土偶との遭遇
一人と一匹は、黙って明るい方向へ歩いた。ずいぶん歩いた気もするし、全然歩いてない気もするが、ミコト達はともかくも光へ近づいた。光はずっと見続けても大丈夫なくらいの程度であった。光の中には影があって、光に近づくに従ってその輪郭ははっきりしてきた。
土偶!今日倉庫で見つけたばかりの土偶がそこにいた。
光の中に、土偶はいた。土偶に後光が差している、ようにミコトには見えた。神様、仏様ならわかるけど、土偶様に後光は似合わないなあ。それにしても、コレと話はできるのだろうか?できるのなら話してみたいなあ!そんなミコトの想いに答えるかのように、声が聞こえて来た。いや、聞こえて来たというより頭の中に響いてきた、という表現が良いかもしれない。小鹿は何も反応していなかったからだ。
“ワガミヲ・ヒトツキノ・ヒカリニサラセヨ……”
あれ?このセリフ、どこかで聞いたような?
“ワガミヲ・ヒトツキノ・ヒカリニサラセヨ……”
ああ、これ見つけた時に聞こえて来た声だ。この土偶からだったのか。ミコトは問いかけることにした。
「あなたは何者なの?どうして土偶なのに言葉を喋れるの?何のためにつくられたの?」
ミコトのなぜ・どうしての問いに、こだまのように遅れて返答があった。
“ソナタ二ハ・ワラワノコエガ・トドクノカ?ソナタ二ハ・ワラワノコエガ・トドクノカ?トドクノカァァァ……・”
夢の中なら、土偶が喋るのもアリだなあ、でも、それなら小鹿が喋ってもいいんじゃない?でもここは話ができるモノとの会話が先だ。
「あなたの声は聞こえてますよー、あなたはナニモノなの?」
“ワレヲ・ナニモノ・ト・トウ・ソナタ・コソ・ナニモノ・ゾ?”
「え?いま、なんて言ったの?よくわからないよ」
“ヨク・ワカラナイ?コトノハ・ノ・ヒビキ・ガ・チガウ・ヨウダ・スコシ・マタレヨ……ア・ア・ア・アーアーアー”
土偶は音、ミコトの耳には聞えないのだが頭の中で響いているので音といってもいいだろう、ともかくも音の調子をいろいろいじった。まるでラジオの波長を合わせるように。
「アー、アー、あー、あー、あ、と。これでどうカナ?ワラワのコトノハが少しはわかるようになったカ?」
コトノハ?コトバのことかしら?
「ワラワに何者か、と問うそなたは何者ジャ?」
ワラワって私って言ってるのかしら?
「マズ、そなた、ナをナノラレヨ」
いつの間にか、土偶の“音”がはっきりと“声”となって聞えた。名を問われてミコトは名乗る。
「私、ミコト」
「ミコト……何のミコトカ?」
姓を問われた、そうミコトは思った。
「ヒノ・ミコト」
「ヒノミコトか、良きナジャ。イニシエの世にいたモノドモと同じナジャナ」
ヒノミコト全部が名前と思われているのかな?イニシエって古いって意味だっけ?そう言えば、あの本に書いてあった神様の名前は何とかのミコトが多かったなあ。イザナミ・イザナギノミコトとかスサノオノミコトとか。でも、あのミコトはたしか命って書いてミコト、と読ませていたし、別の本だと尊と書いてミコト、と書いていたなあ。
「私、美しく古い都、って書いてミコトって読むの。あなた、漢字わかるの?」
「カンジとは、大陸から来た文字のことジャナ。もちろんわかるゾ。文字はコトノハを忘れないように記されたモノ。しかし、ヒノミコトヨ」
言葉を一旦切ってから土偶は話し続けた。
「ナに大事なのは“ヒビキ”ジャ。ウツツのヨではナが遠くまで響くほど、良きナとナル。とはいえ、美しく古き都、これもなかなか良い響きではないカ」