クラスメイトの自己紹介(先生含む)
「それじゃ、教科書も配り終わったところで、さっき柳井君が自己紹介したから、今度はみんなが柳井君に、簡単でいいから自己紹介してね。名前順で早い方から行こうか?ああ、せっかくだから教壇でやろうか。じゃあ、私から始めますね。私はこのクラスの担任の宮本幸子です。年は聞かないで、現在独身です。親せきにかっこいいお兄さんがいたら紹介してね。休日はもっぱら体を鍛えているわ」
「体を鍛えてるって具体的に何をしてるんですか?」
と恐る恐るミコトは聞いてみた。
「んー、軽くジョギングが一時間、筋トレが二時間ってところかしら?これやるとビールがすんごく美味しいのよ。じゃあ、次、荒木さんね」
こうして女子九人、男子は柳井圭治を除いた五人が自己紹介をしていった。
「荒木恵理子です。このクラスは見ての通り、女子九人、男子が五人しかいないので、新しく友達が増えてうれしく思います。これからよろしくお願いします」
「エリコのあいさつはかったいなー、私は石川和美、ちっちゃくっても元気はあるぞ、よろしくな。えっと、先生、女子が続くの?それとも単純に名前順?」
「名前順でお願い」
「じゃ、次俺ね。俺、上田健太郎、男が増えてうれしいよ。仲良くしようぜ」
「次、オレ、川村幸治。ユキジって呼んでくれ。よろしくな」
「木村詩織です。今のところクラスで一番背が高いことになっています。以後よろしくお願いします」
「僕、佐藤春人といいます。二月四日、立春生まれだからハルヒトです。よろしく」
「ぼくは高橋直樹です。運動は苦手だけどいっしょに遊んでください」
「あ、あたしは竹下愛っていいます。体ちっちゃし、良く休みますがみんなに迷惑かけないようにがんばります。よろしくお願いします」
「……中村大輔……」
「どうしたの?中村君?つづけて」
「俺、自己紹介とか苦手だし」
「人生は何度か自分をアピールする場面がくるの。一言でいいからなんか言いなさい」
「俺はサッカーより野球が好きだ」
柳井は嬉しそうに聞いていた。
「ふう、それでいいわ。次」
「私は新田明日奈。メガネ掛けてるからと言って、日野とか荒木とかと間違わないでね」
「はーっ、もうちょっとまともなあいさつにならないの?つぎつぎ」
「ヒノミコトです。何か私のこと探してたようだけど、今ここで聞くよ?」
「もう、日野さんまで」
担任・宮本は呆れた。
「ごめんね、柳井君。普段はこんなこと言う子じゃないのよ」
「いや、日野はいつもそんな感じだから気にすんなー」
と川村が野次を飛ばした。
「いいんです先生。日野さんの所の広場使わせてもらおうと思って探してたんです。それだけなんです」
「そう、そんなのウチの両親に言えば済むことじゃない?」
「いや、一応君の許可ももらおうと思って。クラスメイトだし」
「勝手にすれば?」
「有難う。許してくれたってことだね。うれしいよ」
「日野さん。どうしてそんなにけんか腰なの?いつもとえらくちがうじゃない。まあいいわ、次」
「宮崎藍です。アイは竹下愛ちゃんと二人いるけど、私は藍色のアイ、竹下愛ちゃんはラブのアイです。区別してね。よろしく」
「あたしは山口真央です。趣味はお菓子作りです。柳井君は好きなお菓子はなんですか?今度あたしが作ってきてあげる」
「いいよー、そういうの待ってたのよ。良い挨拶よー」
「好きなお菓子……、おばあちゃんが作ってくれたぼた餅かな?」
柳井圭治はつぶやいた。
「ぼた餅!」
ミコトは跳ね上がった。
「ど、どうしたの?日野さん?」
「柳井君にお礼をいうの忘れてた。ぼた餅有難う」
「どうしたの?急に?」
「昨日中村さんちのおじいちゃんにぼた餅もらったんです。ここでお礼言っとかないと言うチャンスがないと思って」
「え?でもあれは、神社の持ってる田んぼを使わせてもらっているお礼だって、うちのじいちゃん言ってたけど?」
「ミコトちゃーん、まだ私の番だよー」
「あ、ごめんねマオちゃん。先を続けて」
「まあいいわ。とにかくよろしくね、柳井君」
「最後は真打ち登場だな、私は山本凛って言うんだ。このクラスは女子の方が強いんだから心しておくように」
ミコトは柳井圭治を見ていた。話す人が変わるたび、いちいち頭を下げ、あいさつをしていた。なるほど、パパの見立ては正確だわ、確かに感じのいい子だわ。でもそれは、初めて会う人には皆がすることなのではないか、とミコトは思った。初めて会う人には好印象を与えたいものではないか。そう思ったが、自分の柳井に対する対応を思いかえすと、そうではないことに気付いた。あれは初めて会った人に対する態度ではなかったな、とミコトは反省した。あんな言い方しなきゃよかった。後で謝りにいこう。それにしても、あんな言い方して本当に怒っていないのか?鈍感なのか、それとも自分の感情を押し殺して笑っていたのか、前者なら問題ないけど、もし後者なら、大した役者だわ。