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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
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埴輪、登場①


“ヘーイヘイヘイ・ヘーイヘイ、ヘーイヘイヘイ・ヘイヘイ。ヘイ!ヘイ!”


“ちょっと!あなたナニモノなの?”



頭の中の声は響くのを止めた。


“答えなさい!ここに倒れている子がいるけど、これってあなたのせいなの?”


しばらくの沈黙の後、おもむろに声の主が答える。


“驚いたな、わが声に答える者がこんなところにいようとは?”


“私は、ヒノミコト。あなた誰?”


“私は”


お?すんなり答えてくれるのか?ミコトは息を飲んだ。また統べる者を見守る者、なんて言うんじゃないだろうな。


“ペィ”


は?なんだって?ミコトはもう一度聞き直した。


“私は、ペィ、だ”






まあ、この場合、名前はいいわ。問題は、目の前の子らが倒れている原因だ。


“この子達が倒れている原因は何?あなたがやったの?”


“そうだ。これは、わが力”


“なんでこんなことするかは聞かないわ。とりあえず、この子らを元に戻して”


“それをやるにはやってもらいたいことがある。この近くに私の兄弟がいるはずだが、探してもらえないか?”


“時間がかかってもいい?”


“なるべく早く”


“わかった、探すわよ。それで、どうすれば元に戻るの?”



荒木恵理子が、担任・宮本と五年担任・佐々木を連れて来た。意外に早い到着だった。


「日野さん!状況を説明して!」


「はい、倒れているのは五名。五年生の男の子。けが、出血はありません。意識はあり、起こすと、だる

いと言ってます。緊急処置をする必要はないようです」


「わかったわ、ありがとう」


そういうと、担任・宮本は自身でミコトの情報を再確認した。


“ヒノミコト殿。私を手に持つのだ。そして、寝ている私を起こすがよい”


“それで、君はどこにいるの?”


“そなたの近くの花の上”





ミコトは、やじ馬で騒いでる周りに紛れて、声の主を探した。比較的容易に、ミコトは目的の“モノ”を見いだすことが出来た。それは、人差し指大の、埴輪、だった。それも横になった方が自然な感じの形だった。ミコトは埴輪を手に取った。


“さあ、どうしたらいいの?”


“いま、私は寝ている状態だ、私を起こすがよい”


ミコトは言われるままに埴輪を立てて見た。担任宮本に促され、よろよろと動いていく男の子達。六年担任・宮本と五年担任・佐々木の誘導のもと、倒れていた全員をビニールシートまで連れていき、全員を休ませる。


「単に疲れているだけなら、少し休ませれば大丈夫だから」


“本当にこれで、いいんでしょうね?”


“うむ。わがチカラは疲弊のチカラ。ゆえに我は、ペィ、と呼ばれる。ところでヒノミコト殿、そなたはなぜ、我と話ができるのか?”


“うん、うちに似たようなのがいるからね。君みたいな形じゃないけど”


ミコトは家にある土偶の形を説明する。


“なんと!そなたは姉様を所有する者か。それなら合点が行く。是非、姉様に会わせてくれ”


やれやれ、騒がしいのがもう一体増えるのか?ん?待てよ?さっき兄弟って言ってた?姉様ってソナタのこと?


“君の兄弟の特徴って何?”


“そなた、我をどうやって見いだしたか?”


“なんかヘイヘイ言ってたでしょ?それでわかったよ”


“わが兄弟は、ポゥ、である”


“ポゥ?”


“そう。ポゥ。わが兄弟のチカラは保。今の状態を保つこと。また阿呆の呆でもある。少し足りない点もあるが、わが身近な兄弟。是非見つけ出してくれい”


“だ・か・ら。特徴は何かって聞いてるでしょう?”


“近くに来れば、歌っているのが分かる”


“へえ、なんて歌っているの?”


“奴は、ポゥ、だからな”


“ポッポッポー・ハトポッポー、とか?”


