帰り道、友達のうちにちょっと寄り道
宮本先生は今日もランニングをするんだろうか?するんだろうな、今日先生全然動いてなかったからな、そうすると今日のテストの採点はできるんだろうか?四教科の結果が十五人ある。結構時間かかるんじゃないかな。
「ミコトちゃん、どうしたの?」
竹下愛がいつの間にか横にいた。
「ごめん、ぼーっとしてた。それよりアイちゃん、体大丈夫?」
「うん、平気平気」
「一緒に帰ろうか。なんか心配だな」
「ミコトちゃん、帰るの反対方向でしょう?いいの?」
「まあたまには」
「お、なんだなんだ?アイの家で遊ぶのか?いいぞ、付き合っても」
石川和美が割って入った。
「いや、そういうんじゃないけど。ちょっとアイちゃんが心配になって」
「まあいいじゃないか、ミコト。私もアイの家に行くのは久しぶりだし。よし、今日はアイの家の家庭訪問だ。さあ行こうぜ」
竹下愛の家までは学校から歩いて十分、ミコトの家とは反対の方向にある。十分後には竹下家へついた。竹下愛のただいまー、という声の後に石川和美とミコトのおじゃましまーす、という声が響く。竹下愛の母親が出て来た。年の頃は四十の半ばを超えたころだろうか。年齢相当の落ち着きを示している。
「お帰り、今日はカズミちゃんとミコトちゃんもいっしょなのね。いらっしゃい、二人とも、さあ上がって上がって」
お邪魔します、そう言って二人は家に上がった。
「さあさあ三人とも、ジュースでも飲んで。今日はどうしたの?二人とも?」
三人は、礼を言ってコップに注がれた炭酸グレープジュースを一口飲んだ。
「今日体力測定があったんです。それでアイちゃんひどく疲れているように見えて、心配でついて来ちゃいました」
「あら、アイのこと、心配してくれてありがとう。ゆっくりしていってね」
「お母さん、今日給食に人参とほうれん草出てたんだけど、ミコトちゃんのおかげで全部食べれたよー」
「あら、それは良かったわ。今度から家で野菜出すときはミコトちゃんにいてもらうことにしようか」
「おばさん、そんなことしたらアイの食べる分の野菜、全部ミコトが食べちゃうよ」
「ひどいなあ、カズミちゃん。私は自分の分しか食べません!」
竹下愛と石川和美が同時に笑ったのを見て、ミコトは安心した。竹下愛の体調はどうやら今のところは大丈夫のようだ。三人は今日あったことを話し合った。テストのコト、身体測定のコト、そして転入生のコト……。それを楽しそうに聞く一人の大人。三十分経った頃ミコト達は竹下愛の家を出た。もっとゆっくりしていったらという竹下愛の母親の提案を娘が却下したからだ。
「カズミちゃんはともかく、ミコトちゃんの家は神社のところにあるんだよ。遠いし坂道なんだよ、お母さん。わかってるの?」
あらあらそうだったわね、ミコトちゃんもカズミちゃんも今度休みの時にでも来てね、そういって竹下愛の母親は二人を送り出した。学校近くまで来ると、二人は別れの挨拶をして別々の方向に分かれていった。学校の校庭では、夕焼けに染まったトラックを赤い色のジャージを着た女の人がランニングをしていた。空には黒い鳥が、鳴きながらミコトの帰る方向へと飛んでいった。