変なモノ、COMING SOON!(もうすぐ!)
昼食を食べたミコトは幸福感に包まれていた。なにしろ家に帰るまでお腹ペコペコだったのだ。母親にあったときの第一声が、ただいま、ではなくお腹すいたよー、だったのだ。母親は呆れながらも笑っていた。じゃあ、すぐできるお結びでもいいか、と聞くと、何でもいいから早くお願い、と言ってきた。仕様がない子ね、と聞こえないような声をあげた。
結局ミコトは小さく握ってあったとはいうものの八つのお結びを平らげ、お味噌汁二杯を飲み干した。そしてそれで満足して若いのに似合わず渋い番茶を啜っていたのだった。
「はー、満足満足」
そう言ってお茶を飲み干した。二杯目のお茶をいれた時、父親が台所へ入ってきた。
「お、ミコトお帰り、お昼は済んだかい?」
ミコトは肯いた。
「じゃあお昼から手伝ってくれる?まだまだ片付けが終わらないんだ」
「えー、ちょっと待って、すぐには動けないよ」
「そうだね、それじゃあ三十分後にしようか?それにしても、何を食べたんだい?動けなくなるほど」
「この子、お結び八つも食べたのよ、ちょっと食べすぎじゃない?」
「元気な証拠じゃないか?食べないで病弱になるよりよっぽどいいよ」
父親は、その食欲は母親譲りですよという言葉を飲み込んだ。
「それはそうだけど、ねえ、食べたものはどこに消えるのかしら?縦に伸びてる様子はないし、かといって横に大きくなってもいないのなんて。変だと思わない?」
「なに、そのうち大きくなっていくさ。なあ、ミコト、転校生は来てただろ?どうだった?仲良くなれそうか?」
「そんなのわからないよ。今日初めて会ったばっかりだし」
「いい子だったろ。家も近いし、どうだ、彼氏にするか?」
「やだなあパパ、変なこと言っちゃって」
「変じゃないさ、あんないい子が跡取りに来てくれれば、ウチの神社も安泰というわけさ。どうだい?」
「ママに頼んでもう一人産んでもらえば?男の子を」
「ミコトは弟か妹が欲しいのかい?」
ミコトは自分に弟妹ができたことを想像してみた。かわいいかわいい赤ちゃん抱いて、お外にいって、散歩して。少し大きくなったなら、いっしょに公園まで行って、ブランコに乗せギーコギコ。もっと大きくなったなら、一緒に走って鬼ごっこ。ん、待てよ、今すぐ生まれても、年が一回り違うぞよ。走り回るくらい大きくなってるってことは五、六歳?その頃私は十八ぐらい?やだ、姉妹って思われるかな?一つ間違えば親子に見られるんじゃない?それはないか。
「おーい、ミコト?」
父親からの呼び掛けでミコトは我に返った。
「なあに、パパ?」
「良かった、戻ってきた。それで、どうだい、弟妹は欲しいかい?」
「今から妹や弟できたらだいぶ年が離れるよね?」
「そうだね。小さい子はかわいいぞ、あ、ミコトが可愛くないって意味じゃないからね」
「わかってるよ、パパは私をかわいがってくれるから。もしかして、パパはもう一人子供が欲しいの?」
「ミコトのようにかわいい子だったら何人でも欲しいね。ママに頼んでみようかな?」
「ねえパパ、赤ちゃんはどうやったらつくれるの?」
「なんだミコト、十一歳にもなってそんなことも知らないのか?大人の男の人が女の人に、こう指でほっぺたをつんつんしたらできるんだぞ」
「うそ、この前はコウノトリが運んでくるとか言ってて嘘ばっかり、学校のみんなに言ったら大笑いされたよ」
「その時はどういう結論が出たの?」
「そのときは、大人の男の人と女の人がベッドで抱きしめあったら出来るって話だった」
「だから、ベッドの中で男の人が指で女の人のほっぺをつんつんすると、赤ちゃんができるのです」
「あなた!子供をからかうんじゃありません。ミコトも食事が終わったのなら、後片付けしなさい」
「はーい、ご馳走様でした。やっぱりからかってたんだ、もう」
ミコトは食器を洗い場へ持っていき、手早く洗って片付けた。
「そうそう、ミコト、あなたの新しい眼鏡あったわよ」
「え、どこに?」
「どこだと思う?」
「今朝、一生懸命探したのになかったんだよ。わかるわけないよ」
「ミコト、あなたメガネをつくったまんまにして、出来上がりを取りに行ってないでしょう?メガネ屋さんから電話があったわよ?」
ええ?そうだっけ?ミコトは昨日のことを思いかえした。メガネを作りに行ったのは夕方で、出来上がったのは閉店ぎりぎりのことだった。暗くなる前に帰らなきゃと思い、代金を払って、その店を出た。メガネ受け取ったっけ?ミコトの頭の中でハテナがぐるぐる回った後、ばさばさと落ちていった。あーっ、確かに貰ってなかったー、恥ずかしー。
「それでね、今日取りに行きなさいね?」
「うん、わかった」
「今度はちゃんともらって来るのよ?」
ミコトは一度もらい損ねているため強く返事できなかった。
「うん、今度は気を付けるよ」
「いつも気を付けて欲しいものね。お金払って物を受け取らない、なんて聞いたことないわよ?」
「ごめんなさい、ママ」
母親はミコトを見てにっこりとした。
「失敗を反省できるってことはとてもいいことよ。ママはそんなミコトが好きよ」
「ほめてくれてありがとう、ママ。私もそんなママが好き。パパの手伝いが終わったら、取りに行くね」
「パパのお手伝いするならちゃんと着替えていきなさい」
元気良く返事して、ミコトは台所を出ようとした。
「ミコト、社に行くんだからちゃんと袴を着て行くんですよ」
「うん、これから着替える」
そう言うとミコトも台所からでていった。