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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第1章 遮光式土偶はかく語りき
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テストの結果



 午前八時半。担任・宮本が紙束を小脇に抱え入って来た。後ろから川村もついて来た。ミコトが号令をかけ、全員席に着く。



「はーい、皆さんおはよう。今日は竹下さんは熱が出てお休みです。家族の方から連絡がありました。皆さんも体調管理には十分気を付けて下さい」

皆が皆、あんたのせいだよ、と内心思ったが、誰も口にしなかった。全く近頃の若いもんは鍛え方が足らんなあ、など担任がぶつぶつ言っていたのを聞いたので、もっとひどいことをされるのではと思ったからだ。


「はい、今日は昨日言ったように採点結果を返却して、答え合わせをします。それが終わったら、通常授業ね。何か質問ある人いる?」

「竹下さんの答案はどうするんですか?」

「ああ、それじゃあ、日野さんが放課後渡しに行って」

あんたが行くんじゃないのかよ、と皆は蒼白になった。


「それと、竹下さんの様子も見て来てね」

それはあんたの役目じゃないのかよ、と皆の口は開いたままだった。


「それと元気そうだったら、間違えていたところの答えを教えておいて」

そりゃあんたの仕事だろ、皆は心の中で突っ込んだ。


「それじゃあ、一時間目始めるわよ!」

担任・宮本は小脇に抱えていた紙束を教壇の上に置いてパイプ椅子に座った。


「名前呼ばれた人は回答用紙、取りに来てー、まず荒木さーん」

名前を呼ばれた荒木恵理子は教壇にいった。答案用紙を渡されて、何やら注意を受けている。どうやら間違った箇所を確認しているようだ。こりゃ時間かかりそうだな、皆がそう思ったらしくざわざわしだした。


「はい、みんなしばらく黙っててね。話が聞こえなくなるから。それとも、待ってる間にランニングする?」

その一言でまた周囲は黙った。一、二分で荒木恵理子の番が終わり石川和美が呼ばれた。


「一人二分ぐらいとして、私の番は二十分後か……」

することもないので、ミコトは教壇での児童と先生のやり取りを見ることにした。真面目に話を聞く者、上の空で聞く者、話を受け流す者、人それぞれがそれぞれの反応をしていた。担任・宮本は、その人にあったやり方で児童達を指導していった。やっぱりこの先生は、やる気はあるんだなあ、それがミコトを含めた児童達の反応なのであった。


「はい、次は日野さんよ。前に来て。日野さんの場合はねえ、回答したところは全部合ってるんだけど、時間が足りなかったかな?体と同じように頭も反応できるはずよ。テストの時はテストだけに集中しなさい。余計なことを考えたりするから満点取れないのよ。いいですか?」

ミコトはきくりとした。確かにテストの時に中だるみして別のことを考えていたからだ。


「でもまあ平均して九十点ぐらいだからちゃんと授業を理解してることはわかったわ。この調子でがんばってね」

はい、そう短く返事してミコトは席に戻った。



 隣の山本凛がささやき声で尋ねて来た。

「どうだった、ミコトちゃん?」

「うん、まあまあだったよ」

「ミコトちゃんのまあまあ、は私から見たら、良くできました、のレベルだからなあ、どれ、ちょっと見せてみ?」

山本凛がミコトの答案用紙を覗き込む。


「やっぱり。算数百点、国語八十点、あとは九十が二つか。ミコトちゃん国語好きなのに、点数低いな」

「うん、国語っていろいろ考えちゃうでしょう?算数は考える余地ないしね」

「そうかあ、考え過ぎちゃって時間がなくなったんだね」

「うん、それよりもうすぐじゃないの?リンちゃんの番」

「いいのいいの。どうせ私なんて最後なんだし」

こそこそ喋っていると、担任・宮本が大声を上げた。


「はい、みんな注目。柳井君は全部満点でした。ハイ拍手!」

おお、という称賛の声とともに拍手が巻き起こった。


「はい、みんなも柳井君見たいに満点取れるように頑張ってください。君については言うことはないわ。席に戻って。次、山口さん」

どよめきはなかなか収まらない。


「ケイジ君すごいね。ミコトちゃんよりできるなんて」

「すごいね。なんか満点とって当たり前って顔で、あんまり嬉しそうじゃなかったね」

「お父さんが外国で仕事するくらいだから、出来て当然なのかな?」

「どうなんだろうね?」

「でもよかったね、ミコトちゃん。アスナちゃんからライバル視されなくなるよ」

「それはどうかな?」


 新田明日奈はミコトのことをライバル視している。それは自分より成績がいいものがいることが許せない、というだけではないだろう。ミコトがこの村に越してくる前まで、新田明日奈がその座、つまり学級委員の座を占めていたのだった。こんなぼんやり娘に負けるわけにはいかない。それが新田明日奈の信条らしい。新田明日奈は、学業ではミコトとどっこいどっこいであったが、体育で大きく水をあけられていた。そのことも新田明日奈の癪の種であったのだ。


「はい、次で最後ですよ。山本さん」

山本凛は、ミコトに目配せして教壇へ行った。それにしても、ケイジはそんなに頭が良かったのか。サッカー選手目指すより、学者になった方がいいんじゃないの?でも昨日の体力測定ではまずまずだったわ。男子は五人しかいないけど。パパの言うとおり、練習してうまくなるものかしら?あんなにボール蹴るの、下手なのに。


「はい、それじゃあ答え合わせするわよ。日野さんは竹下さんの答案持っていって、間違ったところに赤ペンで正解書いておいて。もちろん自分のところにもよ。それじゃあ、いくわよ」

結局答え合わせに休み時間をまたいで次の三時間目まで使ってしまった。




「もう疲れちゃったね」

とは、日頃不満を口にしない宮崎藍の発言である。おかげで四時間目の通常授業は、だらけた様子で行われ、給食が終わった昼以降も続いた。帰宅前のホームルームで担任・宮本が言った。


「今日は仕方ないけど、明日もこうだったら承知しないわよ」

この発言は、一度に答え合わせをしたことの失敗を自ら認めたようなものだった。


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