帰り道 あのコは今日も ボール蹴る
帰り道の長い上り坂を登り終えると、境内の方からボールを蹴る音が聞こえた。前回聞いた時と同様にリズムの悪い音だった。前回見た時と同様に全身小豆色だった。
「今日で三日目か、果たしていつまで続くのやら?」
ミコトはそおっと音のする方向へ忍びよる。都合いいことに、日野家の飼い猫がボールを蹴る少年を見ている。ナイス、おスミちゃん。いいところにいるね。
「おーい、おスミちゃん。何してるんだ、こんなところで?」
ボールを蹴っていた少年は動くのを止めた。汗を掻いてはいないが頬が赤くなっているところをみると、蹴り始めてからあまり時間が経ってないのだろうとミコトは推測した。
「ああ、日野さん、今帰りなの?」
何と返事しようかと迷っている間に柳井圭治は次の質問をしてきた。
「ここらの子は、放課後になったら何してるのかなあ?皆すぐいなくなったんだけど」
飼い猫がミコトに寄ってきた。ミコトは猫を抱きあげて返事する。
「そういうあんたもすぐいなくなったじゃない。私、教室にしばらくいたけど」
「一人で?」
「一人で教室にいて何にするのよ?」
「それもそうだね。それで、何してたの?」
「友達と喋ってた」
「日野さんの友達……あの小さくって威勢のいい子と小さくって儚げな子のこと?よく一緒にいるところ見かけるけど。石川さんと竹下さんだっけ?」
「女の子は皆友達だよ。特にその二人とはよく喋ってるけど。よく見てるわね」
「よく目立つからね。あと山口さん。背が高くなっていくと落着いてくるね」
「他の野郎どもと仲良くなれた?」
「どうだろう?みんな話はしてくれるけど、まだ遠慮されてるみたい。みんな何して遊んでるんだろ?いっしょにサッカーやってくれないかなあ」
「無理なんじゃない?六人しかいないし」
「三対三じゃ面白くないしね。女の子入れても十五人だもんなあ。一人でリフティングの練習するしかないよなあ」
柳井圭治はため息をついた。
「大体この辺の子等って何して遊んでるんだろ?あんまり外で子供を見かけないけど?」
「それは家が遠いからじゃない?この辺は山の中だし、あんたの家は街のはずれでしかも周りは田んぼだらけ。民家もない。そりゃ子供も見かけないわよ」
「六年生で十五人、ざっと計算しても小学生が九十人はいそうなのになあ」
「前の学校はどのくらい人がいたの?」
「一クラス四十人が四クラス。大体十倍だね」
「すごいね。そんなにいたら全員とは付き合えないじゃない」
「日野さんすごいね。それだけの数だけ友達付き合いしようとしてるんだ」
ミコトは指をあごに当てて、腕を組んで考えた。カズミちゃんやアイちゃんみたいなのが十倍もいるのか。それはそれで楽しそうだ。女の子が十倍なら悪くはないな。でも待てよ、バカ野郎どもも十倍に増えるわけか、ただのバカにお調子者になんにも喋らないヤツ。そのうえ、見たことも聞いたことも、想像すらできないような奴がいるに違いない。
「面白そうじゃない、たくさんいるって」