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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第1章 遮光式土偶はかく語りき
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ママさん、失敗は成功の元です



 台所では窓が全開にされていた。窓際では母親が季節外れのウチワをあおいでいた。


「あなた、ごめんなさい。お魚焼き過ぎちゃった」

テーブルの上には黒こげになった塩サバが山盛りの大根おろしの麓に置かれていた。


「表面は焦げちゃったけど中味は食べられるから、おこげは除いて食べて下さいな」

「やれやれ、新米主婦みたいだね。他の料理はどうかな?」

もはや新米とはいえない主婦の旦那はあきれたようにテーブルを見回しながら席に着いた。


「ミコトの言ったとおりだったわね。あそこで弱火にしていれば良かったなあ」

「済んだことは仕方がないよ、さあ食べよう」



ミコトも席に着く。ご飯はすでに盛ってある。

他のおかずは筑前煮、じゃことワカメの酢の物、葱のみそ焼き、湯豆腐の刻み生姜添えであった。本日の失敗作はこれか。


「あなた、お酒はどうしますか?」

「じゃあビール貰おうか」

「ミコトには牛乳あげるわね」

「その前にいただきます、を言おうか」



家族そろっていただきまあすというと、ミコトはごはんを食べ、父親は焼き魚の焦げを落とし、母親は冷蔵庫に黄金色と白色の飲み物を取りに行った。魚の焦げを落とした父親はきれいな白身を口にした。


「しょっぱーーーい!」

父親の素っ頓狂な声が台所に響いた。床でキャットフードを食べていた猫達も一旦食べるのを止めてテーブルの方を見た。ミコトも見た。


「どうしたの、あなた?」

「君、これ塩の振り過ぎだよ。もともと塩がかかってたんじゃないのかい?これ……」

父親はビールの入ったグラスを受け取り飲み干した。ミコトも恐る恐る食べてみる。しょっぱー。ご飯が進む進む。ミコトは一杯目をたちまち平らげた。


「おかわりー、すごくしょっぱいけどおいしいよ」

「あんぱりしょっぱいのは体に悪いんだぞ、ミコト。大根おろしも食べなさい、醤油はかけちゃだめだぞ」

はーい、と返事はしたものの、お代わりをもらった空腹娘はこの塩サバを中心にしてテーブルの上の料理を片付けていった。塩サバ、ご飯、塩サバ、筑前煮、塩サバ、湯豆腐……結局、この塩辛い焼き魚を食べてしまうのにご飯三杯、牛乳三杯を要した。


「ミコト、デザートは、食べられる?」

母親の問いかけに、ミコトはげっぷで答えた。


「そう、もう食べれないの?」

「違うの、今のは違うの」

「もう食べれないよーっていう返答じゃなかったの?それじゃあ持ってくるわ。あなたどうします?」

「もう食べられないよー」

「解りました。ビールばっかり飲んでるからですよ。ミコトと二人で食べます」

「君達、よくそんなに食べられるねえ」

「あなたが小食なだけですよ」

そう言って母親はオーブンからバットを取り出し皿に盛った。さらに冷蔵庫から何か持ってきて皿の上からかけている。

「ハイ、これデザート。焼きリンゴの蜂蜜ヨーグルトかけ」

「変わったデザートだね。僕ももらうよ」

得体のしれないデザートを要求した父親は、ミコトの方を向いた。


「そういえば、今日テストの結果が帰って来たんだろ?どうだった?」

ミコトは、けったいなデザートを口いっぱいにほうばってしまった。

「いふゅもふぉはわらなふぁっふぁお」

「何、なんだって?いつもとかわらなかった?」

こくり、肯くミコト。そのままふぉふふぉうと口を動かしている。


「あー、熱かった」

一息ついて牛乳を飲むミコト。


「慌てて口の中に入れるからですよ」

母親が娘の軽率な行動をたしなめた。


「だって、こんなに熱いなんてわからなかったよ」

「焼きたてなんだから熱いにきまってるでしょう。食べ物のコトになると余り想像力が働らかないのかしら?」

「それで、本当のところはどうなんだい?」

「うん、国語が八十、算数百、理科と社会が九十だった」    

「算数より国語の方が好きなのに算数の方が点数がいいんだね」

「算数は計算問題が多かったからね」

「他の人はどうだったの?テストが簡単だったのかもしれないよ?」

「んと、私が知っているのは柳井君が全部百点っていうのとカズミちゃんとアイちゃんが平均して七十ぐらいかな、あ、でもカズミちゃん算数は百点だった」

「見せ合いっこしたの?」

「柳井君のは先生が発表してた。みんなも満点取れるようにがんばってね、だって」

焼きたて焼きリンゴをふーふーして、ミコトは口の中にいれた。


「少し甘みが足りないね」

「あら、そうだった?もう少し蜂蜜たそうか?」

「ううん、もういいよ。全部食べちゃうから」

「それにしても柳井君はすごいね。全部満点なんて」

「聞いたことで大事なことは大体覚えているって言ってたよ、すごいね」

「ミコトはどうだい?聞いたことで大事なコト全部覚えていられるかい?」

「ミコトはその前に人の話を最後まで聞かないとね。ときどきどこか途中で上の空になっちゃうでしょう?」

「最後まで聞いてるよ?」

「良くわかっていることではね。良くわからないことで想像力が働きそうなコトに引っかかるの、ミコトは。さあ、お茶でも飲む?」

「もうお腹いっぱい」

「僕もいいや、ビール飲んだ後だし。それじゃあ、ご馳走さま」


皆でご馳走さま、と言ったあと、父親は台所を後にした。ミコトと母親は食器の後片付けをした。片付けが終わると、母親はお茶を飲む用意をし、ミコトは部屋に戻った。


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