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第100話:終わりよ【異世界Part】

前回のあらすじ!

やっぱアメノコさんだよ。

 翌日──。

 無事開催された鎮魂祭を、僕は焼きトウモロコシじゃねぇやトウ〝ロモ〟コシの宣伝プレートを首から下げて回っていた。

 鎮魂祭は鎮魂〝祭〟でも、人混み以外は昼市と大差ない素朴なものだった。異世界のお祭りは今回が初めてなので比較しようないが祭囃子も無ければ舞台も無い。メインが戦争犠牲者の追悼なので、そこは弁えているのだろう。


「あー、たっくんだー」


 先ず初めに訪ねたのは、エっちゃんのところだった。

 彼女が営むはキノ〝キョ〟焼きだった。キノキョと言っても所詮キノキョなので色合いはお約束なのだが一緒に焼かれてる真っ白キノキョは無害だろうか?


「食中毒は、なかったよー」


 行き急がないでー。


「味も問題、なかったよー」


 問題そこじゃねー。

 エっちゃんの恐れ知らずというか警戒心の無さに暫し言葉を交わしてその場を去る。


 案外美味しい真っ白キノキョに舌鼓を打ちながら、次に出向いたのは、面白可笑しく結婚したグラさんとリンねぇさんが売り子を務めるイカポッポ。


「いつまでも擦ってんじゃねぇぞこの野郎」


 ごめんね。


「いいよ♨」


 それはグラさんの台詞だと思うよリンねぇさん。僕が言うことじゃないけど。


「まぁ、リンに免じて一本買ってくなら許してやる。美味そうに食べ歩け」


 抜かりねー。


 イカポッポスメルを振り撒きながら今度はユイねぇさんの元へ行く。彼女はお肉屋と提携してジビエ串焼きを提供していた。


「婆さまのおかげで売り上げも上々だ」


 ユイねぇさんが親指を向けた先ではお肉屋のオババが巨大猪の解体ショーを披露していた。目視出来ない斬撃に歓声が上がる限り人目を引くに困らないだろう。

 焼きロモコシもよろしくね、をお別れの言葉にその場を離れる。


「あらタローくん、いらっしゃい。ちょっと見ていきなさいよ。冷やかしオッケーよ」


 飲食系から少し距離を置いた場所でアフノさんは露店商を構えていた。陳列しているのは見たことない品ばかり。交易商人だけあって世界を巡って仕入れてきたのだろう。


「ここだけの話、今だけ三割引きのお手頃価格よ。年一回だしどうかしら?」


 営業上手め。

 お金が余ったら考える、と目に付いたなんかかっちょいいやつを取り置きしてもらい、その隣でポーチをハンカチ等の小物を並べるバロメッツ魔族兄妹と目が合う。


「バロメッツの零れ毛から片手間に作ってみたら結構好評で──、」

「計算したら充分に元が取れると分かったら鎮魂祭にも本格参加してるんだ」


 グッズは二人で考えたの?


「妹に一任してるよ。僕デザインのセンスないんだこれが」

「逆に私、計算とか決まった時間に動くの苦手だから、バロメッツの管理と経理、兄さんに丸投げしてんの」


 適材適所。


 大体の屋台を回った末に赴いたのは、暫く何処かへ飛び去った後戻ってきたアメノコさんの屋台だった。

 アメノコさんはツチノコの丸焼きを売っていた。2~3匹獲れたらいいな、と各地に仕掛けた罠に総計50匹も掛かっていたというので、いっそお祭りで売ってしまえば、なんて冗談めかしたら本当にガスボンベを借りて数量限定販売しているのだ。


「おお、タケタロウか。ツチノコは美味かったか?」


 鳥っぽくて美味しかったよ。売上はどうだい?


「やっと5本捌けたところじゃ。皆おっかなびっくりでこれがまた難しい」


 ツチノコは馴染みがないからねぇ。珍味好きじゃないと積極的に買わないんじゃないかな? というわけで金網調整回り中のゴンゾーさん、珍味好きの知り合い居ない?


「黙って鳥味って書いときゃいいんじゃね? 聞こえたが食ったんだろ?」


 そっかぁ。


「ならば値段の隣に書いとくれ。名前付きで」


 と、書く物を渡されたついでに値段を見てみると──、


 ツチノコは現世値段で、百円で売られていた。


 お手頃価格で売られる百万円賞金首かぁ、と笑いながら出店を後にする。

 さて、めぼしい出店は粗方回った。おばあちゃんのところへ戻ろうと踵を返すと──、


 人目の付かない掲示板の裏に、昨日出会った、魔導士さんが居た。

 その隣で、ガタイの良い角刈り金髪大鎧男が何やら話している。


「本当に良いのか、丘に行かなくて? 一年に一度だぞ?」

「構わんよ。顔を見たくないと言えば嘘になるが、昨日が昨日だからね。万一でも姿を見られれば追悼どころではないだろう」

「それもそうか」

「それと昨日、何故君は出てこなんだ。オブラートに包むの大変だったんだぞ」

「所々ではみ出ていたがな」

「気付いてて見捨ててたな君!」

「ところで終わったようだぞ」


 魔導士さんの文句を聞き流す大鎧男さんの言う通り、丘から人波が引く気配がする。魔族方は村に着くなり丘を目指して西通りへ行ってしまったのだが、それでもあぶれた方々が墓参りしようと広場の出店を回っているのが現状だ。


 あれ……?

 目線を戻すと二人は居なくなっていた。昨日に続き今度は何処へ行ったのだろう?

 それに、二人の会話の節々がどうも引っかかる。「姿を見られれば~~」だの「オブラートに~~」だの。昨日の魔導士さんとの会話と言い、どうも他人事には思えない。

 だが、一つ確信を持って断言できる。二人も戦争時代を生きた人だ。

 ならば、これ以上の詮索は野暮というものだ。


 改めて、石碑のある北西の丘を眺めながら思う。

 僕は事故ってあふってこの異世界にこんにちは。とやって来た身で、最初こそ神さまの言う通り、現世に残された僕の身体が治るまで異世界に居候するだけだった。

 けれど、過ごしているうちに愛着が湧いて……神さまに頼んで遂には現世と異世界を反復横跳び出来るようにしてもらい、学校と昼市で愉快な仲間たちと過ごすに至った。


 そして、鎮魂祭に立ち会って、意味を知って思ったこと。


 この異世界でも現世でも、当たり前のように謳歌している平穏は、多くの先人たちの犠牲と罪悪感──、そして何より覚悟の積み重ねで成り立っているのだろう。

 そう思えるようになっただけでも、死にかけたのは無駄じゃなかった。死にかけないに越したことはないけれど。


「ギャー‼」


 突然の悲鳴に振り向くと──、イカポッポを乗せた網が業火に見舞われていた。


「リンが弱めてた火元を戻そうとして限界突破したー‼」

「どけいお前等オイラに任せい! このオイラ特製消火器でやべぇ試使用忘れてた!」

「ギャー‼ 辺り一面、泡塗れー‼」

「アメノコさぁぁん‼ 水じゃないけど吸い込んでくれー‼」

「任されよ。ゲッツ。ゲッツ」

「それ必須⁉」


 本当に退屈しないな人生だこと。

 追悼先行組が戻ってくる前に片付けてしまおう。キゾロさん作・掃除機を使えないかと道具屋目指して僕は駆け出した。

これにて完結!

1年4ヶ月ありがとうございました!!

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