遠足の前日って眠れなくなりますよね
ミコトは急に不安になった。ママ死んじゃったら、どうしよう?急に不安になったミコトは、急いで湯船から上がり、バスタオルで体を拭き、パジャマに着替えた。髪をドライアで乾かすと、ミコトは脱衣所を出て父母の寝室を覗いてみた。ガチャッ。大きな音がした。椅子に座る父親の背中越しに、ベットで横になってる母親の姿が見えた。
「部屋に入っちゃだめだよ」
父親は優しく注意を促す。
「うん、ママの具合はどう?」
「今眠ったところだ。あ、これ持っていって」
父親は椅子から立ち上がり、猫の寝床籠を二つ、娘に渡した。
「ママ、死んだりしないよね」
「大丈夫だよ、いつもあんなに元気なママが、そんなに簡単に死んだりするかい。今回のは、まあ、鬼の霍乱、というやつだな。さあ、うつったらいけないからもうオヤスミだ。明日はいつも通りでいいんだね」
「うん、パパ、お弁当なんか作れるの?」
「大丈夫だよ。任せておきなさい。それじゃ、オヤスミ」
心なしか、父親は笑ったように、ミコトには見えた。口元だけの笑みだったので何かおかしいのか、ミコトには解らなかった。
「おやすみなさい」
ミコトは籠を手に持って部屋を出た。自分の部屋に戻ると、白猫はミコトのベッドの上で寛いで、黒猫はミコトの机の上で毛を逆立てていた。土偶に向かってとびかかりそうな勢いだ。
「こら!おスミちゃん!机から降りなさい!」
にゃーご。黒猫は一鳴きして机から飛び去った。初めて土偶を机の上に飾った日に、この猫はミコトの部屋で大暴れしたのだった。今日のところは一応ミコトの言うことを聞いてくれた。黒猫がいる間はソナタと話をしないほうがいいよな、おスミちゃん、ソナタのこと何か気付いているみたいだから。
「さー、おユキさんにおスミちゃん、もうお休みの時間ですよー」
ミコトは猫の寝床を持って呼びかけた。白猫の方は、黙ってベッドから降りて、すたすたと寝床に入るとミコトの顔を見てにゃお、と笑って見せた、ようにミコトには見えた。一方、黒猫はと言うと、まだまだ興奮が収まらないのか、落ち着きが足りないようだ。
黒猫のことは放っておいて、ミコトは明日の準備をした。まず、リュックサック。ミコトは押入れの上の棚から自分のリュックサックを取り出す。何の飾りもない、シンプルな黒色のリュックだ。父親が、こういうのは長く使うものだから飽きが来ないモノの方がいいよ、そう言って買って来たのだった。次に、ミコトは買ってきたお菓子をリュックに詰める。キャラメルも冷やしておいた方がいいかな?ミコトはそうすることにした。キャラメルを持って、ミコトは冷蔵庫までもっていき、冷凍庫の扉を開け、チョコレートと同じところに収納した。さらに、明日着ていく服だ。ミコトは居間に入り、自分用の箪笥を開けると、学校で使う体操着、それに靴下を用意した。紺色のジャージだ。学校の行事で、山登りもあるから、体操服で学校に来いとのお達しだった。一応、タオルも用意しておくか。取り出したものを、ミコトは自分の部屋に持っていく。それと、水筒だ。中に氷を入れて、チョコを入れて、溶けるのを少しでも遅くしよう。多分溶けないと思うな。水筒は流しの下に、あった。テーブルの上に置いておこう。これで準備できた。あとはお弁当だけだな。パパに任せて本当に大丈夫かな?まあ任せるか。
ミコトは部屋に戻った。白猫は完全に眠りについている。黒猫は、まだ部屋の中をうろうろしていた。ミコトは黒猫の両脇を抱え持ち上げる。
「君は、部屋が変わると眠れなくなるタイプかな?ん?」
ミコトの問いかけに、黒猫はきちんと答えてくれる。ただし、落着いている時には、という条件付きだ。黒猫が一旦暴れだすと、ミコトには為すすべがない。止められるのは、母親と、白猫だけだ。一人は病で伏せっているし、一匹はもうお休みになっている。ミコトは黒猫を上に下にと動かした。黒猫は激しい運動が好きらしく、少し機嫌が直ったようだ。ついで、ミコトは立ち上がり、猫の両腕を持って自分の両腕を伸ばし回った。黒猫は回転運動がもっと好きで、激しく回るほどご機嫌になって来る。あまりやり過ぎると、自分の目が回るので、ミコトはほどほどにして止めた。猫を床に降ろすと、黒猫はよろよろしながら歩いていって、自分の寝床に入った。よかった、寝る気になってくれたらしい。私も寝よおっと。
ミコトはベッドに潜り込み、枕を整え、息を大きく吸って、吐いて。目を閉じて。明日のことを考えてるうち、ミコトは眠りに落ちていった……