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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第1章 遮光式土偶はかく語りき
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おやすみなさい


 モノが少ないとはいえ、猫台風一過の後は散々なものだった。本棚にあった大きめの本、例えば図鑑や事典はその大きさゆえに無事であったが、そうでない文庫本やコミックの類は猫の手が入り、床に落とされた。文庫本は父親が毎週一冊づつ買ってくれるもので、読んだ後に感想を言わされるのであった。面白い週は良いのだが、面白くない週は全然読み進められないのであった。最近のお気に入りは[日本神話体系]というタイトルだった。ウチが神社なんだから、日本の神様ぐらい知っとかなくっちゃあ、と思ってミコトは読み始めた。これが意外にはまった。最初に出てくる神様が柱だったなんて、なんて奇抜な発想だろう!ミコトは繰り返しこの本を読んでいる。


 その他に落ちていたのは、花の挿されていない花瓶、目覚まし時計、明日使わない教科書、箱から飛び散ったティッシュペーパー。部屋の主は、すぐに片付け始めた。こういうことは、放っておくと散らかったまま片付けたくなくなるものだ。そうミコトは母親に教わってきた。そういうものか、そうミコトはその教えをまるのまま飲み込んでいた。


 一旦片付けをやり始めたら、あとは勢いでやっていくの、母親の教えが頭の中に響く。捨てられるものは捨てて、あるべき場所があるモノは元の場所に。テキパキと動いていき、やがて全て片付いた。花瓶に花が活けてなかったのは幸いだった、ミコトはそう思う。水が入っていたら、床は水浸しになるわ、本は濡れるわで大変になるところだった。



 ミコトは一息ついた。椅子に座り、机の上に置いていた土偶を取り上げる。おスミちゃんに引っ掻かれた跡がないことをミコトは確認した。


「よかった……」

それにしても、ミコトは思う。おスミちゃんはどうしてあんなに暴れちゃったのかしら?この人形を見た途端おかしくなったみたいだけど、これが何かしたの?ミコトは両手で土偶を取ってまじまじと見つめた。


「どうなの?君。君のせいなの?」

無論、土偶からは返事がない。


「返事なし、と。当り前か……」


 ミコトは土偶を机に置くと、大きく伸びをした。ついでに欠伸も。ミコトは目覚まし時計を見た。時刻は午後八時になろうとしていた。ミコトはいつもは午後九時には就寝する。今日は小学校の始業日で、初日から遅刻しそうになった。朝から一生懸命走ったし、もう眠くなっちゃったなあ、ふぁーあ。もう一度、大きな欠伸をすると、ミコトは部屋を出た。両親にオヤスミの挨拶をするために。

ミコトは居間に行った。母親はそこにはいなくて、代わりに父親が猫二匹と遊んでいた。テレビを付けっぱなしにしているところをみると、上の空で猫と遊んでいることが分かる。あるいは、上の空でテレビを見ているのか。


「パパー、私もう寝るねー」

「オヤスミ、今日は早いね」

「うん、今日から学校が始まったしねー、ママはどこ行ったの?」

「ママは、今お風呂だ、パパから言っておくよ、ミコトはもうオヤスミだって」

「お願い、それじゃあ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 ミコトは居間を出て自分の部屋に入ると、一直線にベッドに潜り込んだ。この部屋にある唯一のフワッフワなモノにくるまれ、この部屋にある唯一のモッコモコなモノに頭を預けて、ミコトは大きく息を吐いた。ああ、気持ちいい。お布団今日干してあるんだ、有難うママ、いい気持ち……。ミコトは布団の感触を楽しんでいる間に眠りに落ちていった……。



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