家庭訪問は緊張します(される方も、多分する方も)
新章、始まりました。
ゆるりと投稿していきます。
この日の夕方、ミコトは落着きなく自分の部屋の中でうろうろしていた。その原因である人物が未だ家に来ていないからだ。その人物は宮本幸子。二十八歳独身、体を鍛えることが趣味の人だ。ミコトを含む小学六年生のクラス担任でもある。この人は昨日と当日に渡って児童達の家庭訪問を行っていたのだった。
「日野さんは三番目だから、今日はまっすぐお家に帰ってね」
「一件でどのくらい時間を使うんですか?」
「うーん、そうねえ。問題なければ十五分くらいかしら?日野さんのお家に着くのは四時二十分くらいかな?」
ミコトはつい一時間前ほどに交わされていた、そんな会話を思い出していた。
明日四月二十九日は祝日だが、学校の行事で新入生歓迎遠足が行われるのだ。その日のホームルームで男子児童のうち上田健太郎が、
「先生!バナナはおやつに入りますか?」
という質問をしたのはいうまでもない。担任・宮本の答えはこうだった。
「弁当箱に入っていなかったらおやつになるよー」
その答えを聞いて、川村幸治が担任・宮本のいらいらを高めるような質問をした。
「先生!チョコレートを弁当箱に詰めてくればおやつにならないんですね?」
「そ・の・か・わ・り。ちゃんと昼飯の時に。ゼ・ン・ブ・ク・エ・ヨ!」
児童全員、あまりの迫力に震え上がった。そして、バカな質問をした二人を睨んだ。
ホームルームが終わった後で、急いで帰ろうとしたミコトを呼び止めたのはクラスメイト、クラスといっても一学年に一クラスしかない、の石川和美だった。
「おーい、ミコト。家庭訪問が終わったら、明日のお菓子、買い出しにいかないか?」
彼女は初日に家庭訪問を終えてるためお気楽だった。その隣には同じくクラスメイトの竹下愛もいる。彼女も家庭訪問を終えていた一人であった。石川和美の先ほどの発言に続き、竹下愛もミコトを誘ってきた。
「いっしょに選んだ方が楽しいよ」
「うん、でも私、今日の家庭訪問三番目だから、終わるの五時近くになるよ?それから自転車で来ても五時過ぎちゃうし……」
ミコトの家は山中にあり、小学校から歩いて一時間のところにある。
「いいって、待つよ、アイの家でさ」
「みんなで行こうよ。その方がスーパーで待ち合わせするより間違いがないよ」
結局、ミコトは二人の提案を承諾した。ミコトは、普段お菓子を自分で買わないので、他の意見を聞いた方が良いと思ったからだ。
「しかし、まあ、なんだな、ワンコインで、買えるお菓子ってたかが知れてるよな」
と石川和美は言う。
「でも、制限がないと選ぶ楽しみがなくなっちゃうよ」
とは竹下愛。
「そうだな、無制限にするとミコトのリュック、大風呂敷になっちゃうからな」
石川和美の軽口には答えず、ミコトは二人に別れを告げて大急ぎで帰って来たのだった。
ミコトは早足で帰り四時二十分には帰宅できた。あらかじめ両親には、今日家庭訪問があると告げておいたおかげで、両親とも家で待機していた。父親は家の隣にある神社の宮司で、母親は手伝いでそこの巫女をしている。母親は台所でいつもの袴姿でお湯を沸かしていた。父親は作務衣を着て居間でテレビを見ていた。
「……それでは域内のニュースです。季節外れのインフルエンザが流行っています……」
めざせ、一日一投稿!