プロローグ・第0話:行くよ
初めましてお久しぶりです。丈藤みのるです。
この度、2年5ヶ月弱以来の新作を投稿することにしました。
前作がドシリアス過ぎたため、今作は皆様の脳みそを溶かしてみせようとゆるんゆるんのふわんふわんをモットーに書いております。
それではどうぞお楽しみくださいませ。
脳みそ溶けろ
「ぎゃあ」
◇ ◇ ◇
気付くと少年は、知らないところにいた。
周囲を見回してみる。部屋というより空間に近いその場所は全体的に真っ白で、それが何処まで続いているのか見当が付かない。
ここは何処だろう?
さっきまで僕は外にいたはずだ。はてさてと首を傾げてみせるが一向に思い出せない。ぽっかり頭から抜け落ちてしまったようだ。
まあ、いっか。
悩んでいても仕方ない。取り敢えず、何か起こるのを待ってみよう。起こらなかったらその時はその時だ。
「あ、起きた? ハロー」
そう思った矢先、上から眼鏡を掛けた女の人が下りてきた。見た感じ、五~六歳くらい年上だ。敬語の対象だ。
「別に敬語じゃなくていいぞ」
うわあ。読まれた。
「なぜ読まれたかって? ワタシだからだよ」
そっかあ。
ところで、きみ、だあれ?
「ワタシかい? ワタシ、神さまだよー」
神さまかー。
漫画やアニメではよく見るけど、実際に会うのは初めてだ。
へー。
「早速だけど、きみ、死にかけてるよー」
あら、やっぱり。
神さまに会うなんて、死ぬか死にかけてないと、多分、むりー。
ということは、ここ、死後の世界?
「そうだよー。正しくは、三途の川みたいなところだよー」
でも、川、無いよ? ここ、日本の筈なのに。
「そこは流してくれ。アレがホンでパーだから」
分かった。流す。
流してみる……。
流せるかなぁ…………?
流せたらいいな………………。
流したよ。
ところで、僕、なんで死にかけてるの?
「それはこれからお見せしよう。吉田く~ん‼ リモコン持ってきて~‼」
「はい‼ かしこまりました‼」
神さまが叫ぶと、右の方から吉田くんがやって来た。アフロじみた天然パーマだった。
笑点みたいだなー。
…………。
ふふっ。
神さまがリモコンを受け取り「ピッ」とボタンを押すと、一緒に持ってこられた浄玻璃の鏡っぽいやつに映像が現れた。
あ、僕だ。
映像には、母なる集落で自転車を漕ぐ自分が映し出されていた。
「そのまま、見ててー」
神さまがリモコンを操作すると、画面の僕を中心に映像が拡張されていった。
僕は画面の僕を見つめる。自分の姿を客観的に眺めるのは奇妙な感覚だった。
しばらくすると坂道が出てきて、画面の僕は自転車に乗ったまま下り出した。速度的に全然ブレーキを掛けていない。
危ないなあ。
と、我ながら呆れたその時。僕は、画面の僕と同時に、自転車の異変に気づいた。
あれ?
自転車のブレーキ、壊れてねー?
画面の僕は大慌てるが自転車は当然止まらない。靴をコンクリートの地面に押し付けているが擦れるばかりでやっぱり止まらない。
歯止めが効かないばかりか、速度はどんどん上がってく。
僕、降りてー。
しかし、画面の僕に声は届かない。
画面の僕は、坂道終わりの段差にぶつかり、宙に投げ出された。
どんがらがっしゃーーん……。
大きな音と共に、僕の頭はモザイクに塗れ、モザイクをコンクリートに撒き散らして、そのまま動かなくなった。
ブツンッ――。
映像が消えた。
……ああ、そうだ。
僕、自転車から投げ出されて、そのままコンクリートに落っこちたんだ。僕が住んでるところは信号が無いし、のんびりペダルを漕ぐ派だから、必然的にブレーキを使う回数が少なくて、坂を下る時まで壊れているのに気づかなかったんだ。
「……と、いうわけで、きみは今、仮死状態に陥っています」
あらまあ。
いつ、起きれるの?
「しばらくは無理だねー。気絶だけならチョチョイのフェーで直ぐ起こせるけど、きみの場合、脳があじゃぱあになっちゃってるからねー。処置はしたけど、時間掛かるよー」
あじゃぱあ。
倒れる前の時間にも、戻れないの?
「それがねー。ちょっくらシミュレーション……あれ? シミュレ? シュミレ?」
〝シミュレ〟だよ。
「ありがとー」と、神さまは続ける。
「……まあ、それをやってみたんだけど、キミが避けた場合、その場に居合わせた別の人が事故ってあじゃぱぱあになっちゃうんだよー。神さまである以上、運命改竄とか、人の命運は安易に変えれないのよー。老衰とか個人的な病死ならともかく、他人巻き込みかねない事故死なら尚更さー。ごめんねー」
あじゃぱぱあ。
じゃあ、しょうがないかー。
「しかし、そんなキミに朗報です。現在天界は今流行のラノベ設定に則りゲフンゲフン。不慮の事故や劣悪な環境による逝去で天寿を全うできなかった人や、キミのように死んではないけどしばらく起きれなくなった人の為に、転生・転移だか転送サービスを実行しているところなんです‼」
わあ、凄い。
じゃあ、魔法やスライムが自我を持ってる異世界とかも行けるの?
「モチのロンだよ‼」
へー。
じゃあ、異世界で。
「かしこまりー、っといけねぇ‼ 危うく忘れるとこだったぁ‼」
テンション、高いなー。
「更に朗報だ。今ならなんと、モンスターがうじゃうじゃな異世界で生き残るための能力を特別に一個無料で付けちゃいます‼ 何でも一撃ワンパンチ‼ 何でも燃やせる炎魔法‼ 山すら飛んでく爆炎砲‼ どんなものでも何でもござれ‼」
喧嘩はやだなあ。
「あら、戦闘系はお気に召さない?」
そうだねえ。
争いはなるべく避けたいねえ。
「じゃあ、キミにはモンスターとかの敵対者から存在を感知されないスキルをあげよう」
神さまは言いながら、いつの間にか持っていたノートパソコンを操作する。
ありがとー。
ところで、神さま。さっき、炎、二回言ってたよ。
「じゃかあしいわ。あーゆーのはノリと勢いが大事なのよ。どんな時でも愛しさと切なさと心強さがあれば世界だってぱあーっと救えるし、どかーんと滅ぼせんだよ」
僕はぱあーっと救われる世界と、どかーんと滅びる世界を想像してみた。
ぱあーっ。
どかーん。
…………ふふっ。
一人微笑んでいると、神さまはノートパソコンを閉じた。
「はい。そーこーしている間に転移だか転送だかの準備が終わりました。これから異世界に行くわけですが、何処に流れ着くか、どの種族になるかは分かんないので、そこんとこ、よろしくお願いしまーす」
うん。分かった。
ご忠告、ありがとう。
「はい。では、転移だか転送だか開始します。お達者で~」
僕の身体が光に包まれた。
僕は最後に、ずっと思っていたことを言ってみた。
神さまってあれだよね。
「な~に~?」
じぇい・け~。
「だからなんだ~」
僕は意識を手放した。
「スキル付与のフリして●teamしないでください……ブツっ!」
「データセーブ前!!」
気に入っていただけましたら、今後も読んでいただけると嬉しいです。
それでは、せーのっ
脳みそ溶けろ