ママさん、何か感づく
ドアが開くと、母親が部屋に入って来た。
「どうしたのミコト?大きな声出して?」
「いや、何でもないよ。それより何か用?」
母親はミコトの背後に音もなく寄って来た。
「ふーん、本を読んでいるのか、感心感心。それで、机の上のこれは何かな?」
母親は土偶を手に取り、じっと見つめた。
「どうしたの?これ」
「ママ、これ知ってる?遮光式土偶っていうんだって」
「ママが聞きたいのは、これの名前ではなくって、これをどうやって手に入れたかってことなんだけど?」
「これ、この前倉庫を掃除したでしょ?その時倉庫から出て来たの。ほら、倉庫ってパパの持ち物で一杯でしょ?パパからもらったの」
「ふーん……」
母親は、土偶をひっくり返したり振ってみたりした。最後にまた、土偶を正面に見据えた。
「まあいいわ、邪気もなさそうだし」
その声はミコトには聞こえなかった。
「それで、ママの用は何?」
母親は、土偶を置くとミコトに言った。
「明日はお休みだけど、どこかへ出かけたりする?」
「ううん、明日は神楽殿の掃除するっていってたよ」
「それじゃ、その前に家と神社の大掃除をしよう」
「ママがいつも掃除してくれてるんじゃないの?」
「まあそうなんだけど、日頃やらないところもあるわけよ、そこをやりたいのよ」
「いいよ、明日なら、明後日は約束があるけど」
「それじゃ、明日中に終わらせましょ。いつも通りに起きて。今から寝れば大丈夫よね」
「もう寝なさいっていうの?」
「まだ眠くない?なら無理することないわね」
そう言って母親は部屋を出ようとした。
「いやもう寝るよ。パパはお風呂かな?」
「さっき入ったばっかりよ。お休みの挨拶言っとくから。それじゃオヤスミ、ミコト」
「おやすみなさい」
母親は部屋を出ていった。ミコトはつぶやく。
「ふう、取り上げられるかと思った。どうしてママは不思議なモノが嫌いなんだろう?」
ミコトは土偶を取り上げた。
「ねえ、どう思う?ソナタ」
返事はなかった。あらら、切れちゃったか。まあいいわ、寝たらすぐに話せるし。ミコトは土偶との会話を電話のように考えていた。ちょうどお風呂上がりの熱りも消えて、床に就くによい具合だ。ミコトはベッドに潜り込み、枕の位置を心地よいところに持っていき、息を長く吐いた。
「おやすみ、ソナタ……」
羊を二桁数える時間だけで、ミコトは現実から夢の世界へ移動できる。これはミコトが他人に自慢する能力の一つであった。ミコトはこの日も横になってすぐに眠ってしまった。