本日のメニューはカレーです
ミコトが家にたどり着いたのは、やっぱり日が暮れてからであった。家に入る前に、今日も柳井が境内でサッカーをしているか確認しに行った。人の気配がしなかったので、ミコトはすぐに家に戻った。
「ただいまー。あーお腹すいたよー」
「おかえり、今日は遅かったじゃないか。どうしたんだい?」
「今日……」
「今日、どうしたの?」
「学校で体力測定があって……」
「それで疲れて帰りが遅くなったの?」
「違うの。アイちゃんきつそうだったので、家までついていったの。お腹すいた……」
「あら、お帰り。遅かったわね。すぐご飯にする?」
「うん……」
「それじゃあ、手を洗って来て。すぐ準備しますから」
「うん……」
「おや、今日はミコトの好きなシーフードカレーライスなのに、匂いに反応しないというのはよっぽど疲れているのかな?」
ミコトは返事せず手を洗いに行った。
「そうとうお疲れのようだな。アレでご飯を食べられるのかな?」
父親の心配は杞憂だった。ミコトはカレーライス三杯をペロリと平らげ、副菜五品をカレーのお代わりの間に食べてしまった。最後に牛乳を一杯くいーっと飲み干した。
「アー美味しかった。ご馳走さま」
「疲れていても食欲はあるんだね」
「そりゃあもう、おかげ様で」
「ミコト、疲れてるのならすぐお風呂に入る?」
「うん、お風呂に入ったらすぐ寝るよ」
「じゃあ自分の分の食器片付けやっといて。お風呂の準備をしてくるから」
「はーい」
「今日はまたいつにもまして食べ終わるのがはやかったじゃないか。どうしたんだい?そんなに疲れてるのか?」
ミコトは自分の食器を洗いながら返事をした。
「今日は午前中にテストで、午後は体力測定だったの。もう頭と体、くたくただよ」
「テストの出来はどうだった?」
「分からない。もうそんなこと覚えてないの。明日採点が返ってくるから明日見せるね」
「そんなに早く採点されるの?」
「うーん、よくわからないけど先生が明日返すって言ってたから明日返ってくるんじゃないかな?」
「体力測定の方はどうだった?」
「走るのは私が一番、ボールを投げたり飛んだりするのは男子には負けてるかな」
ミコトは自分の食器を片づけると、お茶の準備をした。
「パパも飲む?」
「そうだね、一杯貰うよ」
「じゃあママの分も合わせて三人分ということで」
ミコトは、母親がいつもやっているようにお茶をカップに注いだ。
「ハイ、どうぞ」
「やあ、有難う」
父親は、カレー味に染まったエビフライを食べながら、今朝していた母親の子供の頃の話題がいつ出てくるか、ドキドキしていた。娘が学校へ行った後、妻から自分の話はあんまりしないように、釘を刺されたからだ。しかし、そんな話を始める様子はない。忘れちゃったかな、それならそれでいいか、とも思う父親であった。
「そうだミコト、今週も新しい本、買っておいたよ」
「へー、タイトルは何ていうの?」
「{特選・万葉集}っていうんだ」
「トクセン・マンヨーシュウ?」
「万葉集って言うのは日本で初めての和歌の載った本だ」
「へー、なんでまたそんな本にしたの?」
「さて、なんでだろうな?」
「読むのはいいけど、今日はもう駄目。もうくたくたで……」
「それじゃあ、寝ちゃう前に明日の準備をしておいで」
ミコトはお茶を飲み干すと、返事もせずに出ていった。足元でにゃおにゃお言っている猫にも構わないとは、これは相当くたびれてるな、父親は娘のいれてくれたお茶を飲んだ。
「ちょっと温いな」