埴輪、登場②
ミコト達六年生はどんどん歩いていき新入生達のところまで追いついてきた。
「なんか歩くのが遅くないか?」
「そうだね、ちょっと様子を見てくるよ」
ミコトは前を小走りで駆けていった。新入生のところまで追いつくと、ミコトは遅い原因が理解できた。みんな大声で歌っているのだ。歌の方に力を入れているものだから足の回転が進んでいない。ミコトは一年担任・柳生に事情を聞いてみる。
「ああ、日野さん、さっきから一人の子が変な歌を歌いだしたと思ったら、それが全員に伝わっちゃって」
確かにみんな変な歌を歌っている。それはミコトが今、求める歌だった。
ぽーっぽー・ぽぽぽぽぽ・ぽっぽぽぽっぽー・ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽーぽっぽ。
“ちょっとペィ。これってあなたの兄弟が近くにいる証拠じゃないの?”
“さようでござるな。この歌っているこの中に誰かがポゥを持っている可能性が高いでござる”
「あー、ミコトお姉ちゃんだー」
「本当だ―」
「ねえみんな、歌ってると疲れないー?アメを上げるよ。これ食べて元気になってー」
ミコトは一年生に夏ミカン味のアメを配っていった。一年担任・柳生は納得した。なるほど、アメを使って口を封じようというのね?やるじゃない、この子、なかなかの策士だわ。三国志の曹操が喉の渇いた兵士を梅林まで連れていった故事にならったのね。
「ねえみんなー、みんなの中でこれとおんなじモノを持ってる子っているかなー?」
ミコトは胸ポケットにしまってあったペィを取り出し皆に見せた。
「ボク持ってるよー、さっき拾ったのー。アメのお礼にお姉さんにあげるよー」
「ありがとうボクー」
ミコトはわたしてくれた子の頭を撫でてあげ、まんまとポゥの回収に成功した。後は歌うのを止めさせることだ。
“ちょっと!ポゥとか言ったっけ?歌うのを止めさせられるの?”
“心配ない、ヒノミコト殿。そなたが歌わせるのを止めさせた故”
“あれ?この声はペィなの?どうしてポゥが返事しないの?”
“ポゥはしゃべれないでござる。ゆえに我が代わりに喋ってるでござるよ。ポゥのチカラは保つ力。黙っていれば黙ったままの状態が続く”
埴輪のペィが言った通り、新入生は歌うのを止め、歩くことに専念しだした。口の中に酸っぱい夏ミカン味のキャンディを味わいながら。
「ありがとう、日野さん。歌歌うのを止めさせてくれて」
「先生も、これどうぞ」
一年担任・柳生もお礼を言ってアメを受け取り口の中に入れた。
「すっぱーい。でもおいしい。これは元気が出るわね」
「友達が教えてくれたんです。疲れた時は酸っぱいものだって。先生、ここどのあたりですか?」
「ああ、私まだ名乗ってなかったわね。私、柳生というの」
「柳生先生ですか」
「柳生博子よ、よろしくね。ここは、そうねえ、半分を少し過ぎた頃かしら?あと五十分もするとあなたの家に着くわよ」