帰り道の出来事
みんなであれやこれやと話していく。楽しい時は青空と共に去り、夕焼けが残こされた。
「ああもう五時過ぎてる。帰らなきゃ」
「ごめんねミコトちゃん、遅くまで引きとめて」
「ううん、いいの。アイちゃんの様子が分かっただけで。明日は学校にこれそう?」
「うん、今みたいな体調なら」
「ちゃんと飯食って、早く寝ろよ」
それじゃあね、バイバイ、そう言ってミコトと石川和美は友人の家を出た。西の空には一番星がきらめいてる。腹の虫も鳴りだした。ミコトは石川和美と別れると駆け足で家のある方角に向かった。帰り道、山際の反対方向に見える農地は今日耕されたらしく、辺り一面に土の匂いがした。
坂の途中。黄昏時。坂を上っていたミコトは、前方に人影を認めた。段々人影は大きくなっていく。人影はこちらの人影を見つけたようだ。こちらに近づいてきた。やっぱり柳井圭治だった。ミコトや担任・宮本とは違うメーカーのジャージ姿だった。前の学校の体操服であろうか?全身が小豆色だ。
「やっぱり日野さんだ。今帰りなの?」
ミコトは短くうなずいて直ぐに自分の疑問をぶつけた。
「今までサッカーの練習してたの?」
「うん、毎日練習しないと上手くなれないからね。昨日はさすがに無理だったけど」
今度は柳井が彼の疑問をぶつけてきた。
「それにしても、日野さん足すごく早いね、びっくりしちゃったよ。短距離も長距離も速い人そうはいないよ」
「そうかな?」
「おまけに運動神経もいいでしょ?反復横とびとか垂直飛びとか見てたけど全身バネみたいだったし」
「ずっと見てた?いやらしい奴だな。お前もあれか、スカートめくりをして喜ぶ奴か?」
半ば冗談めかしてミコトは聞いてみる。
「はは、やだなあ。僕が見てたのは君の身体能力だよ。前の学校にもあんなに運動のできる人いなかったよ」
そう言ったモノの顔の輪郭がぼやけていく。ミコトは話を続けたかったが腹の虫がそれを阻止した。大きなぐうの音は話し相手に容易に届いた。
「ああ、お腹空いているんだ。引き留めてごめんね」
「こんなところで話をしてたら夜になっちゃいそうね。それじゃ、また明日」
「うん、それじゃ、またね」
坂道の真ん中で男の子と女の子は別れた。
女の子は坂を上り、男の子は坂を下る。それぞれの家に向かって。