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ミコトのドーグー!  作者: あいうわをん
第1章 遮光式土偶はかく語りき
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クロネコ、大暴れする

ミコトは説明に書かれていることをただ読んでみた。すると、しびれを切らしたのか、黒猫が机の上にジャンプしてきた。


「うわ、こんなところまで跳び移れるの?おスミちゃんは、あわわわ、だめだって、それ引っ掻いちゃ!」


黒猫は土偶を目の敵のようにガリガリ引っ掻こうとして、この部屋の主に持ち上げられた。

「どうしたの?おスミちゃん?そんなに興奮しちゃって……」

黒猫は、全身を固くして、なおも両手で獲物を引っ掻こうとしている。


「しょうがないなあ、もう」

部屋の主は、猫を床におろし、本棚に置いておいた猫じゃらしを手に取って振り向いた。


「さあ来い、おスミちゃん!」

床に降ろされた黒猫は、若さゆえか、土偶にあてられたのか、元気いっぱい、というより狂ったように部屋中を駆け回った。もはや、カノジョはいつものターゲットである猫じゃらしを見ていなかった。興奮しているせいか、ミコトの声も届かない。


「おスミちゃん、どうしちゃったの?」

おスミちゃんは部屋をぐるぐる走り回った後、再び机の上に飛び乗ってきた。


「あ、こら!」

ミコトは手にあったネコじゃらしを放り投げ、土偶に再び挑みかかる黒猫を捕まえた。


「もう!悪い子は私の部屋に入れてあげません!」

暴れ猫を小脇に抱え、猫のご主人は部屋を出ていく。どこに連れていくのがいいか、ミコトは考え歩いた。おユキさんなら、何とかしてくれるかな、おユキさんどこー?

おユキさんの行方はすぐに知れた。ミコトが抱えている猫とは異なる鳴き声が居間の方で聞こえてきたからだ。ついでに猫でない猫の鳴き声も聞こえる。居間のドアは開いていて、ミコトはするりと部屋に入ることができた。探していたお方は、母親と猫語でしゃべっていた。ように、ミコトにはみえた。



「あら、ミコト?どうしたの、おスミちゃんと遊んでたんじゃなかったの?」

「それが、このコ、興奮しちゃって、暴れだしちゃって、手に負えないの」

「だから小脇に抱えているの?なんかぐったりしていない?」

「お、ちょっとは落着いたかな?」


ミコトは、先ほどまで大暴れしていた猫をそっと床に置いてみた。黒猫は、ついさっきまで大暴れしていたのが嘘のように大人しくなっている。



「あらあら、借りて来た猫みたいになってるじゃない」

「猫って貸し借りされていたの?」

「そうよー、猫はその昔この国にはいなかったの」

「どうして来たの?」

「昔の人がお米を食べるようになったころ……」

「ちょっと待って、猫とお米と何の関係があるの?」

「お米って、栄養があって、長いこと蓄えられるでしょ?その蓄えられたお米を狙って鼠が来るの」

「そうか、鼠を捕まえるために猫を使ったんだ」

「ところが、その時この国には猫がいなかった……さて、ミコトならここでどうする?」

「いるところから連れてくる……でも、猫にはずっといてもらいたいから、借りてくる、じゃなくて、貰う、が正しいんじゃないかな」

「そうね、後で返しますよって言えるほど、簡単には行ったり来たりできないしね」

「貰って来た猫、いやいや、連れて来た猫っていうのが正解なの?」

「いいえ、それでも、借りて来た猫、って言い続けられているの。猫の貸し借りは、猫がこの国にやって来てからも続いたみたいね」


 ミコトは曖昧に返事をした。ミコトはおスミちゃんを見返した。いつの間にか、おスミちゃんの前にはおユキさんが毅然と、そう背筋を伸ばして凛として立っていた。その姿を前にして、おスミちゃんは頭を垂れて、しょんぼりしていた。まるで、経験豊富な女教師に叱られている女生徒といったようであった。


「あら、おスミちゃん、おユキに怒られているわね」

「ママにもそう見える?」

「見えるも何も、ねえ」


 白いベテラン教師猫は、一声も鳴かず、時おり右手、というより右前足を床に叩いていた。黒い女生徒猫はひたすら頭を低くしている。猫二匹は、しばらくその状態を続けていた。人二人は固唾を飲んでそれを見守っていた。


 やがて重々しく老教師は一鳴き。


「おユキ、それくらいにしといたら?」

その場にいた人のうちの年長の方が、その場にいた猫のうちの年長の方に提案した。年長の方の猫はもう一鳴きして、年長の方の人に向かって歩き出した。どうやら年下の方の猫は許して貰えたらしい。同じ方向に歩いて行った。


「じゃあママ、おスミちゃんをお願い。私、明日の準備をするから」

暴れん坊猫を年上一人と一匹にに押しつけて、ミコトは部屋に戻った。ママは猫二匹でどんな遊びをするのだろうか?気にはなったが、猫台風一過の自部屋も気がかりだ。


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