担任先生が来た!
ミコトは自分の部屋の中を歩き回っていた。
“どうして部屋を歩き回るのか、ヒノミコトよ?”
頭の中に語りかけて来たのは、この部屋にある遮光器土偶だ。三週間前に倉庫の掃除をしていて、ミコトが見つけたモノだ。不思議なモノが好きなミコトは土偶を部屋に飾った日の夜、土偶と夢で話をするようになった。ミコトはその土偶にソナタと名付けた。その夜以来、ミコトとソナタは数多くの会話をすることになった。現実世界ではミコトの頭の中で、夢の中では声にして……
“だって、先生が来るんだよ”
“先生とは何か?”
“先生ってのは、学校で色々教えてくれる人のこと”
“その先生が来るのに、なぜ部屋の中を歩き回る必要があるのか?座って待っていればよいのではないか?”
“それはそうだけど、とにかく落着かないの!”
“落着かない、とは何か?”
“落着かない、は落着いているの反対。ココロがそわそわしてそこに留まっていることが出来ない状態のこと”
“うむ。ココロの状態の一つか。相分かったから、まあ落着け”
“からかってるの?”
“からかってなどおらぬ”
“だって、覚えたての言葉を使って、まあ落着け、だなんてからかっているとしか思えないよ”
ピンポーン。玄関のチャイムが鳴った。午後四時三十分。
「ごめんください。宮本と申します」
母親が応対に出た。父親はテレビを消し居住まいを正す。
「いらっしゃいませ。ささ、おあがり下さい、先生。こちらへどうぞ」
「失礼します。あの、娘さんは?」
「私ならここにいます」
「あ、ごめんなさい。お母さんに見とれてて気付かなかったわ」
「ミコト、先生を居間までご案内して。私はお茶の用意してくるから」
そういって母親は台所に消えた。担任・宮本はミコトにささやく。
「はーっ、相変わらず、日野さんのお母さん美人だねえ。本当に一児の母なのかしら?お母さん、いまおいくつだっけ?」
「えと、三十二歳です」
「私と四つしか違わないのに、あの美貌、若々しさ。それになにより、人目を引くあの綺麗な赤い髪。くー、うらやましい!ねたましい!」
不思議そうな顔をする小学生に、その担任は誤解のないように説明をする。
「最後の台詞は冗談ですからね、真に受けないように」
なんだ冗談か、安心するミコト。
「あの、先生、こちらが居間です。あの、あれがウチの父です」
「先生、ようこそいらっしゃいました。ご足労おかけしました。さあ、こちらへどうぞ」
そういって父親は居間のソファに案内した。いつもここで寝そべっている姿を見ているミコトには別人に映る。
「こんな恰好で失礼します。どうも参拝する人が少ないとだらけちゃっていけませんね」
「お仕事の方は上手くいってないのでしょうか?」
「まあ、地鎮祭や竣工祭なんかがちょくちょくありますんで一家飢えずに済んでますよ」
「そうですか、それは余計な事を申し上げました」
「さあさあ、堅苦しい挨拶は抜きにして、どうでしょうかな、ウチの娘の様子は?」