変なモノ、COMING SOON!その2
昼食の時間が終わり、出発まで時間があるので、ミコトは辺りを見回ることにした。石川和美や竹下愛を誘ってみたのだが、二人とも首を縦に振らなかった。
「ごめんねーミコトちゃん。午後に備えて体力を温存しておきたいの」
竹下愛の言うことももっともだ。一人でも道の途中で座りこまれたら、大変なことになる。ミコトは無理に誘わなかった。ミコトは池の周囲にさいているつつじを眺めていた。池、といっても一周三百メートルはあろうか?池の中央には小島があり、そこまで行けるように南北に桟橋がかかっていた。そこに向かおうとして、ミコトは呼びとめられた。
「ミコトちゃんもあそこへ行く?なら一緒に行かない?」
声の主は荒木恵理子だった。クラスで二番目に背が高いのだか、目立つのは縦方向ではなく横方向においてだった。どっしりと安定したその体型は、安心感を与える。
「あ、エリコちゃんも行く?一緒に行こう」
「ミコトちゃん、体は何ともない?あんなにおにぎり食べたのに?」
「うん、全然大丈夫だよ。腹ごなしにきれいなモノを見ようと思って散歩してるの」
「本当にきれいに咲いてるねー」
荒木恵理子は目を細めて、景色を楽しんでいた。この人は、今咲いているつつじのようだ、ミコトはそう感じた。派手さは全くないが、長く咲きいつまでもヒトの目を楽しませてくれる。いつも落着いており、なおかつニコニコ笑っているこの人もまたミコトに影響を及ぼす人の一人であった。
二人は、池の周囲を回り、桟橋の方へ歩いていった。
「ねえ、エリコちゃん、何か聞こえる?」
突然の質問に、荒木恵理子が戸惑いながら答える。
「うん、聞こえるのは、みんなの騒いでいる声と、風の音だけど?」
「そうかあ、錯覚だね。誰か歌っているかと思った」
「歌?」
「うん。なんかね、ヘーイヘイヘイヘーイヘイって聞こえて来たんだけど、気のせいか」
ミコトは気付いた。その声は、家のなかで土偶が話しかけてくる、あの声と一緒だったのだ。
“ヘーイヘイヘイ・ヘーイヘイ、ヘーイヘイヘイ・ヘイヘイ。ヘイ!ヘイ!”
なんだこれ?やかましいな?ミコトはそう思いながら歩いていた。すると、荒木恵理子が前方を指差し、大声で叫んだ。
「ミコトちゃん、アレ見て!人が倒れてるよ!」
前を向くと、確かに人が数名、横たわっていた。二人は急いで駆け寄る。倒れているのは五名、五年生の男の子だ。辺りを見回したがこれで全員のようだ。石川和美の弟は含まれていない。
「エリコちゃん!誰か先生呼んで来て!私この子らのコト見てるから!」
「わかった!」
そう言って、荒木恵理子はその場を駆け去っていった。その体型に似合わず、素早い動きだった。ミコトは五人のうちの一人を起こしてみる。どこも怪我をしている様子はない。軽く揺すって見る。
「おい、君!どうしたの?」
「あー、だるいいぃ」
意識はあるようだ。他の者も確認してみるが、同様の反応だった。
「こんなところで休んでないで!休むんならシートのところで休みなよ!」
「そこまで行くの、めんどくせぇーえー」
これは、ただ疲れているだけなのか?どうも、“あの声”が怪しい、そうミコトはにらんだ。