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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第1章 遮光式土偶はかく語りき
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お待ちかねの給食、そして昼休み


 全てのテストが終わったのは正午近くであった。テストが終わるころ、ミコトの腹の虫は当然のように食事を要求するかのように鳴りだした。事情を知らない柳井はびっくりして、辺りをきょろきょろ見回す。周りが全く動揺していないので自分の耳のせいかと疑った。お昼のチャイムがミコトの腹の虫の後に鳴った。


「はーい、そこまで。解答用紙を回収しまーす。お疲れ様。給食の準備をして」

両手を上げて体を伸ばす者、両肩をぐるぐる回す者、皆それぞれがそれぞれのやり方で体をほぐしていた。


「いやー疲れた疲れた」

石川和美がミコトの近くに寄って来た。


「六年になっても健在だね、アレ」

横から川村幸治が入ってきた。


「相変わらず時間に正確だよな」

「何よ、なんか文句ある?それよりアンタと上田今週配膳係じゃない?カズミちゃんも」

 給食の配膳係は男子二人と女子二人で行われ、一週間で交代する。学期始めだから、名前の順番でアに近い者から始まるのだ。今週は上田健太郎と川村幸治、荒木恵理子と石川和美となる。


「名前順なんてやめろよなー」

とぶつぶつ言いながら四人は担任の分も合わせて十六名分の給食を取りに行った。

昼食の準備がすっかり出来上がると、担任・宮本はミコトに食事の号令を促した。


「手を合わせて下さい。いただきます」

皆でいただきますといって昼食が始まる。本日のメニューは、牛乳、コッペパン、クリームシチュー、鶏の唐揚げ、温野菜サラダであった。温野菜サラダとはほうれん草の煮びたしと人参の甘辛炒め、ヒジキの煮つけをレタスでくるんたものであった。


「どう?柳井君、こっちの給食は?」

担任・宮本は転入生に気を配る。


「おいしいです。それに斬新ですね。このレタスにくるまれた奴。初めて食べました」

そう言ってこの珍奇な料理を平らげた。もちろんそれに同意しない者もいる。


「ケイジ君、本当にこれ美味しい?」

竹下愛は人参、ほうれん草、その他苦い野菜系が大嫌いだった。

「うん、野菜の味がしっかりでてておいしかったよ」

「竹下さん、お家の人にも言われてるでしょ、苦手な野菜もしっかり食べなきゃ元気になれませんよ」

「たけしたー、唐揚げ一つくれたら、人参とほうれん草全部代わりに食べちゃうぞー」

川村幸治、能天気に発言する。竹下愛はそちらを見てほっとした表情をした。


「ちょっと、川村君は黙っときなさい。これは竹下さんの問題です。竹下さん、献立は栄養士さんがきちんと考えて作ってあるの。全部食べなきゃ、すぐ病気しちゃう体のままだぞ。自分で食べなさい」

ミコトの目から川村幸治が渋々引き下がり、泣きそうになっている竹下愛が残った。


「大丈夫だよアイちゃん。私もピーマン苦手だけど食べれるようになったよ。要するに、味がしなければいいの。食べるときに鼻で息をしなければ。さあ、一緒に食べよう」

そう言って、ミコトは人参を取り上げ、箸で口元に持ってきた。


「さあ、アイちゃんも一緒に」

竹下愛も恐る恐る人参を口元に持ってくる。


「せーの、一緒に口に入れよう。せーの!」

二人同時に人参を口にした。モグ、モグ、モグ。ミコトは大きく口を動かした。竹下愛も釣られて大きく口を動かす。さほど、というより甘辛く味付けされているのでミコトにはあまり苦さは感じられなかった。苦手な人にはより苦さが感じられるのだろう。二十回ほど噛んだ後、ミコトはゆっくり飲み込んだ。


「ほら、アイちゃんも飲み込んで」

竹下愛はミコトの指示に従って、こくんと飲み込んだ。


「ほらできた!後は残りの人参とほうれん草をやっつけちゃえばいいんだよ。さあ、いっしょに食べよう」

泣きそうになっている竹下愛を励まし、ミコトは残りの野菜も同様にして片付けた。普段のミコトなら一分もあれば食べてしまうところ、五分以上かかってしまった。


「ありがとう、ミコトちゃん。全部食べられたよ」

泣きそうになりながら竹下愛は謝意を示した。


「さあ、残りも食べちゃお」

 一連の出来事を見て、担任・宮本は思った。やはり日野さんは他人を思いやるチカラがあるわ。他の人にはなかなかない資質ね。このまま伸びて欲しいものだわ。



 給食が終わり昼休みの時間になった。女子は女子、男子は男子で固まっている。もちろん固まりたがらない者もいる。だが、今教室にいるものは固まって談話していた。


「ごめんね、ミコトちゃん。つき合わせちゃって」

「ううん、いいの。私ママからもっとゆっくり噛んで食べろって怒られているの。ちょうど良かった」

「そうだぞ、アイ。ミコトはあんなことがなければあんなサラダ三秒で食っちまうんだ。ゆっくり食べさせるのはミコトのためでもあるんだぞ」

「ひどいなあ、カズミちゃん。三秒でなんて食べられるわけないよ」

竹下愛はようやく少し笑った。石川和美とミコトは一安心した。


「それにしても、昼から体力測定とは面倒だねえ」

「まあ、午後一の算数よりはいいんじゃないの?眠くならない分」

「そうだね」

「なにするのかな?」

「さあ?」

「体力測定っていうくらいだから体力を測定するんだろ?」

「当たり前だろ。問題はどんな種目かってことだろ?」

「やっぱり走ったりするのかな?」

「ミコトはいいよなあ」

「何が?」

「だって満腹になっても走れるんだもん」

「給食ぐらいじゃ全然満腹になりませんよーだ」

「本当かよ」

「なんか論点がずれてませんこと?」

「そうかな?」

「カズミさんは、ミコトさんが満腹になっても走れると皮肉を言っているんです。他の人は満腹になったら走れないっていうことを言いたいため、ミコトさんのことを変人呼ばわりしてるんですよ」

「そうなの?」

「シオリは、ヒトの発言を冷静に分析するな!ま、おおむねその通りだけど」


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