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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第1章 遮光式土偶はかく語りき
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朝ごはんも朝の会話もきちんとする派



 ミコトは洗面所に向かった。そこには先客がいた。


「パパ、おはよう」

「やあ、おはよう。ミコト、今朝はずいぶん早起きだね」

「昨日早く寝ちゃったからね」

「いつも今日みたいに起きれば、朝からバタバタせずに済むね」

「そうだね、もっと早く眠るようにする」

「それがいいよ。さあご飯を食べに行こう」

「先に行っててよ、まだ顔も洗ってないし、歯も磨いてない」

「そうだね、先に行ってるよ。それじゃあごゆっくりどうぞ」

そう言い残して父親は去っていった。ミコトもするべきことを済ませ、台所へとむかった。



 台所では、この家の妻が夫に向かって朝食を振舞っていた。この家の娘は思う、今日ママは朝からご機嫌だな。ミコトは母親に挨拶をした。


「あらミコト、おはよう。今朝は早起きじゃない?いつもこれくらいに起きれば、お腹いっぱい食べられるわよ」

足元ではこの家の飼い猫一匹がキャットフードをゆっくりと、もう一匹がむさぼり食っていた。はぁむはぁむ、はぐはぐ、うぐ。


「うん、なるべくそうする。ママはいつも何時に起きてるの?」

「私は六時前には起きるわよ」

「ママが早起きしてご飯作ってくれるからゆっくりご飯が食べられるんだ、有難うママ」

「どういたしまして、うふふ」

なんだなんだ、今日はずいぶん仲がいいな。


「さあさあ、ミコトもご飯を食べて」

そう言って母親はミコトの前に朝食をだした。炊き立てご飯とお味噌汁の香りが湯気とともに目の前いっぱいに広がる。目の下には、ふくふくと盛り上がったオムライスに溶岩のようにケチャップが流れている、そんな盛り付けのお皿があり、隣にはほうれん草のお浸し、トロロかけ納豆、焼きメザシ、そしてホットミルクがあった。


「おいしそう!いただきまーす」

毎朝繰り広げられる一人と一匹のがっつく様子に他の二人と一匹は慣れた様子で見ていた。


「そういえば、今朝、夢を見たよ」

「ほう、どんな夢?」

父親が先を促す。


「うん、パパとママが出て来たの。ママはいつもの恰好で、パパは牛になってたよ」

「パパは牛になってたか。なぜその牛がパパだってわかったの?何か喋ってたかい?」

「何も。昨日の晩、ママがパパのコト、第一印象が牛だったっていうから」

「ははは、牛はひどいなあ」

「あのときは、動物に例えると、っていう話じゃない?」

「うん、そうだけど、その後なんかパパが牛に見えてきちゃって」

「今でも牛に見えるかい?」

「ううん、ちゃんと人間に見えるよ」

「良かった、牛扱いされたらどウシようか、と思ったよ」

人語を解する二人は黙ってしまった。人語を解するかどうかわからない二匹はにゃおにゃおと返事した。母親がヒトの沈黙を破った。


「そう言えば、小鹿は出てこなかった?」

「コジカ?どうしてコジカがでてくるの?」

「この子ったら、ヤナイ君の第一印象がコジカだっていうものだから、もしかしたら同じ夢に出て来たんじゃないかって思って」

「へえ、そうなの。で、コジカはでてきたかい?」

「……うん、でてきた。なんにも喋らないで周りを駆け回っていた」

話をしている間にミコトは食事を進めていった。きちんとおかわりもして。



「ねえ、パパやママは夢、見ないの?」

「うーん、最後に夢を見たのはいつだったかなあ?大人になったら夢、見なくなるよね?ママはどう?」

「大人になって心が落着いたら、夢は見なくなるものよ」

「やっぱりココロが原因か……」

「どうしたんだい、ミコト?」

「うん、んんん、ある人が、夢はココロから生まれるって言ってたの。ココロの中にあることは夢のなかに現れるって」

ミコトは夢の中で土偶が言っていたことを、ヒトが言ったことにして両親に話した。



「するとミコトはコジカのヤナイ君が気になってるってことかな?」

ミコトは返事をしなかった。別のことを考えていたからだ。ココロにあることが夢で現れるってことは、ソナタも私が気になっているってことだ。だけど、あんなに話するとは考えてなかったなあ。私の想像以上のものだった。アレは本当に私のココロにあるものかしら?それとも本当にアレが夢の中で語りかけていたのかしら?


