー……」
「コウくんと、リンおねぇちゃんもかー」
あらまあ。
「よっぽど馴染みやすいのねこの子。まあ、いいわ。初めましてタローくん。私はアフノ。村で貿易商人を担わせてもらってるわ。お近づきに、これどうぞ」
言いながらアフノさんは、どこからともなくぐるぐるキャンデーを出して、僕にくれた。
わーい。
「あー。たっくん、いいなー……」
エっちゃんが、羨ましそうに僕を見てくる。
ので、僕はキャンデーを、ぱきっ――と一欠けら噛み割り、残りを彼女に渡した。
あげる。
「わーい。ありがとー」
エっちゃんはキャンデーを受け取ると、嬉しそうに舐め始めた。その顔だけで、あげた甲斐がある。
キャンデー、うまー。
「……じゃ。村長に挨拶しに行くから私はこれで。直ぐ出発しなきゃだし」
「あ、もう行くんすか?」
グラさんが問いただす。
「そうなのよー。お得意先の料理店さんから、急ぎで魚を届けてほしいって言われてねー。村長に挨拶済ませて、グランたちに事前に獲ってもらった魚を仕入れたら、さっさと出発するわ」
忙しいんだなー。商人さんって。
「じゃあ、親父には俺から伝えときますよ。どれくらい欲しいか、教えてください」
漁師さんの作業場から、「いくつだー‼」と声がした。
「ありがとうグラン。助かるわ」
アフノさんは、グラさんに魚の仕入れ量を伝えると、「それじゃ、後はよろしく」と港を去っていった。
「よーし。じゃあ、魚乗せっかー」
グラさん。僕も手伝うよ。
「おう、ありがとよ。そんじゃ、ついて来い」
はーい。
「ふぃっふぇふぁっふぁーい」
行ってきまーす。
エっちゃんに手を振りながら、僕はグラさんの後をついていった。
◇ ◇ ◇
よいせほいせ。よいせほいせ。ほっほっほい。
ゎぁあぁああ。
…………ふぅ……。
さて、荷運びも終わったし、ここから出るとしよう。
…………あれ……?
踵を返したところで、僕は異変に気付いた。
なんで、入口しまってるんだろう?
首を傾げたその時、船が大きく揺れた。あらららら、とバランスを取る。
あれー? これって、もしかしてー?
僕はとにかく倉庫から出ようと、中を見まわし、部屋の隅っこに見つけた、上へと続く階段を上がる。
上がった先にあった食堂っぽい部屋についている窓から外を覗いてみる。
そこから見えたのは、段々と遠くなっていく村の姿だった。
どうやら僕は、船を降り損ねてしまったらしい。
あじゃぴー、ワナびやベイビー。
エイリ「あれー? たっくんはー?」
グラン「え?」




