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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
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目的地に着きました



目的地のつつじヶ丘公園に着いたのは午前十一時半を過ぎた頃であった。公園と言っても街中にあるちまちましたものと違い学校の運動場より広い。運動場の真ん中には池があり、池の周囲には公園の由来であるつつじが植えられている。いい時期に公園にやってこれた、こんなにきれいなら、もっと頻繁に来れば良かった、そんなことをミコトは考えた。それにしても、ミコトは道中を思い出した。ウチのパパは本当にママを看病してるのかな?やたらはしゃいでいたけれど、何あの変なノボリまで作って。だいたいいつ作ったのかしら?真御坂小学校御一行、ようこそ泉坂神社へ、って。まあ、温かいお茶を用意してもらえたのはよかったけど。思った通り、佐々木先生ばてちゃってるけど、大丈夫かな?


池のふちで咲いているつつじに見とれていると、遠くでミコトを呼ぶ声がする。



「おーい、日野さーん。ちょっとこっち来てー」


担任・宮本の呼ぶ声だ。ミコトは声の方へ駆け寄った。


「どうしたんですか、先生?」


「もうすぐ新入生達、低学年チームが公園に到着するんだけど」



ミコト達、五・六年のチームは他と違って、中腹の神社から山頂を通ってこの公園に到着したのだ。距離は短くなるが、その分疲れる。低学年チームはミコトの神社から少し過ぎたあたりで山道を迂回して公園に辿りつくのであった。少し遠回りになるがはるかに楽だ。


「昼食の準備するのにビニールシートを敷きたいんだけど、六年生でやってくれる?こんな感じで、ビニールシートここにあるから」


担任・宮本は見取り図を一枚、ミコトに渡した。


「これ、先生が運んで来たんですか?」

「うん、まあこのくらいはするわよ。ところでどうだった?佐々木先生は?」

「ちょっとお疲れだと思います。あまり五年の子らも言うこと聞いてくれないし」

「そう、それにしてはちゃんと予定通りについたじゃない?」

「でも、へとへとですよ、あの調子で午後も持つのかな?」

「日野さんはどう?いつもと変わりないように見えるけど。疲れ、残ってる?」


ミコトが答えるより早く、腹の虫が返事する。


「あら、今日は少し早いようね。たくさん歩いたからお腹空いたのかな?もう少し我慢して」


そう言い残して、担任・宮本は去っていった。


ミコトはクラスメイトを呼ぶと一枚三十畳はあろうかというビニールシートをみんなで広げていった。六学年分のシートを広げ終えると、疲れている者はビニールシートに座りこみ、元気のいい者は周囲の探索をしている。ミコトは、探索をしたかったのだが、担任からなにか頼まれごとがあるかも知れないと思い、待機していた。それに、友人達の様子も気になる。男で元気なのは、上田と川村、それにケイジの奴か。女子は、背の高い二人を除いて座っている。


「どう?藍色アイちゃん。公園に着いた感想は?」


アイという呼び名の子は竹下愛のほかにもう一人いる。宮崎藍というのだ。二人が同じところにいるときは愛をラブリーアイ、藍を藍色アイと呼んで区別していた。地味な存在で日頃から余り発言しないこの人だが、特にこちらと線を引くわけもない。共通の話題がないせいか。ミコトは一番近くにいて比較的に元気なこの人に話しかける。


「もうくったくただよ、ミコトちゃん、体は平気なの?」

「体は何ともないんだけど、お腹の方がね……」


ミコトの腹の虫は、どんどん自己主張を強めていく。ぐうううううう。


「いつも通り、時間に正確だね」

「たくさん歩いたせいか、いつもより大きく鳴っています」


宮崎藍はウフフと笑った。本当に笑ったのか愛想笑いで笑ったのか、ミコトには分からない。


「去年もこんな感じだったの?」

「ううん、去年はもっとはしゃいでたよ、今の五年生みたいに」


確かに五年生は、目的地に着いた安堵からか、そこらじゅうをうろうろしている。男子はバラバラ、女子は一人の男の子の後を追って。


「ケイジ君、大人気だね」

「そうだね」

「ミコトちゃんは行かなくっていいの?」

「え?私が?どおして?」


宮崎藍は今度も笑った。そして返事をしなかった。


「ミコトは今さらアイツを追う必要はないもんな?」


と、うつ伏せで休んでいる石川和美。隣に竹下愛も同じ姿勢だ。何やら口だけモグモグしている。昨日買ったチョコでも食べているのだろうか?


「もう二人して同じ姿勢になっちゃって。だらけてないで、ほら低学年の子らが来たよ。起きて、二人とも。ほら先生も来てるよ」


ミコトは二人を無理やり起こした。担任・宮本が近づいてきた。


「お、竹下さんはまだ大丈夫みたいね。石川さんも。体がちっちゃいから気にしてたんだ―」

「だったらセンセー、こんな行事、止めさせて下さいよー」

「だめよ、自分にそんな権限ないし、そもそも、これは体力増強の目的もあるんだから。石川さんはともかく、竹下さんのためでもあるんですよ。さあ、全学年揃ったし、全員シートに呼んできて。ほら、佐々木も五年を連れてくる!」


宮本は、隣のシートで伸びている五年担任・佐々木に声を掛けるが、動かない。怪しげな声を出すだけだ。


「私が呼んできますね、五年生も」

「あー、ヒーノーさーん、おーあーりーがーとーうー」

「もう!アンタがそんなことじゃシメシがつかないでしょ!」


ミコトは立ち上がると、六年を呼び返した。柳井にくっついている五年女子も席に戻った。五年男子も、石川平治に声を掛けると、すぐに呼びもどしてくれた。


「ありがとうヘイジ君、助かるよ」

「いえ、ミコトさんのためなら。ところで五年の女子が集まっている、あの人は誰ですか?見たことない顔だけど」

「ああ、あれは柳井圭治って言うの。四月にこっちに引っ越してきたのよ」


石川平治は、ふぅんと返事した。そして、あの人はどんな人ですか?と聞いてきた。


「あいつ?頭のいい、サッカー馬鹿よ。いっつもウチの神社の境内でリフティングの練習しているの」

「頭のいいバカって、なんか変ですね」

「そうだね。さあ戻ろう」


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