“まあそんなところだ。それではよろしく頼む……”


”あ、ちょっと待って、まだ聞きたいことが”


ミコトの呼び掛けに答えず、依頼だけを残して埴輪の声は聞こえなくなった。ミコトは埴輪を胸ポケットに立てたまま収めた。仕方ない、とりあえず倒れてた奴らの面倒をみるか。ミコトは自分の水筒からチョコを取り出し、寝ている奴らの口に放りこんだ。


「ほら、これ食べて元気だしな」


「ありがとうございますー、日野さーん。元気がでますー」


どこへ行ってたか知らないが、騒ぎを聞きつけて石川平治が戻って来た。そしてミコトの一連の動きを見て、元気であるにもかかわらず、シートに横たわり


「ミコトさーん、俺にもくださーい」


「あれ?君は倒れてなかったでしょ?しょうがないなあ」


ミコトは石川平治の口の中にチョコを入れてやった。石川平治はえへへ、と笑った。幸せそうな笑顔だ。それを見ていた平治の姉は、つかつかと近づき、弟の頭をげんこつでぶんなぐる。


「いてっ!なにすんだよ、姉ちゃん?俺のささやかな幸せ、奪うなよ!」


「こらっ、お前は元気なんだから、そんなことされる必要はないだろ!ミコトもコイツを甘やかすな!」


「まあまあ、カズミちゃん。ヘイジ君には色々やってもらったし、お礼の意味も込めてね」


さらにそれを見ていた上田健太郎と川村幸治も、おもむろに五年のシートに横たわり


「ひのぉ、俺達にもー」


ミコトと石川和美は拳を握りしめ、軽く息で温めると、これでも召し上がれ、と言って二人の頭を思いきり叩いた。それを見ていた校長は、私は止めとこう、そう思った。





 五年生の騒動のため、出発が三十分遅れることになった。


「困ったわね!時間が余っちゃった。新入生も、つつじだけじゃ間が持たないみたい。走り回ったりしないようにする方法ないかしら?」


一年・担任の柳生博子は他の先生達と話をしていた。それを小耳に挟んだミコトは、リュックの中から昨日買いこんだものを取り出した。


「先生、これで駄目ですか?」


ミコトが差し出したのは、前日お菓子と一緒に購入した紙風船セットであった。


「四つセットになってるから三人一つでやれば十分だと思いますが、どうでしょう?」


「いいの?これ使わせてもらっても?」


「ええ、こんなこともあるかなと思って持ってきました」


「ありがとう。えーとあなた日野さんね。あの神社の?助かるわあ、ついでに新入生達と遊んであげない?是非」


是非、と言われれば断るわけには行かない。ミコトは新入生の前に出ると、自己紹介をして、自分が持ってきた紙風船の使い方を教えた。自分の息で膨らますこと、あまり強くたたかないこと、この二点を注意して自分で使って見せた。ミコトが紙風船をはじくたび、新入生がおー、おおーと声を上げる。調子に乗ったミコトは四ついっぺんに紙風船をはじき始めた。風が吹いてもなんのその、両手両足右左、自由自在に動かして、風船落とすことはなし。


「と、まあこんな感じで」


そう言って終わったミコトの周りには、新入生がまとわりつき、ミコトおねーさん、もっとやってー、と言ってきた。


「それじゃあ、みんなで一緒にやろう!」


そう言って、ミコトは一年生を輪に並べ、輪の中心に入って一緒に遊んだ。三十分など直ぐに過ぎた感じだった。


「どうですか?いい子でしょう?時々変なこと言ったりするけど」


担任・宮本は得意げだった。


「いいなー、先輩。あんな子がウチのクラスにいたら、すごく助かるのに」


「あんまりうらやましがるんじゃありません、佐々木先生。宮本先生だってあのクラスをまとめるのに苦労してるのよ」


「でも助かっていることは事実ですわ、柳生先生。特に緊急時には。普段はもっとぽーっとしていることが多いんだけど」


「へええ、そうなんですか?全然そんな感じしないんですけど?」


担任達の間で、ミコトの評価はウナギ登りだった。


「さて、五年の男子児童の調子はどうだろうか?」


「一応みんな歩けるようになったようです」


「コースを変えた方がよくないですかねえ?また山越えだと去年の二の舞ですよ」


「そうですね、私校長先生に進言してきます」


「宮本先生、教頭先生にも相談してね」



六年担任・宮本は周りに聞こえないように舌打ちをした。これだから、派閥ってやつはうっとうしい!笑顔の仮面を纏い、六年担任・宮本は教頭に話を持ちかけ、それを校長に上奏した。校長は担任・宮本の案を了承し、全学年が迂回コースを通ることになった。



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