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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第1章 遮光式土偶はかく語りき
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お風呂は土偶との会話タイムです


 お風呂に入ったミコト。かけ湯をし、ゆっくりつま先から浸かっていく。毎日入るとはいえ、お風呂は気持ちがいいもんだ。肩までお湯につかると、ミコトは大きく息を吐いた。


「はああああああ、いー気持ち」

お湯の中でミコトがくつろぐと、あの声が頭の中で響いてくる。


“アカネサスヒノミコトよ”

“出たな”

“今は話せる時だが、話はできるのか?”

“いいわよ。ソナタ、さっき私を男と思っていたって言ってたでしょう。良く見てよ。私のどこが男なの?”

“ワラワには、見る・というコトがない。ワラワにできるのは、そなたの体を通じて外を知ることのみ”

“ふーん、不自由なんだね”

“フジユウ、とは何か?”


あーあ、始まったよ。ミコトは説明する。


“フジユウっていうのはジユウの反対。ジユウっていうのは、何かに縛られたりしないで自分の力で行動できること。生き物は目とか耳とか触角とかで外の世界の変化を知って、それに合わせて行動していくのよ”

“ふむ、自由については分かった。しかし、目や耳、触覚などに頼らなければならない生き物の方がよほど不自由なのではないのかな?”

土偶からの思わぬ反撃によって、ミコトは言葉に詰まってしまった。


“どうした、ヒノミコトよ?黙らずともよい。そなたにはそなたの見方があろう。気にせずにわらわにコトノハをいれよ”

“ソナタ、あなたいったいナニモノなの?”

“その問いは、前にもあったぞ。ヒノミコトよ。わらわは統べるモノを見守るモノ”

“それ聞いたわよ。だけどそれはあなたの役割でしょ?あなたは本当にナニモノなの?”

“わらわは、そなたに{ソナタ}と名付けられたモノ”


うーん、からかわれてるのかなあ。でもおちょくっている感じではないし、真面目な答えなのかしら。大体、知らないモノにお前はナニモノ?って聞いてる時点でおかしいのかも。忍者に聞いても、私は忍者です、なんて言うはずがないし。お前はナニモノっていう質問が良くないのかしら?ナニモノって問われたら、名を名乗るしかないよね。でもコイツ、名は好きに呼ぶがよい、なんていってたからなあ。よし、質問を変えよう。


“あなたは誰が創ったの?イキモノは、親が子供を生むけど、あなたはモノだから創った人がいるはずだよね?”

“わからぬ。わらわがワレを知った時、わらわは独りであった。そしてすでに命じられていた。統べるものを見守れ、と。イキモノも同じなのではないか?そなたは生まれた時のことを覚えておるか?そして、生きよ、と命じられたのではないか?”


 うーむ、なかなか筋が通っている。本当にコイツ、ナニモノなんだろう?


 何か分からないモノが目の前にある。その時、あなたはどうするか?それが、自分に害は及ぼさない、人語を解するモノならば、その正体を知りたいと思わないだろうか?ミコトは今、その状態にあった。しかし、土偶に、正面から、お前はナニモノだ、と問うても、ミコトには分からなかった。正面がだめなら裏から攻めるしかないな、ミコトはそう考えた。


 考えるうち、体が熱くなってきたので、ミコトは湯船から出て、体を洗うことにした。いつものように、ミコトは石鹸を泡立ててタオルに付けて体をこする。足先からゆっくり上へ、上へ。


“ヒノミコトよ”

“なあに?”

“そなたは昨日もお風呂に入っておったな”

“毎日入りますよ、美容と健康のため”

“ビヨートケンコーとは何か?”

“美容は見た目の美しさ、健康は体が元気な状態。美容を気にするのは女性の常識”

“ジョーシキとは何か?”

“常識っていうのは、ああもう、みんな誰もが知っている知識のコト”

“チシキとは何か?”

“知っていることの中身を知識って言うの。うーん、国語辞典が必要だな、こりゃ”

“コクゴジテンとは何か?”

“国語辞典っていうのは、たくさんのコトノハの意味を載せてある本のことよ。今のあなたに必要じゃない”

声を使わない返事をすると、ミコトは髪を洗いだした。



“ヒノミコトよ”

“今度は何?”

“そなたは、なぜ髪を短くしている?美しく長い髪の方が男には好まれるであろうに?”

“どうして私の髪が短いってわかるの?見えないのに”

“先ほども言ったように、そなたの体を通じて、髪が短いことが分かる。あの童と同じくらいではないか”

“短い方が動きやすいでしょ?ただそれだけだよ。まさか、それで私のコト男だと思ったわけじゃないでしょうね?”


“……”


“もしかして?”


“そなたの名とその髪で”


“とほほ、私は男の子に間違われたことはないんだけどなあ”


そのように返事をして、ミコトはシャンプー泡を洗い流し、リンス液を手に取ると、髪に撫でつけた。ミコトの髪は、黒髪にしてはか細い。ゆっくり、髪同士絡まないように、丁寧に。髪全体にリンスを馴染ませると、ミコトは再び湯船に入る。最初に入る時ほどではないが、やはり湯船に入る時は息が漏れる。



「ふう、いい気持ち」

それにしてもお風呂に入るたび、そなたの質問攻めにあうのか、うーん面倒くさい。


“ヒノミコトよ、黙っていて欲しければ、わらわは黙るぞ。先ほどのように”

“黙らなくってもいいけど、私が話したいときには話して欲しいな”

“それはそなた次第”

“集中が足りないってことでしょう?集中してるんだけどな”

“なに、このまま話を続けていくうちに、集中せずとも話が出来るようになる”

“そうなの?”

“だから話を続けよ”

“ちょっと待ってて”


そう話を中断させると、ミコトはリンスした髪をお風呂の湯を使って洗い流した。


“これでよし、後はゆっくり温まって、お風呂から出たらまた話をするわよ”

“……”

“あれ、返事がないぞ、どうしたのかな?”


一旦会話が途切れると、話が出来なくなるのかな?ミコトはそう理解した。


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