ママさんのお手伝いです
二人と一匹は社務所に入って窓と扉を解放した。あまり人の出入りがないようで、辺り一面ほこりかぶっていた。
「ママは拝殿と本殿の方に行ってくるから、ミコトはここ、掃除しといて。ほこりだらけだから、まず、上の方からハタキを掛けていって、ほこりが落ちたら床を掃いてほこりを外に出すこと。それが終わったら箪笥、机、椅子を雑巾がけしていって。箪笥や引き出しの中はいいから。雑巾がけしてる頃には戻るから。手順はそんなところで。ほこりかぶっちゃいけないから」
そう言って、母親は懐から手ぬぐいを二枚取り出し、一枚でミコトの髪を覆い、もう一枚で口と鼻を隠した。
「苦しくないでしょ。これなら埃も吸わないし」
「ママ、どうしてここ、こんなにほこり被っているの?」
「ここは、神社の事務をするところなんだけど、参拝客が来なくてね。あんまり使ってなかったの」
「そして、ここを閉めてるから、ますます参拝客が来なくなるんじゃない?ここ、おみくじとか売っているところでしょ?」
「そう、だからこれから使おうとしてるの。そのために綺麗にするのよ。さあ、わかったら、始めて頂戴。ママはもう行きますからね」
そう言い残すと、母親は必要な道具を持って社務所を出ていった。白い猫も母親についていった。一人残されたミコトは窓の外を見た。
「あーあ、お気楽だなあ」
そこにはリフティングしている少年の姿があった。それを見つめる黒猫の姿もあった。
「仕方ない、始めるか」
一旦掃除を始めると、ミコトはそれに没頭する。母親に言われた通り、ミコトは上からハタキを掛けていき、ほこりを落としていく。たちまち部屋中ほこりまみれになった。ほこりの中を動き回るものだから、ミコトのメガネは見る間に透明度を失っていった。。上の方をはたき終わると、ミコトは一旦外へ出てほこりが静まるのを待った。外は無風で、柔かな光はまだまだありますよとばかりに空から降ってくる。ミコトはメガネを手ぬぐいで拭きながら空を見上げた。
「テンペンって何だろう?テンのヘンジって言われてもなあ」
ミコトは変事を返事と勘違いしたままだった。
ほこりが舞っている中、ミコトは部屋の中に戻った。机の上、棚の中にある飾り物、椅子、あらゆるモノがほこりをかぶっている。ミコトは部屋の中の全てにパタパタパタパタハタキを掛けていく。パタパタパタパタ。音がするたびほこりが舞い上がる。窓を全開にしても、外で風が吹いてないものだから、部屋の中に風は吹き込まず、したがって空気のいて変えも進まない。待っててもなかなかほこりが収まらないので、ミコトはバケツを持って手水舎へ水を汲みに行った。鳥居の近くにある手水舎まで水を汲んで戻ろうとすると、柳井の蹴りそこないボールがミコトの足元に転がって来た。柳井圭治はミコトの方へ駆け寄った。