クラスメイト・女子全員出たかな?
四人で話しながら教室に戻ると、残りの女子五人が集まっていた。男子はいなかった。
「あー、ミコト達来た来たー」
「遅いぞー、何してたのー?」
「うん、みんなで話ながら歩いてたら遅くなったの。あれ?先生は?男子も全員そろっていないね?」
「ああ、先生ならさっき男四人引き連れてどっか出てったよ」
「四人、あと二人足りないよ」
「あとの二人は体育館に余った椅子と机片付けに行った」
「いつ戻るって?」
「何にも言ってなかったよ」
「ねえ、日野さん」
と新田明日奈がセミロングの髪をなびかせて聞いてきた。新田明日奈はミコトをいろいろとライバル視しており、それがミコトには少し迷惑だった。こういう呼び方をされたときは大抵嫌味を言われる時であった。
「何、アスナ?」
「さっき、ヤナイ君が話しかけてきたの」
「それで?」
「君が日野さん?って、あなた、ヤナイ君とどういう関係?」
ミコトは腕を組み考えた。
「うーん、今のところ無関係、いやクラスメイトかな?」
「無関係な人がどうして挨拶に来るのかしら?」
「さあ、私にもさっぱり」
「まあまあ、アスナ、よかったじゃない、ミコトちゃんと間違われて。私も眼鏡かけてるのに背が高いから誰もよりつきもしないよ」
ともう一人のメガネ女子の荒木恵理子が割って入った。彼女はクラスで二番目に背が高いのだが、体重が一番重いので見た目の安定感は抜群だ。
「でも、ミコトちゃん、ヤナイ君と何かあったの?」
「昨日家に来たって話はパパから聞いたけど、私は直接会ってないしなあ」
「それで、ミコトちゃん、どう?彼?」
「どーしてみんな同じことを聞いてくる?」
「だってさー、ミコト美人だし、選び放題じゃない?」
「ほめてくれるのはうれしいけど、何にもでませんよ?」
「ミコトはまだまだお子様だから、男とデートなんて考えてないよね」
「男の人とデート!したことある人ここにいるの?」
とミコトは首を傾げた。
「はーい、あたし、あるよ」
と山口真央が手を挙げた。彼女は髪の毛を三編みお団子にしている、自称クラスのおしゃれ番長だ。
「従兄のお兄ちゃんに遊園地に連れてってもらったの。楽しかったー」
「従兄のお兄さん、年はいくつ?」
とミコトは尋ねた。
「えーと、今年大学ニ年生だから、うーんと、今ハタチかな?」
「はーい、それはデートじゃありません。子供のお世話でーす」
と山本凛が断定した。ツインテールの髪先を山口真央に向ける。
「じゃあ、リンちゃん、ちゃんとしたデートって何?」
山口真央がほっぺたを膨らせながら聴いてきた。
「ちゃんとしたデートって言うのはねえ、若い男女が二人っきりの時間と空間を楽しむことを言うのだよ」
「じゃあ、マオのもデートじゃない」
「あーあー君の場合、若い、という部分が当てはまらないのだよー。わかる、違いが?」
「マオ達若いじゃない」
「おうおう、反論するねえ。君の場合に当てはまるのは、幼い、だよ。もっとも近頃ではそれを目当てにする男どもが多いけどね」
「ねえ、リンちゃん」
ミコトは尋ねてみた。
「リンちゃんはデートしたことあるの?」
「ないよー」
「ないのにやけに語るじゃないか。えーらそうに」
と新田明日奈がかみついた。
「アスナ、それは言いすぎだよ」
ミコトが注意した。
「は、優等生は言うことがちがうねー」
アスナ、今度はミコトにかみついた。
「本当にあんたは誰にでもかみつくねえ、黙ってればかわいいのに、もったいないよ、野良犬アスナちゃん」
今度は石川和美が余計な一言を放りこんだ。
「カズミちゃん落着いて、変なこと言わないで。アスナもいらいらしないで。ちゃんと朝ご飯食べてきた?」
「そーだぞ、アスカ、ミコトなんか朝から三杯どんぶり飯食ってんだぞ」
「カズミちゃん!私はどんぶりでご飯食べてないよ!」
「ええ?三杯は本当なんですね。ミコトさんすごいですね!よく朝からそんなに食べられますね?」
木村詩織がおおげさに驚いて見せた。どうやらミコトの奇行を大げさにしてこの場をしのぐ作戦らしい。ミコトとしては不本意だった。ご飯三杯ぐらい、普通だよ。
「しかもそのあと、学校まで走るんだよな」
「いいじゃない、カズミちゃん」
「いいじゃないって、ミコト、あんたん家、学校まで四キロぐらいあるじゃない。よくご飯食べた後でそんなに走れるよな」
「毎日走ってるからね、慣れちゃったよ」
「あんたの話はどーでもいいのよ!」
新田明日奈が再び吠えた。
「そうそう、私の話はどうでもいいとして、アスナは何が言いたかったの?」
「アスナは、ヤナイ君に自分がミコトと間違われて悔しいんだよな」
「カズミちゃん!」
「なんだよミコト、本当のことを言ってやった方がいいだろう?、アスナのためにも」
荒木恵理子は太い腕を組んで冷静に問いかけた。
「ヤナイ君はミコトちゃんのこと探してたんだから、なんか用があったんじゃないの?」
「大した用事じゃないと思うな。きっと挨拶したかっただけだよ。うちに来たときみたいに。それにしても、先生たち、遅いね。なにしているのかな?」
とミコトが言った途端、教室の扉が開いた。