表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第2章 埴輪(はにわ)のパピプペポ
90/155

遠足当日です



 翌朝。ミコトは目覚めた。黒猫と一緒に寝たせいか、土偶が夢に出てくることはなかった。ミコトはベッドから降りると、東向きの窓のカーテンを開け、天気を確認する。うん、ちゃんと晴れてる。ソナタの予報はばっちりだわ。時計を見ると、午前六時四十分。ミコトは体操服に着替えて、部屋をでた。朝の用事を全部済ませると、ミコトは台所に入った。父親が台所で割烹着を着て、お味噌汁を作っていた。意外と似合うー。でももっとそれが似合う人がそこにはいない。


「やあ、ミコト、おはよう」

「おはよう、パパ。ママの具合はどう?」

「まだ熱があるみたい。ミコトのおやつ、少しもらったよ。ママに食べさせたから。ああ、それと、平熱を測ろうか」


父親はミコトに体温計を渡した。ミコトはそれ受け取り、脇に挟んだ。


「それはいいけど、お弁当できてる?」

「できてるよ。お結び作って入れといたから」

「具は何?」

「それは開けてからのお楽しみ!はいこれ。八つもあれば足りるでしょ?余ったら誰かにあげていいから」

「何かニヤニヤしてない?」

「そんなことないよ。それより、さっきから猫達が足に絡まってるんだ。こいつらに朝ご飯をあげてくれないか?」


ミコトは、キャットフードを餌皿に入れ床に置いた。


「さあ、召し上がれ」

「よかった、やっと離れた。それじゃあ、ミコトの分のご飯ですよ」


大盛りのご飯を、父親は娘に渡した。


「おかずはさっき作ったテーブルのこっち側にある奴。渡すから受け取ってね」


ミコトは右手で小皿を次々と受け取った。スクランブルエッグ、キュウリとわかめの酢の物、きんぴらごぼう人参、メザシ、葱入り納豆、冷や奴。おかずを受け取っている最中に体温計のブザー音が鳴った。


「どれ、見せてごらん」


ミコトは体温計を父親に渡した。代わりにミコトはお味噌汁を受け取った。


「どれどれ、三十七度。やっぱり熱があるんじゃないかい?」

「そんなことないよ、いつも通りだよ。食べていい?」

「はいどうぞ。平熱が高いのかな?」

「いただきます。平熱が高いと何か問題があるの?」

「どうだろうね?病院に行った方がよくないかい?」

「ふぇんふぇんふぉんふぁいふぁいほ。いはあふってふぁいふぉうふ」

「うーむ、いつも通りの食いっぷりだな。元気そのものだ」

「ふぁふぁらあ、ふぁんふぉふぉんふぁいもないって。パパ、この卵焼き、おいしいね」

「スクランブルエッグ、っていうんだ。バターで味付けしてるからな。ママはこれ出したことないだろう?」

「ふぉふぁんふぉおふぁふふぃふぃっふぁふぃふぁねー」

「そうだろう?ご飯によく合うだろう?」

「ん?今日のお味噌汁、具がジャガイモと玉ねぎだ」

「たまにはいいだろ。いつもわかめと豆腐と油揚げのローテーションじゃない奴でも」

「うん。でもジャガイモはあんまり合わないなあ。これじゃあ、カレーにした方がいいよ」

「今晩はカレーにするか、それじゃあ」

「ふぁんふぇいふぁんふぇい、ふぉふぃふふぁっふふぃいふぇふぇふぇ」

「うーん、お肉はママが反対するしなあ。ご飯の代わり、するよな?」

「うん」


父親は、一杯目にも増して、大盛りにしてミコトに茶碗を渡した。


「ありがとう。それじゃ、いつものシーフードカレーにしてよ」

「わかったよ。だけど味付けはいつもどおりじゃないからな?」

「うん、ふぁふぁふぇふぃふふぁふぃふぉふぉうが、いっぱい食べられそう」

「それじゃ、パパも食べるとするかな」

「ごめんね、先に食べちゃって」

「いいさ、いつも通りに家を出るんだろ?なら、急いで食べないとな。それにしても、どうだい?パパの料理もおいしいだろう?」

「うん、びっくりしたよ、ほんふぁふぃおいふぃふぁんふぇふぃふぁふぁふぁふぁふぁ」

「うん、もうなにをいってるか、全然わからないな」

「ごめんごめん、ついいつもの癖で」

「学校でそんなこと、やってないよね?」

「学校では慌てて食べる必要、全然ないもの」

「ホントに?」

「ホントのホント」

「そお?もうお代わりはいい?」

「じゃ、もう一杯。お味噌汁もちょうだい」


父親はご飯を軽く装い、お味噌汁をたっぷり掬って、娘に渡した。


「ところで、水筒には何を入れていくんだ?」

「ああ、アレにはチョコレートと氷を入れていこうと思ってるの」

「チョコに氷!そのままだと溶けると思ってるんだ。なるほど。しかしそれじゃあ喉が渇くんじゃないかな?」

「公園にも水道はあるし、大丈夫だよ」


そう言って、ミコトは残りの料理を統べて片付けた。


「ご馳走さま。パパ、お茶飲む?」

「貰うよ」


その返事を待つまでもなく、ミコトは食べ終わった食器を流しの下に持っていき、皿を洗っている間に湯を沸かした。


「パパ、悪いけど、自分の分は自分でやって」

「ああ、ゆっくり食べたいからね。お湯が沸く間に出かける準備をしたらどうだい?パパがお茶を入れておくから」


ミコトは礼を言って、その場を離れた。自分の部屋からリュックを台所に持ち込んだミコトは、冷凍庫に入れていたチョコとキャラメルを取り出し、キャラメルをそのままリュックの中に、チョコの方は水筒に入れ、冷凍庫の氷をガラガラと入れていった。これで半日は持つかな?水筒もリュックの中に入れる。これで準備はできた。


「お?終わったかい、そしたら、お茶でも飲んで」


ミコトは礼を言ってカップを受け取る。お茶の香りがミコトの胸いっぱいに広がった。茶の香気を楽しんだ後、父娘は同時にお茶を啜った。


「まだ家を出なくて大丈夫かい?」

「だいぶ余裕があるよ」

「でもいつも通りだといつもギリギリなんだろう?たまには早めに出たらどうだい?」

「そうだね。これ飲んだら出かけるよ。ところで、ママはご飯食べないのかな?」

「起きたらパパがお粥をつくるさ」

「さっきから、ニヤニヤしていない?」

「そおか?いつも通りじゃないかな?」


そういう父親の顔はいつもより心なしか笑って見える。何だろうこの笑顔?あんまり見たことない顔だなあ。


「ぼーっとしてないで。ミコト、また考えごとしてただろう?だめだぞ、先生も言ってたじゃないか。空想癖が過ぎるとだめだって」

「パパ、なんか悪だくみ、考えてるでしょう?」


ぎくり!父親は軽く痙攣した。


「え?そんなこと考えたこともないよ」

「いま、ぎくりとしたでしょ?まあいいわ、もういってきます」




ミコトはいつもより早い午前七時二十分に家を出た。春の柔らかな日差しが下る山道に降り注がれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