掃除して、ホームルームして帰宅の時間です
突然教室のドアが開いた。同時に担任・宮本の声が響く。
「さあさあ、いつまでもだらけてないで。掃除の時間よ。さっさと片付けして、帰ってから休みなさい」
皆のろのろと動きだす。ミコトはあることに気付き、担任・宮本に問いただす。
「先生、教室の掃除以外にはどこか掃除しなくていいんですかー?」
先ほどのだらけた会話の余韻が残る。
「ああそうだ、思い出した。今年から職員室と運動場、担当することになってたの。有難う日野さん、良く気づいたね」
「それで班分けはどうするんですか?」
「そおねえ、男子六人女子九人だから、名前順に男子が二人、女子が三人というように組んで。最初が一斑、職員室担当。掃除の仕方は誰か他の先生に聞いて。次の二班は教室担当。やり方はわかるわね。最後の三班は私についてきて。それじゃあ、テキパキ掃除してさっさと帰ろう。やるわよ!」
元気な先生だなあ、自分は走ってないから元気なんだぜ、そうだよなあ、などと聞えないよな声でささやきながら職員室班は教室を出ていき、元気な先生に率いられて運動場班は黙って教室を出ていった。教室には、竹下愛、新田明日奈、佐藤春人、高橋直樹、そしてミコトが残された。
「さあ、日野さんどうする?」
佐藤春人が尋ねた。
「そうねえ、いつも通りでいいんじゃない?」
「ちょっと!どうしてあんたが仕切っているの?」
新田明日奈が異議を唱えた。こんな時でも、ミコトへの反発は忘れないというのはある意味立派だ。
「じゃあ、アスナが仕切って」
「何よ、その投げやりな態度。何か不満でもある?」
「まあまあ、新田さん、日野さんもああいってるし、早く終わらせようよ。僕らも疲れてるし、早く片付けちゃおうよ。ほら、竹下さんなんかすごくつらそうだし」
四人の目線は竹下愛に向いた。
「あ、あたしは大丈夫だから、さっさと終わらせようよ」
新田明日奈が矛を収めた。気丈にふるまってはいるが、竹下愛がひどく疲れていることは一目瞭然だったからだ。その程度のコトが分からない新田明日奈ではない。
「仕方がないわね。ミコト、休戦してあげる。掃除の指示は私に従うコト。いいわね?」
ミコトは、アスナと戦争した覚えはないんだけどなと思ったが、口に出した言葉は、ハイハイ、という返事であった。それはミコト以外の三人も同様であった。特にやり方が変わるわけではないので、いつも通りの手順で掃除は進んでいく。ただし午後の体育のせいでいつも以上に時間はかかった。他の掃除班も同様でクラスメイト全員が教室に揃ったのはいつもより二十分遅れていた。
「はい、最後にホームルームやるわよ。今日は皆さんお疲れ様でした。午前中のテストは明日返却するから、楽しみにしててね。それから午後の体力測定で思いっきり運動したから、今日は早めに休んで明日に備えること。以上です!それじゃ日野さん、号令」
ミコトは号令をかけて担任に挨拶をした。担任・宮本は、それじゃねえーという軽い挨拶をして教室から出ていった。生徒たちはくたびれた様子でそれぞれ帰りの挨拶をし帰宅の途についた。