担任の先生と転入生君
担任の教師が教室に入った。
「みんな、おはよう。さあ、席について」
「先生、どこに座ればいいの?」
「そうね、じゃあ、とりあえず、名前順に、五列に並んで。日野さん、号令掛けて」
ミコトは去年の秋から学級委員をやっていたので担任も頼みやすかった。席次が決まると、ミコトは号令をかけた。
「キリーツ、レイ」
「おはようございます」
「はいおはよう」
「チャクセキ」
「はーい、みんな、昨年度から引き続き、このクラスを担当します宮本です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす」
「はい、それでね、まずは皆さんにお知らせがあります」
「転校生のことですかー?」
「なんで川村君が知ってるのよ?」
「もおみんな知ってるよー、先生」
「早く紹介してよ」
「ちぇっ、みんなの驚く顔が見たかったのに、仕様がない、もう入ってきていいよ」
少年がドアを開けて教室に入ってきた。背丈はクラスの中頃か、真新しい制服が、彼が転入生であることを示していた。少年は担任の横にやってきた。
「今日からこのクラスに転入した、柳井君です。さあ、自分で挨拶して」
少年は頷いた。そして黒板に柳・井・圭・治と大きな字を書いた。書き終わると振り向いてあたりを見回した。
「今日からみなさんと一緒に勉強することになりました、ヤナイケイジです。前の学校ではケイジと呼ばれていたので、そう呼んでくれるとうれしいです。好きな教科は体育、夢は世界大会にでられるようなサッカー選手になることです。よろしくお願いします」
なんだ、ただの運動バカか、しかし、ナリは悪くないわ、そう思い、ミコトは息をついた。それは回りの、特に女子達の反応を見れば明らかだった。
「柳井君は、お父さんがお仕事の都合でしばらく外国に行くことになったので、お母さんの実家があるこちらに引っ越してきたの、そうだったよね」
「はい、祖父母と母と自分の四人で住んでます」
「柳井君、小学生にしては大人の様な受け答えね。もっと小学生らしく返事していいよ」
はい、と言って柳井圭治は担任に向かって笑みを返した。
「キャー、かわいい」
と言って担任・宮本幸子は教え子の首を絞めてゆすった。
「先生、ずるーい」
「先生、私達にも触らせてよー」
「先生、やめなよー、いやがってるだろ」
「これだから結婚できないんだぞー」
「いいぞー、イキオクレー、もっとやれー」
「しっかりしろー、三十路教師―」
担任・宮本の手が止まった。
「今、イキオクレと、三十路教師といった上田君と川村君、あなたたちは、始業式が終わったら、余っているイスと机、体育館の倉庫に運んでね。それで、柳井君はあそこの席についてね。それで、始業式が終わったら、ちゃんと席を決めましょう。うちのクラス、こんな感じだけど、はやく馴染んでね」
柳井は目を廻しながら返事した。
「きゃー、いいわ、キュートよ、プリティよ。柳井君、先生ファンになっちゃったー」
「先生ばっかり、ずるいよー」
再び教室が騒がしくなった。ミコトは小さく笑った。