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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
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待ってました!昼食タイム!




昼食は六年生のクラス委員の号令で一斉に始まった。六年のシートには校長が、五年のシートには教頭が座って来た。いただきます、を言った後、ミコトは自分の弁当箱の包みを解いた。メモが入っている。食べる順番が指定されていた。なんだろう、まあいいか。ミコトは弁当箱 を開ける。パカッ。


「うわ、ミコトちゃんのお弁当、全部お結びだ!しかも大きい!」


「アイちゃんのお弁当は三色弁当か。そぼろにいり卵、赤いのはチャーハンかな。上の方にはリンゴウサギ。かわいいなあ」


「お前の大嫌いな野菜どもは入っていないな。苦いのもちょっとは食べないとだめだぞ」


「カズミちゃんのはどうかな?」




ミコトはさりげなく石川和美のお弁当箱を覗き込む。石川和美は隠す風もなく見せてくれた。


「わあカラフル!シューマイ、プチトマト、卵焼き、お浸し、ブロッコリーにヒジキ。綺麗だなあ」


「綺麗なだけじゃないぞ。ちゃんと栄養バランスも考えてるんだ、野菜、肉、卵、海藻、そして玄米ご飯」


「これカズミちゃんが作ってるの?すごくきれいだね。今度習いに行こうかな?」


「お?どういう風の吹きまわしだ?ミコトがそんなこと言うなんて?」


「うん、実はママが風邪引いちゃって、このお弁当、パパに作ってもらったの。自分で料理、できるようにならないとね」


「ほお、感心感心。ウチに来れば教えてやるよ。ところで、ミコトのウチでも風邪引くことってあるんだなあ」


「それ、どういう意味?」


「だってお前の家の人間ってだれも風邪なんか引きそうにないぞ。おじさんだってさっきのあのはしゃぎっぷり。風邪も寄り付かないんじゃないか?」


それまでミコト達の脇でお弁当を食べていた校長が口を開いた。


「あなたが日野さんですか?泉坂神社の神主のお子さん?」


「はい、そうです」


「この度は、神社を使わせていただき、有難う。お父さんにもお礼を伝えておいてください」


「はい。父にもそう伝えておきます。あの、この行事いつからやってるんですか?あんまり評判良くないんですけど?」


「これ、日野さん」


「これはねえ、私が校長として着任する前からやってるんだ。鍛練として歩くことは肉体的にも精神的にもいいことなんだよ」


「それにしても毎年倒れる子供が出ると聞きます。これってやり過ぎじゃないんでしょうか?」


「日野さん!」


「ああ、いいんですよ、宮本先生。子供の疑問にはちゃんと答えてあげないと。あのね、君のお父さんが神社の神主をやる前は、くそじじぃ、いやいやお年寄りが神主をしてたんだけど」


ハゲ親父、いやいや校長は感情を殺して喋っている。


「あの神主が休憩所として君ん所の神社を使わせてくれなかったから、途中休むところがなくって、倒れる子供が増えたんだ」


ミコトはそうですか、と言って反論するのを止めた。この人は自分のせいじゃないと言いたいらしい。そういう人には言っても無駄な気がしたからだ。校長は納得してもらったと思ったらしく、お弁当を食べ始めた。担任・宮本が柄にもなく慌てて見えた。



ミコトは気を取り直して、お結びを手に取った。中味は何だろうな?パクッ。一つ目は梅干しだった。おいしー。お腹空いてたから、余計においしく感じる。モグモグゴックン。二つ目を手に取る。これは何かな?パクッ。中から黄色い物体が出て来た。朝食に出て来たスクランブルエッグだ。醤油バターの味付けで、これも食が進む。モグモグモグモグ、ゴックン。


「相変わらず、おいしそうに食べるねー、ミコトちゃん!」


「パパが作ったんだけど、ママが作るお結びよりおいしいよ。三個目は何味かなー?」


パクッ。モグモグ。この味は、朝食で毎日出てくる、メザシだ。焼いたメザシを刻んでお結びの具にしているのだ。これはこれでありだな。モグモグモグモグモグモグモグモグ、ゴックン。


「ミコトは本当に美味しそうに食べるなあ」


「美味しそう、じゃなくって美味しいよ」


「いやいや、今日のお弁当に限らず、いつも何か食べる時旨そうに食うよなあ」


「そう?」



ミコトは四個目、五個目のお結びを立て続けに食べていった。四個目はキュウリとわかめの酢の物が、五個目はきんぴらごぼうがはいっていた。あまりの食いっ振りの良さにお昼ご飯を食べている者もしばし見とれていた。


「ミコト、お茶飲むか?」


見かねた石川和美が一服勧めた。


「ありがとう、カズミちゃん」


そう言ってミコトは自分の水筒のコップを取り出し、石川和美から温かいお茶を入れてもらった。お茶の温度がそれほど高くないことを確認すると、ミコトは一気に飲み干した。


「はー、人心地着いた。やっぱりお結びにはお茶だよね。このお茶、カズミちゃんがいれたの?」


「お、おう。そんなに美味かったか?」


「味と言い、温度と言いサイコーだよ」


「そ、そうか。良かったな」


ミコトの食べる様子を見て、すでに自分の弁当を食べ終わっている川村が、そんなに旨いんなら一個くれよう、とねだって来た。


「いいわよ、人心地ついたし」


「じゃあ俺にもくれ」


と言ったのは上田健太郎である。ミコトは上田に七番目を、川村に八番目を渡した。自分自身は六番目を食べた。六番目の具は納豆だった。これもおいしいな。モグモグモグモグモグモグモグモグ、ゴックン。


「お―これはシンプルなおかかのおにぎりだな。うまいうまい」


そう言ったのは上田であった。七番目はおかかであった。最後の八番目は何だったのだろう?


「Oh!」


と叫んだのは川村幸治である。


「それ、中味は何だった?」


「すげーな、おまえんち。チョコレートをお結びに入れるのか!くそー、俺んちでもやってもらえばよかったなあ。サイコーだよこのお結び!」


石川和美がミコトにささやく。


「アレはおじさんの仕業か?」


「そうみたい。朝からニヤニヤしてると思ったら、あんなことしてたのね」


「でも、なんか旨そうに食ってるぞ。アイツ、味覚がおかしいんじゃないか?」


担任・宮本もミコトに尋ねてくる。


「まさか日野さん、昨日の川村君の言ったこと、真に受けたんじゃ、ないよね?」


「あれは、ウチの父のいたずらです!」


「そ、そうなの?」






こうして昼食の時間は過ぎていき、ミコトは弁当にお菓子を詰めて来た女として代々語り継がれることになる。



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