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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第1章 遮光式土偶はかく語りき
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パパさんの頼み事終了



 外では春霞の柔かな光が地上に降り注いでいた。ソナタの話だと、今日いっぱいはこんな天気と言っていたな。それにしても、テンペンって何だ?


「どうしたんだい?立ちくらみでもしたの?ちょっとここで少し休んでいくかい?」

「大丈夫だよ。休憩しに戻ろう」

「ははーん、さてはまた何か空想してたな?なんだい?パパに言ってごらん?」

父親は片手に鞄、片手にバケツを持って歩き出した。


「すごいね、私が何か考えていることが良く解ったね」

「そりゃあ解るさ、私を誰だと思ってるんだ?恐れ多くも、ミコトの父親様だぞー。それで、何考えてたんだ?」

「うん、天が返事するって何なのかな、って思ってたの」

「テンってお空の天のこと?こりゃまた突拍子もないこと考えてるんだねえ」

「トッピョーシって何?」

「突然の拍子ということさ。突拍子だけでは使わなくって、突拍子もない、で一つの意味になるんだ。常軌を逸した、っていう意味」

「ジョーキって何?」

「常軌、常の軌道、普通のやり方、普通の人の行動という意味」


“ふむふむ”


「じゃあ、私のことを普通じゃないって言ってるの?」

「普通の小六の女の子は、天、なんて言わないんじゃないか?普通は」


“フツーとは何か?”


「フツーとは何か?」

「おやおや、また変なことを聞いてくるね。普通の説明か、あらためてそう問われると、難しいね。普通の反対は、特別。特別は世の中に滅多にないモノゴト。その反対だから、世の中にありふれたものやことってところだな」


“なるほど”


“なるほど、じゃないでしょ!急に話に入ってこないでよ、びっくりするから”


“済まぬ、話を続けてくれ”



「それで、なんだっけ?天が返事をするか?ってことだっけ?」

「うん」

「何かが返事をするってことは、何かに呼びかけたってことかな。山は返事をしてくれるよね」

「それは、山彦のことでしょ?ヤッホーって言ったらヤッホーって答える。そうじゃなくって、天が返事をするのかって聞いてるんだけど?」

「うーん、わからないな。ただ、天は声を出すことはないけれど、姿を変えていくことはできるよね。その変化が返事って意味になるんじゃないかな?天の返事が知りたいなら、ミコトは軍師になるかい?」

「グンシって、何?」

「軍師っていうのは、兵隊を率いる将軍に、戦争に勝つための機会や手段を教える人のことさ。軍師は、天文や気象、地形、兵隊、将軍を見るんだ」

「そんなのにはならない」

「そうだね。さあ着いた。お茶でも飲もうか」


 父親は、今度娘に三国志の本を買ってあげようと思いながら家の中に入った。

 



 二人は台所に入った。そこではポットがフーフー蒸気を上げていた。


「あれ、ママはいないのかな?」

「ああ、そろそろ帰ってくるころだと思ってたわ」

背後から母親が声をかけて来た。どうやら脱衣所にいたらしい。


「ちょうどお湯も沸いたし、お茶にしましょうか」

「うん、そのために帰って来たんだ」


 母親は、コンロの火を止め、ティーポットに茶葉を入れ、熱湯を投入した。ほどなくして二人の前に熱いお茶の入ったカップが置かれた。更に母親は冷蔵庫から皿を出した。


「はい、これは昼食までのつなぎよ」

それは最近夕食後に食べた林檎の角切り入りヨーグルト蜂蜜かけであった。


「うーん、これ自体はおいしいんだけど、あんまりお茶とは合わないなあ。やっぱりお茶受けには餡子がいいかな?」

「ミコトもそう思う?」

「うん。これ食べて、お茶飲むとお茶がおいしくないし、お茶飲んでこれ食べると渋みが残っちゃうね」

「そうかー、残念」

「交互に食べて飲んでをしなければ大丈夫だよ。このデザート自体はおいしいよ」

「それじゃあ、僕は居間に行って考えごとがあるから。後はママの手伝いをして。僕のこれ、ミコトにあげるから」

「ありがとうパパ」

父親はカップを持って台所から出ていった。


「パパはコレ、お気に召さなかったようね」

「私は好きだよ、コレ」

「良かった、ミコトがそう言ってくれて。全部食べてね」

「それで、ママ、休憩終わったらどうするの?予定を教えて」

「社務所と拝殿と本殿の掃除して、あとは参道を掃き清めるの。こんな感じで、どう?」

「どうしてさっきいっしょに掃除しなかったの?」

「あら、掃除してたの。てっきり調査ばかりと思ってた」

「なあんだ。呼んでくれれば良かったな」

「でも家の中が掃除できたから、いいじゃない?さ、行くわよ」

「ちょっと待って。お茶全部飲むから」


 ミコトは残っていたお茶をぐいっと飲み干すと、椅子から立ち上がった。母親はテーブルの皿を片付けると、自分の娘を引き連れて家を出た。白猫も二人についていった。


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