「ミコト、怒ったのかい?」

父親が心配そうに聞いてきた。

「え?何を?怒ってなんかないよ」

「よかった、怒って返事をしてくれないのかと思ったよ」

夢の話から逸らすため、ミコトは話題を変えた。



「ねえママ?」

「どうしたの?改まっちゃって?」

「どうして私にミコトって名前を付けたの?ママみたいな美しい鈴、って感じで美しい琴って名前にしてくれたら良かったなあ」


「ミコトは美古都っていう名前が嫌いかい?」

「嫌いじゃないけど、どちらかっていうと美琴、のほうがかわいくってよかったかな?」

「朝から何ですか?妙な質問して」

「まあ、いいじゃないか、教えてあげても。パパはママのように、美しい楽器つながりで美琴、ってしたかったんだけど」

「どうしてそれで押し切ってくれなかったの?」

「うん、ママがね……なんだっけ?」

「私みたいにすると、鈴の意味とスズの読みで二重に強まってしまうの。それに……」

はて?何が強まってしまうのだろう?まあ待て、それに、の後を聞こうじゃないか。


「美古都っていう字はあなたのおじいちゃんとおばあちゃんの字から一文字づつ取っているのよ」

「どんな名前だっけ?」

「おじいちゃんの名前が晴れた都と書いて、晴都、ハルト。おばあちゃんの名前が美しい太鼓の鼓、と書いて美鼓、ミコ。両者合わせてミコト、にしたの」

「それだけじゃないだろ。ママは安倍家の命名方法に不満だったのさ。安倍家の女性は、代々美しいという字に楽器の名前が付けられてきたそうだ」

「それ誰から聞いたの?」

「お前のひいおばあちゃん。ママのおばあちゃんだ」

「ひいおばあちゃんの名前、なんて言うの?」

「あー、確か美しい筑と書いて、美筑、ミツキだったよね」

「チクってなあに?」

「チクってのは、あれだ、琴に似た弦楽器だよ」

「どうしてママは安倍家の命名法に不満だったのかしら?」

「ミコト、そろそろ学校へ行く時間ですよ」

「まあ、もうちょっといいじゃないか。ここらで教えておくのも。おじいちゃんとおばあちゃんは交通事故で亡くなって、ママはひいおばあちゃんにスパルタ教育されたらしい。だからママは自分のおばあちゃんを嫌いなんだそうだ」

「あなた、誰からそんなことを聞いたんですか?」

「君のおばあちゃんから。こっちに引っ越す前にいろいろ打ち合わせをしただろう?その時に君のコトも聞いたよ」

ミコトは自分の名前のルーツを聞くのも忘れていた。



「ママの子供の頃ってどんなだったって言ってた?」

「この話は学校から帰ってからだな、そろそろ出かけた方がいいんじゃないか?せっかく早起きしても長話してたらまた走っていかなくちゃならないよ」

ミコトは出発を促されてしぶしぶ話を切り上げた。時計を見ると、午前七時三十分。



「ごちそうさまー、今日もおいしかったー」

「はい、じゃあ今日も学校で頑張ってね」

「うん、じゃあ行って来るね」

飼い猫のうち黒い方は、小さいご主人さまをにゃおにゃおいって送り出し、もう一匹は黙って見送った。

ミコトは自室に戻り、制服に着替え、出発の準備を整え、最後に新しい眼鏡をかけた。




「さてと、あとは君だね」

ミコトは両手で土偶を持ち上げた。


「一日中外に置いておけばいいのね」

鞄の中に土偶をいれて、ミコトは部屋を出ていく。


「それじゃあ、行ってきまーす」

「いってらっしゃい、車に気を付けるんですよ」

「はーい」

ミコトは玄関を出て、いつもは下り坂へ向かうのだが、今日は特別に庭先に走った。一番日当たりのいい、目立たない場所に土偶を置いた。


「ここなら大丈夫だよね」

庭先の道具入れに使っている物置の上に、ミコトは土偶を置いた。


「それじゃあいってきます。今日一日、そこでじっとしててね」

そう言い残し、ミコトはいつものコースへ戻っていった……


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