今日も朝から元気です
ジリリリリ!ジリリリリ!ジリリリリ!ジリリリリ!
目覚まし時計のベルによって、眠りの神様の世界からミコトは叩きだされた。午前六時四十分。起きるにはちょうどいい時間だ。ただし朝食をゆっくり食べるには足りないかもしれない。ミコトはメガネをかけてベッドから抜け出し、洗面所に向かった。顔を洗い、歯を磨き、トイレを済ませると、脱衣所で制服に着替え、ミコトは台所へ向かった。台所では父親と猫二匹が朝ご飯を食べていた。母親はお茶を飲んでいる。
「あら、ミコトおはよう」
「お、起きたな、おはよう」
「パパママ、おはよう。おスミちゃんもおユキさんも早いね」
にゃーお、にゅああお。猫二匹もキャットフードを食べる間に返事をする。母親はご飯とお味噌汁を装って娘に渡す。
「いただきまーす」
ミコトは茶碗を受け取ると真っ先にご飯を食べだした。眼下のおかずは、卵焼きの黄色、ホウレン草煮浸しの緑色、大根おろしの白色、焼き目刺しの銀色、納豆の茶色、等々多彩に渡っている。食べながら話をするのはこの一家の状態である。
「また今日も夢を見ちゃった」
「今日の夢はどんなだった?」
「うん、学校の教室にママが出て来たの」
「へー、それで?」
「それだけ。なんにも起きなかったよ。変な夢」
「何かママから教わりたかった、とかかな。そういえばミコト」
「何?パパ」
「先日も言ったんだが、今週末から巫女の修行を始めたいんだが。土日丸ごとっていうわけじゃないんだ。どちらかでいいんだけど、スケジュールを開けておいてくれないか?友達と遊ぶ約束があったりする?」
「今のところないよ。どっちがいいの?」
「どっちでもいいけど」
「じゃあ土曜日にするよ」
「わかった、じゃあ、土曜日は遊ぶ約束入れないでね」
「わかったよ。それで、何するの?」
「まあ、それは明日までのお楽しみ、ということで」
「ふーん」
会話をしている間に、ミコトはご飯を一膳平らげ、おかずを片付けていく。今朝もご飯三杯味噌汁二杯きっちり食した。母親は自分のお茶を飲み干すと、他の二人に尋ねた。
「お茶飲む人、いますか?」
聞かれた二人とも応、の回答だった。
「そういえば」
ミコトはおかわりのお茶を啜りながら、父親に尋ねた。
「昨日ママの若かったころの話をしてくれるんじゃなかったっけ?」
「えらく悠長だね」
「だって、気になるじゃない」
「はいはい、話が長くなるから、その話は学校から帰ってからにしときなさい。そろそろ学校へ行く時間だろ?いいのかい?」
朝食を終えた黒猫おスミちゃんは、ミコトの膝の上に乗ってきた。にゃおお、にゃおおん。
「あらら、おスミちゃんが遊びたがってる」
ミコトは、おスミちゃんを抱っこした。
「ミコト、おスミちゃんと遊んでないで、家を出る時間じゃない?」
時計を見ると、午前七時二十分。
「ミコト、とりあえずおスミちゃんを降ろして。ご馳走さまを言おうか」
はーい、調子のいい返事をして、ミコトは猫を床に降ろし、ご馳走さまと言って台所から出ていった。
「やれやれ、あんな感じで大人になっていくのかな?」
「いいじゃありませんか。素直に育ってますよ。育て方が良いですからね」
「君と違ってかい?」
「私の場合は家庭環境のせい。あの子に余計なことを吹き込まないでくださいな」
「隠し事は良くないんじゃないかな?」
「必要なことを必要な時に教える。今のあの子には教えなくっていいことですよ。私の昔のことなんて」
「わかったよ、大事なところは黙っておくよ」
この家の大人達がそんな話をしていると、この家の子供が自分の部屋からランドセルを背負って出て来た。
「それじゃあ行ってきまーす」